67.迷宮前の、戦い。
迷宮前広場に作った防衛陣地の前に、ついに悪魔たちが降り立った。
超加速で接近したカラス魔物は、着地すると同時に、悪魔へと姿を変えていた。
降り立ったのは………
『爪の悪魔(中級)』レベル59 一体
『赤の悪魔(中級)』レベル52 一体
『緑の悪魔(中級)』レベル50 一体
『赤の悪魔(下級)』レベル35 二十体
『緑の悪魔(下級)』レベル38 二十体
『白の悪魔(下級)』レベル39 三体
『小悪魔インプ』 レベル15 六十体
悪魔を中心とした少数精鋭の部隊であった。
「ここは一歩も通しません。命が惜しくなければ、かかってきなさい!」
アリリが前に進みながら挑発する。
「ホホホ、魔物風情が何を言っている。アンデッドたちはどうしたのだ? ここに来るまでも全く見なかったが」
「アンデッドなど、とうに“我が君”に討ち滅ぼされておるわ!」
「何! ……アンデッドがいないのか……。ハハハハハハ………愉快、愉快、愉快、あの煩わしいアンデッド供がいないとなれば、障害など無きに等しいではないか………。それにしても何者がアンデッドどもを葬ったというのだ………。にわかには信じられんな………まさか! ……やはり霊域のマスターが生きていたのか? 」
「あなたは、マスターのことを知っているのですか? 」
“マスター”という言葉に、フラニーが奥から飛び出してくる。
「なに! ……ということは………やはりあのマスターが霊域に戻ったわけではないのか………。まぁ確かに我が斬り裂いてやったからなあ。生きていることなど有り得ぬことと思っていたわ」
「おのれ……お前がマスターを殺したのか……」
フラニーが、感情を露わにする。
怒りに打ち震える。
「ああ、そうだ! いかに霊域のマスターといえど、ヒッヒ、騙し討ちではどうしようもあるまい……我の麻痺にかかって動けるものなどいないのだからな………」
「おのれ……マスターをよくも……」
話を聞いていた霊獣たちが、歯嚙みする……
一斉に構えをとり、怒りを滾らせる。
「まぁ良い……敵を討ちたいのなら、いくらでも受けてたつぞ……煩わしいアンデッドどもがいないのなら……遊んでやるわ………。待てよ…アンデッドどもを倒したのは誰なのだ……その者が霊域の守護力を発動したとでもいうのか? 」
「貴様などに“我が君”のこと、一片たりとも教えてやらぬ! 潔く討ち滅ぼされるが良い! 」
「ハハハ………我に勝つつもりでいているのか……まぁいい…… 話す気がないのならば、後でゆっくり痛めつけて聞き出してやるわ……」
そう言うと『爪の悪魔』は一番奥へと下がった。
ゆっくり楽しむつもりらしい。
大森林の仲間たちは一斉に動き出す。
最初に動いたのは『ライジングカープ』たちだ。
一直線に『爪の悪魔』を目指す。
「前オーナーの仇はうちらが取るし! マジ許さねーし!」
『ライジングカープ』のキンちゃんを先頭に他のメンバーが続く。
しかし、その行く手を『赤の下級悪魔』たちが塞ぐ。
これに対しキンちゃんは、勢いを殺さず攻撃を仕掛ける。
「秘技! キンちゃん走り!」
そう叫ぶと同時に……
——突然、体を横に向けると、横向きのまま前方に泳ぎだした。
鯉のぼりぐらいの大きさのキンちゃんが横向きに進む姿は、まるで丸太で横薙ぎにするような形となり、行く手を塞ぐ悪魔たちを薙ぎ払っていく。
突進する大型重機のような凄まじいパワー攻撃だった。
この技は、彼女が固有スキル『ランダムチャンネル』で得た情報を基に、閃いた技で、密かに特訓していたものだった。
キンちゃんは、実は誰よりも努力家であった。
特殊な感性を生かした工夫と、それを身に付けるための訓練を常に欠かさないのだった。
この技を彼女の主人が見たら、感心しつつも、『“キンちゃん走り”って……走ってねぇし! 』と突っ込んだに違いない。
この攻撃で弾き飛ばされた悪魔たちを、他のカープ騎士たちが、種族固有スキル『水芸』を使った
放水を極限まで収束させた細い水の刃が、『赤の下級悪魔』たちを穿ち、そして斬り付ける。
そして、カープ騎士たちは、周辺から押し寄せてくる小悪魔『インプ』たちをも蹂躙する。
全員で練習した必殺技だ。
「「「なぎ払いバッティング!」」」
全員でそう掛け声をかけると、寄ってくるインプに対し、尻尾でのなぎ払い攻撃をする。
体全体のバネを使い、まるで自分をバットにしたかのように打撃する物理攻撃だ。
インプたちはホームラン性の打球となって、はるか遠くの空に飛び、爆散して消失する。
本来なら死骸が残るはずの『小悪魔インプ』も、あまりの衝撃……“打ち込まれたエネルギー”に粉々になってしまったのだ。
キンちゃんたちと同時に、アリリも動いていた。
アリリも『爪の悪魔』を目指していたのだ。
だが、やはり同じように立ち塞がる者たちがいた。
『緑の下級悪魔』たちだ。
アリリは、部下の『マナ・アーミー・アント』たちと、『マナ・タートル・ アント』たちを呼び寄せる。
この二種のアントたちはレベルが25前後であり、レベル38の『緑の下級悪魔』たちの方が格上である。
しかし、この時のために訓練していた格上相手用の二体一組のフォーメーションで臨むのだ。
『マナ・タートル・ アント』が盾を使った壁役となり、『マナ・アーミー・アント』が攻撃するというフォーメーションである。
『マナ・タートル・アント』は、『タートルアント』という蟻が魔物化したものである。
『タートルアント』は、樹に巣穴を作り、外敵が侵入しないように、大きな盾状に変形した頭で入口を塞ぐという天性の守り手なのである。
魔物化により強化された彼らの頭すなわち盾は、鉄壁の防御力を誇っているのである。
『マナ・アーミー・アント』は、『軍隊蟻』が魔物化したものである。
『軍隊蟻』は集団で進軍し、通り道にあるものは全て狩り尽くすといわれる密林の掃除屋である。
この中でも、特に戦いに特化した兵隊アリは、巨大で鋭い鎌状の顎を持ち、動物の皮膚も軽く食い破れる力を持つ。
今回、『マナ・タートル・アント』とコンビを組むのは、『マナ・アーミー・アント』の中でも、精鋭の『マナ・アーミー・アント<ソルジャー>』である。
魔物化により強化された彼ら兵隊アリの鎌顎は、如何なるものも食い破る鋭さと強靭さを持っていた。
これら二種のアントたちのコンビネーションは、まさに最強の矛と盾であった。
物理攻撃力に優れた『緑の下級悪魔』たちは、各所で対峙するアントコンビを力任せに殴りつけるが、『マナ・タートル・アント』の盾に阻まれる。
体格差で、吹き飛ばされそうなものだが、種族固有スキル『
このスキルは、物理攻撃に対して、威力を半減させる効果があり、カウンターの『
殴りつけたはずが、逆に押し返される形でバランスを崩した『緑の下級悪魔』の隙をつき、今度は攻撃担当の『マナ・アーミー・アント』が種族固有スキル『
二種のアントのコンビネーションは、次々に『緑の下級悪魔』たちを屠っていき、アリリの進む道を見事に切り拓いていった。
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