駅に降り立って
まだ、肌寒かった3月。
あの日……、初めてこの駅に降り立った。
知らない土地の空気を吸ったのは、このときが初めてだった。
目に飛び込んだ光景の鮮度は、新鮮そのものだった。
高鳴りを抑えられず、心が躍った。
そう、ここには夢があった。
絶対にここで成功するって覚悟を決めていた。
私には逃げる場所も、戻る場所も無い。
このときは、もし、失敗したらどうしようか……という恐怖は無かった。
19歳だった。
全身が活気に満ち溢れていた。
あのとき見た駅の人々、改札口、構内アナウンス、足音、話し声、全て昨日のことのように覚えている。
殻から脱出した瞬間だと捉えていた。
生きがいを求めた最初の1ページだと捉えていた。
あれから何十年が経過しただろうか?
結局、1ページもめくれていない。
何も無かった。
何もつかめなかった。
何も待っていなかった。
今、疲れ果てた私が、同じ場所に立っても、何も感じない。
ただ、何もできずに時間だけが過ぎてしまったのかと思うと、もう、何も考えられない。
私の存在は何だったのか……。
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