性悪

ここは路線バスの中。

始発駅から乗った。

車内はガラガラ。

前から3番目の1人席に座った。

窓の外を見る。

目をパッチリ開けて、景色を見ている。

バス停に止まる。

人が乗ってくる。

発車する。

それが何回か繰り返されたところで、席が全部埋まった。

また、バス停で停車した。

ここで1人の老婆が乗ってきた。

杖をついてゆっくりと歩いてくる。

この席の、目の前に立ちそうな雰囲気。

首を前に倒して、寝たふり。

こうするしかない。

目を開けていては、席を譲らないと非人格者扱いになる。

また、譲らないにしても、最低限「どうぞ」と声をかけなければ非人格者扱いになる。

そんな日本社会の感性に、私の性格はついていけない。

譲りたい気持ちはある。

でも、「どうぞ」が言えない。

それは勇気がないからではなく、偽善者を装う自分の姿に耐えられないから……。

偽善をしたって、どうせ、すぐに見抜かれるし、後味も悪い。

私だって好きでこんな人間に生まれたわけじゃない。

もともと日本人は自分さえ良ければ他人がどうなろうが知ったこっちゃない民族だ。

寝てるんだ、眠いんだ、悪くないんだ。

まだ、老婆は横に立っているのかな?

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