27.突然の、襲撃者、迷宮の浄魔達のターン。

 地鳴りとともに近づく気配……


 これは……



 ケニーは安堵した……

 そう、現れたのは強力な援軍だった。


 マナテックス大森林のほぼ中央部にあるテスター迷宮。

 その地上部を守る『マナ・ウルフ』たちと『マナ・イーグル』たちが、救援にやってきたのだ。


 彼らは、彼らの主人により、遊撃部隊として 独自行動の権限を与えられていた。


 彼らは、主人の指示があった瞬間、ケニーの救援に向かうことを決断した。

 仲間を助けたい、そして何よりも主人の役に立ちたい。

 戦ってこそ、それが果たせる。

 そう即決したのだ。


 そして、全速力でこの戦場に駆けつけたのだった。

 長距離をものともしないタフな走りと飛行で、最短でたどり着いていた。


 ケニーにとっては強力な援軍だった。

 状況的に、この遊撃部隊に救援を頼もうかと思っていた矢先だった。


(ケニー殿、空の魔物は私たちにお任せを!)


『マナ・イーグル』たちのリーダー、『マナ・ダガー・イーグル』のワシシが、そう念話を送りながら敵陣に突っ込む———


(地上の魔物どもは、我らにお任せを!)


『マナ・ウルフ』たちのリーダー、『マナ・ファング・ウルフ』のウルルも、戦場に突入する———



 『マナ・イーグル』たちがいれば、空の魔物たちの対処が楽になる。


 『マナ・イーグル』たち十体は、すでに、カラス魔物たちに襲いかかっている。


 カラス魔物たちもくちばし攻撃で応戦するが、『マナ・イーグル』たちは素早い動きでかわすと、鋭い爪で黒羽を切り裂いている。


 スピードが優位となる空中戦において、カラス魔物たちでは『マナ・イーグル』たちの相手にはならないのだ。


 『マナ・イーグル』たちはレベル18前後で、レベル23前後のカラス魔物たちより低いが、全く苦にしない。

 レベルだけが全てでないことを証明している。


 そして、リーダーのワシシともう一体の『マナ・ダガー・イーグル』が敵陣奥に突っ込む———


 並ぶようにして翼を広げると、次の瞬間、無数の羽根が鋭い短剣ダガーとなって発射される。


 超加速した羽根短剣ダガーが広範囲に突き刺さり、空中の魔物たちが大きく数を減らす。


 これは、彼らの種族固有スキル『フェザーダガー』だ。


 レベル30超えの彼らにとっては、蛾魔物はもちろん、カラス魔物でも格下でしかない。


 十体の『マナ・ウルフ』たちは、レベル15前後と低めだが、格上相手でも怯むことは無い。

 もともとハンターであり、群をなして巨大な敵を攻撃する集団戦法が得意なのだ。


 『マナ・ウルフ』たちの速い動きと洗練された集団戦法に、敵の魔物たちは大混乱ている。


 リーダーのウルルともう一体の『マナ・ファング・ウルフ』は、上空のワシシたちに負けじと、地上の魔物たちの敵陣深く疾走する———


 彼らの通った後には、二本の道ができる———


 触れられた魔物たちが吹き飛ばされ、血飛沫を降らせている。


 『マナ・ファング・ウルフ』の鋭利な牙『剣牙』により、すれ違いざま斬りつけられたのだ。


 本来なら、強烈な顎の力を活かした噛みつき攻撃の武器なのだが、その長さと鋭さを生かした発展技であった。


 種族固有スキルである『剣牙』は、攻撃の時に長く伸ばすことが可能なのだ。

 彼らも、ワシシたち同様レベル30を超えており、戦場を支配するにふさわしい力を持っていた。




  ◇



「はあ……どうしたものか……わらわにできることはないものか……」


 テスター迷宮地下三階では、『マナ・クイーン・アーミー・アント』のアリリが、ため息を漏らしていた。


 アリリは思う……


 このテスター迷宮がある『マナテックス大森林』は、今、魔物の侵攻を受けている。


 ケニー殿の指揮のもと、大森林の仲間たちが戦っている。


 できることなら、すぐにでも応援に行き、一緒に戦いたい。


 だが、“我が君”の命により、ここを離れるわけにはいかぬ……。


 そう迷宮の守護責任者として、外敵の侵入を許してはならぬのじゃ……。


 ……しかし、今のところなんの動きもない。

 全く平和そのものじゃ。


 地上一階を守るウルフたちや二階を守るイーグルたちは、独自判断を許されて、すぐに戦場に向かってしまった。


 妾は、そのフォローとして、地下二階の蜂の浄魔であるワプスたちを地上二階に配置し、一階部分には直属の配下の『マナ・アーミー・アント』たちを配置した。


 こうやって留守を守ることしかできぬ……


 妾は、もっと“我が君”の役に立ちたい……


 “我が君”は、人族でありながら不思議な魅力のあるお方であった。


 初めて見て以来、“我が君”のことばかり考えてしまう……

 あの優しい声……

 あの麗しい笑顔……


 ついこの間まで、戦う本能でしか生きていなかった。

 心というものを、意識したり、考えたりすることなど全くなかったのじゃ。


 それが今では、あのお方のことを思うと……

 胸の辺りが締め付けられるような苦しさを覚える……


 はあ……この気持ちはなんなのじゃ……


 あーまた……

 

 “我が君”のことを思うと……

 産気づいてしまう……突然卵を産んでしまうのじゃ……


 “我が君”と会ってから、まだ二日と経っていないというのに、もう五回も産気づいてしまったのじゃ。


 この調子なら、毎日朝昼晩と“我が君”のことを想う度に産んでしまいそうじゃ……


 …………………………………

 ……そうか……これは………

 ……わかったのじゃ!


 迷宮の守護責任者として自由に動けない妾にできることは、卵を産んで戦力を増強すること、それこそが“我が君”の役に立つ方法じゃ。

 ……そう……妾にしかできない……うふふ……。


 そうと決まれば、毎日好きなだけ“我が君”のことを考えるのじゃ。

 そして卵を産み続けよう……。


 “我が君”よ、妾は、あなたのために全力で産み続けます!



 アリリは、完全に変な方向にスイッチが入ってしまったのだった……


 このことを彼女の“我が君”グリムは知る由もなかった…… 。





  ◇



 ワシシやウルルたちの救援のお陰で、一気に戦局が好転してきた。


 ケニーにも、多少心のゆとりができてきた。


 魔物たちの波さえ収まればしのぎ切れる。

 まだ、途切れているわけではないが魔物たちの勢いが落ちてきている。


 このままいけば、新たな魔物の補充が終わるかもしれない。

 今見えている範囲だけの魔物なら、なんとか誰も死者を出さずに守りぬけそうだ。


 そんな分析をしていたケニーに嫌な気配が伝わる……


 この気配はなんだ……


 魔物たちの後方から大きな魔物がやってくる……

 地上から十体程度……

 空からも……数体近づいてくるようだ。


 前線の仲間たちに、念話で警戒を呼びかける。



 ケニーは、『視力強化』スキルを使って、目を凝らす———


 そして、見えてきた魔物に衝撃を覚える。


 それが三メートルを優に超える巨大な『コカトリス』だったからだ。


 『コカトリス』はケニー同様、動物が変質した魔物ではなく、元からの魔物『オリジン』である。


 そのくちばしを受ければ石化することで有名な魔物だ。


 石化して砕かれ食べられてしまえば、もう回復することはできない。

 石化された時点で、ほぼ死は確定なのである。


 『コカトリス』はレベル35程度であり、レベル的にはケニーにとっては問題にならない相手だ。


 しかし、その特殊能力 により全く油断できない相手なのだ。


 それに、ケニーの仲間たちにとっては、レベル自体でも充分脅威の魔物である。


 それが地上から十体爆走してきている。

 他の魔物たちを蹴散らすように。

 何かに攻め立てられるように。


 さらにケニーを驚かせたのは、通常、飛べないはずの『コカトリス』だが、飛ぶ個体が五体も空から迫っていることだ。


「これはまずい……」


 ケニーに再び焦りが生じる。

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