千三十一話 自己責任の下

「よし……大丈夫そうだな」


((((((((((何が!!!!????))))))))))


店の前に居た者たちは、目の前で行われた人間投げの流れが良く解っておらず、何が大丈夫なのか全く解らなかった。


(街に結界を張ってはいなかったから、ぐしゃっと潰れることはない。Cランクぐらいの冒険者だし、高い場所から落ちたぐらい大丈夫だろ)


当たり所が悪くとも、前衛として戦うタイプの冒険者であれば、ソウスケの想像通りそこそこの高さから落下した程度では死なない。


「あの、本当に助かりました!!」


「「「「「助かりました!!!!」」」」」


本日出勤していた警備員の役割も担っていた黒服たちが、揃ってソウスケに頭を下げて、礼の言葉を伝えた。


「ど、どうも。えっと……皆さんは、お怪我はないですか?」


「はい。幸いにも俺たちには怪我は有りません。ですが、その……だ、大丈夫でしょうか」


「? 俺がですか?? あの酔っ払いの仕返しとかに関しては大丈夫ですよ」


ソウスケがあっという間に暴れる男を鎮圧し、街の外までぶん投げてしまった怪力を目のあたりにし……目の前の青年? が弱いわけがないのは解る。


しかし、数の暴力や裏の腕利きの人間たちが彼を襲えば、という心配が黒服たちにはあった。


「あれぐらいであの男が死なないのは俺も解ってます。ただ、今は夜ですからね……ふふ、どうなるでしょうね」


リクールの周辺では……Cランクのモンスターが発見されるのは珍しくない。

加えて、ヴェノレイクの時の様に、ドラゴニックバレーの生存競争に敗れたドラゴンが襲来するといった例など関係無く、リクールからそれなりに離れた森の中で……Bランクモンスターが確認されたケースもある。


そんな街で冒険者として活動してるあの男は、ソウスケの予想通り全く弱くはない……弱くはないのだが、酔っ払い暴れん坊男は電撃を浴びせられた際に、金になりそうな物は全てソウスケに剥ぎ取られ……その状態で街の外にぶん投げられた。


「な、なるほど。俺たちとしては、あぁいった客が減ってくれるのは嬉しいのですが、それはそれで大丈夫なんですか?」


夜中に活動するモンスターの方が、狂暴性が高い。

そういった知識ぐらいは冒険者ではない黒服たちも知っていた。


酔っ払い男はギリギリ気を失ってはいなかったが、それなりに痺れは残っている状態。


そんな状態でモンスターに遭遇すれば、遭遇したモンスターがDランクモンスターであっても、中々恐ろしい事態に発展してしまう。


「ん~~~……五分五分ってところですね。地面に落ちた衝撃で完全に意識は覚めると思います。まぁ……ほら、冒険者って基本的に自己責任の下で活動してるので」


野次馬として集まっていた冒険者は、ソウスケと同じく嬢とのハッスルを終えてロビーに降りて途中から聞いていた冒険者たちはソウスケの言葉に……表情はバラバラではあるが、全員こくりと頷いていた。


「そういう訳なんで、色々と気にしなくて大丈夫だと思いますよ。それじゃあ」


宿に戻るソウスケに、黒服たちは再度頭を深く下げ、感謝の意を伝えた。



「ソウスケさん、今日は遠出するのか?」


翌朝、少しの間リクールに滞在しようと決めていたソウスケは、冒険者としての仕事を行う為、朝から冒険者ギルドへ向かっていた。


「適当に依頼を受けて、冒険者としてちゃんと活動してるよ~って記録を残したいだけだから、遠出はしないかな。この前みたいに気になるモンスターの姿が確認されたとか、そういう情報があればそっちを狙っても良いけどね」


街や冒険者たちからすれば最悪の放浪者ではあるが、ドラゴニックバレーの生存競争から逃げてきた個体は……その戦場から逃げたとしても、ドラゴンという生物の中の絶対強者であることに変わりはない。


故に、ソウスケたちからすれば非常に楽しめるモンスターであり、鍛冶師としても手に入る素材に喜びを感じる。


しかし……ギルドに入ったソウスケたちは、直ぐにギルドの職員に声を掛けられてしまった。

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