千三十三話 プロ意識はないが

「…………」


「大丈夫ですか、ソウスケさん」


「……あぁ、大丈夫だ」


指導依頼を受けたソウスケ。

依頼は明日から始まるため、まだ依頼者である貴族には出会っていない。


現在、ソウスケたちはカフェで昼食を食べていた。


「はぁ~~~~…………まぁ、そうだよな。あの状況、あの場所を考えれば貴族の関係者が見ててもおかしくない、か」


「やはり、貴族と関わることは避けたかったですか?」


「……この前、ザハークを欲した子供に対して思いっきり上から叩き潰したから、今更な話であるのは解ってる。解ってるんだけど……うん、正直な話面倒だと思ってる」


ソウスケ的には、前回の一件では珍しくスイッチが入ってしまった状態だった。

だからあれほど子供相手に力の……もとい、財力の差を思い知らせた。


「だってさ、その……俺がバカな酔った冒険者をぶん投げて、自分も強くなりたいって思って依頼してくれた令息の子は良い子かもしれないよ。でもさ、その子の家に仕えてる騎士とか魔法使いたちは面倒な存在かもしれないじゃん」


「…………否定は出来ませんね」


リーダーがどういった面倒事を心配してるのか、ずっと旅をして来たミレアナは手に取るように解る。


「だろ! 普通なら美味しい依頼なんだろうけど、今からテンションだだ下がりだ」


二十日間の拘束期間があったとしても、白金貨三枚という大金が手に入らい依頼。


上級冒険者と言える者たちでも……思わず小躍りしたくなる金額。


「ですがソウスケさん、今回依頼してくれた子の親から優秀だと認めてもらえば、この世界でも冒険しやすくなると思いますが」


「何かあった時、力になってくれるかもしれないな……そっか、そうだな」


「そうですよ。ソウスケさんの力があれば、私やザハークがいれば確かにそこら辺の貴族を潰すことは出来るでしょう」


サラッと恐ろしい事を口にするハイ・エルフだが、それをソウスケは特に否定しなかった。


「しかし、ソウスケさんは貴族と喧嘩したい訳ではないでしょう」


「勿論。仲良くしたいって言うか……うん、何かあった時の為に仲良くしたいってきもてゃあるけど、基本的に関わらない事に越したことはないと思ってる」


「私も同じ感覚です。ですから、今回は万が一の時に使える戦力を獲得する。そう切り替えるのが一番かと」


「……そうだな。切り替えは大事だな」


「面倒が来た場合、ザハークに全て任せてもありだと思いますよ」


「あぁ~~~……そう、だな~~。ザハークには悪いけど、全部任せちゃおうかな」


考えることが面倒になってきたソウスケ。

後で美味い料理を大量に奢れば良いとは考えているが…………今のソウスケの頭には、面倒という単語しかなかった。


(…………ちょっとヤバいな。流石に面倒って感情が大き過ぎる)


冒険者の中にプロ意識を持っている者は……そう多くない。

それが、冒険者たちがならず者と呼ばれる理由にもなるのだが、ソウスケもそこまでプロ意識というものは持っていなかった。


しかし、依頼を受けた以上……仕事をする以上、いい加減に対応するのは良くない。

それぐらいの心構えは持っていた。


(つ~か、せめて俺があのバカ酔っ払いをぶん投げるところを見ていた令息が、どういった戦いをするのかとか、そういう部分を聞いとけば良かったな)


指導依頼なので、基本的に指定期間の間、指導すればそれで問題はなく、依頼達成となる。

依頼書には、どういったレベルまでの強さを身に着けたら……という内容は記されてない。


(でも、こういう依頼をしてきたって事は、少なくとも強くなることに意欲的ではあるんだよな? …………ダメだ、一人で考えててもあんま良い内容が浮かばない)


ソウスケは素直にパーティーメンバーであるミレアナに頼り、二人でどういった訓練内容にするか話し合った。


その間……ザハークは店の外で待っていたため、腹が減る度に店の料理を注文。

カフェの料理ということもあって、一皿の量はそこまで多くない。

なので、あっという間にメニュー表を一周してしまい、ソウスケたちが訓練内容についての話し合いが終わるまでに二周目までいき、カフェの会計とは思えない支払金額になった。

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