《最終章第4部 ~英雄たちの最前線~》前編
「申し上げます! 戦線が突破され、敵軍は城門の前まで来ています!」
ノルデン王国の王城、玉座の間にて若き王スノーデンは兵士からの報告を聞き、動揺する。
「まことか……?」
「はっ。現在東門はタオ様率いる武闘軍が、西門ではライラ様率いる魔導士団が食い止めております」
「そうか……」
数日前、隣国のヴェクセン帝国から突然宣戦布告を叩きつけられ、二日前に開戦した。強大な軍事力を誇るヴェクセン帝国に対してノルデン王国は兵も武器も少ない小国故、容易に戦線は突破された。
そしてここ玉座の間でも砲撃音が絶え間なく聞こえる。
…………魔王討伐の英雄ふたりがいるのだ。しばらくは持ちこたえられるだろう。だが……
「安心は出来ないな……ここが正念場か」
「王、今こそご英断を」
王の隣で歴史学者のモリブソンが進言する。
「うむ……」玉座の肘掛けを掴む手に力が入る。
スノーデンは目を閉じ、最前線で食い止めているふたりに思いを馳せる。
「開門だ! はやく城門を開けろ!」
勇者一行のひとりであるタオが負傷した兵士に肩を貸しながら声を張り上げる。
すぐさま城門が開かれ、すぐさま城内へと入ると後ろで城門が閉じられる。
「タオ殿! よくご無事で……!」
道着を着た兵士がタオに駆け寄る。
「前衛部隊は全滅だ……やつらの武器が桁違いだ……」
剣と槍、弓といった昔ながらの武器で最新兵器の
ましてやタオ率いる武闘軍は徒手空拳だ。前線があっという間に後退したのも無理はない。
突然、閉じられた城門が激しく響く。
門の向こうでヴェクセン帝国の兵士が破城鎚で門を破ろうと何度も叩きつけているのだ。
「も、もう城門が保ちそうにありません!」
「怯むな! ここで食い止めないと死者が増えるぞ!」
兵士たちが必死に城門を押さえる。
だが諦めたのか、ぴたりと嘘のように治まった。
「諦めたのか……?」
「頑丈な門だからな! やつら手こずって……」
突如の爆音は門を吹き飛ばした。城門を押さえていた兵士の体は四散し、ぶすぶすと煙を立ててぽっかりと空いた穴からは大砲の砲口がこちらを向いていた。
タオが瓦礫を払いのけて立つと咳をする。傍らには担いできた兵士が横たわっていた。
「しっかりしろ! 大丈夫か!?」
兵士が呻きながら目を開ける。
「師範……どうして、こんなことに……?」
「しゃべるな! 気をしっかり持て!」兵士の手を握って励ます。
「おれ……もっと、師範に稽古つけて……もらい、たかっ……た……」
そのままがくりと息絶える。タオが兵士の目を閉じてやる。
城門から小銃を手にしたヴェクセン兵士がわらわらと蟻のように攻め込んでくる。隊長らしき男がタオを指さして攻撃するよう指示を飛ばす。
站ッ!
鍛えられた跳躍力でタオが高く飛び上がると、ヴェクセン兵士たちの中心、隊長のもとに着地した。
ヴェクセン兵士は突然の事態に狼狽え、銃を構えようとする。
「バカ、撃つな! 相撃ちにな」と叫ぶ隊長の顎がタオの肘鉄で砕ける。
「ひぃっ!」と叫ぶ兵士の小銃を引ったくるとそのまま銃床で
兵士が倒れる間に
「ふぅぅぅっ!」
一息つく間もなく城門から新たに兵士がなだれ込む。先頭の兵士がタオに狙いをつけようとするが、タオの投げた小銃で防がれる。次に兵士が見たのはタオの膝頭だ。
ぐしゃりと鼻骨の砕ける音がしたかと思えば次の瞬間には数人の兵士が徒手空拳の餌食になった。
蹴、転、防、撃、掴、投……突ッ!
投げ落とした兵士からとどめの貫手を抜く。
「はああああ!」
呼吸を整える。これまでの戦闘で疲労は極みに達しており、両足ががくがくと震えている。
新たに装填された大砲の砲口がタオに向けられる。
ここまでか……!
ぎりっと歯噛みする。
だがタオの横をなにかがよぎったかと思った瞬間には火矢が砲口を貫き、火薬に引火して爆音とともに炎上した。
「タオ師範! ご無事ですか!?」
振り向くと弓を構えた後衛部隊の兵士がこちらにやってくる。
「おまえら……!」
「遅くなりました!」
「ここは我らにお任せを! 師範はライラ殿のもとへ!」
聞けば西門にいるライラたちが苦戦しているのだそうだ。
「この馬をお使いください!」
「すまん! 恩に着るぞ!」
手綱を受け取るとタオはひらりと馬にまたがり、すぐさま西門のほうへと走らせる。
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