六百七十七話 ただ触るだけ

「ほら、お前ら。これからソウスケ君がお前らを殺すから、全力で抵抗しろよ。あっ、椅子とかテーブル、床とかを壊さない程度にな。壊したらギルドから色々と請求されるからな」


この場合はラップが請求されるかもしれないのだが、さらっと責任をDランク冒険者たちに押し付ける。


いきなりソウスケが自分たちを殺しに来ると言われ、フォルクスたちは若干あたふた状態になるが、立ち上がったソウスケの眼を見てマジだと思い、直ぐに臨戦態勢に入る。


「安心してくれ。別に痛くないからさ」


そう言うと、ソウスケは一瞬にしてフォルクスたちの視界から消えた。

そして背後から首や頭部をタッチ。


「ガァアアアッ!!!」


「良い鼻持ってるな」


波紋の表向きのリーダーである虎人族のジープはギリギリのところで、ソウスケが自分たちの背後にいると気付き、全力で剛腕を振るった。


本能が生命の危険と告げ、ジープは無意識の内に身体強化を使っていた。

その一撃が当たれば、ソウスケでも少しその場から動かされる……かもしれない。


しかし、そんな剛腕をあっさりと躱し、背後から後頭部をタッチ。

残りレイガとクリアナにも同じように急所を触り、ソウスケは自分が座っていた席へと戻った。


「ん~~~~~~……あれだな。想像以上過ぎるぜ」


「ラップの言う通りだ。伊達に三人で上級者向けダンジョンの下層を潜っていない、ということだな」


「はっはっは!!! たまげた奴だぜ!!!!」


烈火の刃のメンバーたちは目の前で実施された結果に非常に満足し、ルーキーたちの表情を見て爆笑している者もいた。


「ゆっくり思い返せば分かると思うが、今ソウスケ君はお前らの首や頭部といった急所を触った。お前らが背後を取られたって分かる前にな。ジープだけはソウスケ君が背後に回ったことに気付いたみたいだが、攻撃はあっさりと躱されて、同じく急所を触られた」


改めて自分たちがソウスケにされたことを思い出し、先程まで自分の力に自信を持っていたメンバーたちの腕には鳥肌が立っていた。


「簡単に言えば、ソウスケ君はお前らを殺そうと思えばサクッと殺せたんだよ。それに……ソウスケ君、今身体強化のスキル使ってなかったでしょ」


「はい、使ってませんでした」


「ッ!!?? う、嘘だ!!!!」


まさかの事実を耳にし、フォルクスはたまらず身体強化のスキルを使っていない、という事実は信じられないと吠えた。


「嘘だって言われてもな。本当に使ってないぞ」


「本人が言った通りだ。フォルクス、お前がどんなにソウスケ君が身体強化を使わずに自分の背後を取ったのは嘘だと吠えても、事実であることに変わりないんだよ。なぁ、オーザストさんもそう思うだろう」


「ラップの言う通りじゃな。まぁ……あれじゃ。今はまだ、簡単に埋められないほど、レベルの差があるということじゃ」


「…………」


自分より歳下に見える男が、自分よりも圧倒的にレベルが高い。

だから視界から消えた時、全く反応が出来なかった。


どうしようもない事実を伝えられたフォルクスだが、即座に反撃しようとした。

だが、それを口に出す前にオーザストが潰した。


「エルフの姉ちゃんと従魔のオーガのお陰で楽にレベルを上げた、なんて勘違いするんじゃないぞ。そう思っているうちは、まだまだひよっこということじゃな」


「ッ……ッ……」


言いたい事を潰され、フォルクスは餌を求める金魚の様に口をパクパクさせ、それを見たソウスケは思わず小さく笑ってしまった。


(あ、あっぶねぇ~~。同じ事を言おうとしちまったぜ……悔しいが、オーザストの爺さんの言う通りって事か)


獣人であるジープ……そして、天雷のメンバーであるカリンは本能的にソウスケがヤバい奴だと、ようやく認識した。


「そういうわけだ。分かったら、依頼の最中にソウスケ君の邪魔をして評価を下げようなんて考えるなよ。そんなことして評価下がるのはお前らだからな」


ラップは念の為フォルクスたちにくぎを刺し、作戦会議を再開した。

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