六百六十九話 葛藤はしたが……

「あれ、ソウスケさんじゃないですか」


「ん? おぅ、お前らか」


とある場所に向かう途中、ソウスケは自身が少しの間だけ教えた学園の生徒たちと偶々遭遇した。


「俺たちは夕食を食べた帰りっすけど、ソウスケさんはこれから何処かに行くんですか?」


「あぁ、俺も夕食食べた後にちょっとな……」


ソウスケは生徒たちの顔をチラッと見て、どうせなら誘ってみるかと思った。


(貴族の令息だけあって、皆顔が整ってるけど……あんまり遊んでるって感じじゃなさそうだな)


これからソウスケが行こうとしてるとある場所は……溜まった欲を発散する場所。


「お前ら、これから俺と一緒に来るか?」


「え、えっと……いったいどんな場所に行くんですか?」


「ちょっと耳貸せ」


ゴニョニョと何処に行くかを伝えると、四人の生徒たちは予想通りに顔を赤らめた。


「えっ!!?? そ、ソウスケさん……それ、マジですか」


「おう、マジだぞ」


ソウスケは今までそれなりに行き慣れているので、特に照れることなく本当にこれから行くと告げた。


「来るなら奢るぞ。最近結構収入が入ってきたからな」


「「「「ッ!!??」」」」


まさかのソウスケが付いて行けば、奢ってくれるという展開に四人のテンションは一気に上がった。


だが、ここで一人の生徒が気になっていた疑問をソウスケに問うた。


「あ、あのソウスケさん……その、ミレアナさんには許可を貰ってるんですよね」


「許可を貰って? なんでだ?? 別にミレアナに許可を貰う必要はないぞ」


「えっ!!?? で、でもソウスケさんとミレアナさんは恋人なんですよね!」


何故自分が娼館に行くのに、ミレアナに許可を貰わなければいけないのか。

どうしてそんな内容を生徒が質問してきたのか、ソウスケは小さく笑いながら理解した。


「はっはっは! 皆そう思ってたのか。言っておくけど、俺とミレアナは付き合ってないからな」


「「「「えっ!? そうなんですか!!」」」」


まさかの事実に生徒たちの声は綺麗に重なった。

ミレアナが生徒たちから思いを全てバッサリと断っている事を知っている四人は、絶対にミレアナはソウスケと付き合っているものだとばかり思っていた。


「そうだよ。皆は勘違いしてるかもしれないけど、俺とミレアナは別に付き合ってないよ。同じパーティーの仲間ってだけだ」


「そ、そうなんですね……それなら、別に許可を取る必要もない、ですね」


「そうだろ。で、お前らはどうする。来るか? 来るなら、一番良い店に連れてくぞ」


この言葉は生徒たちにとって、まさに悪魔の囁き。

男が己の溜まった欲を満たすために、娼館へ行って嬢を相手にする。


それは一般的に考えればごく自然な現象、行動。


だが、貴族の令息が娼館通いをしているという話が広まれば、それは少々宜しくない。


「今お前らは制服じゃないし、隠してれば学園の生徒ってバレはしないだろ」


ソウスケの言葉が更に生徒たちの背中を押す。

婚約者が彼女がいなければ、特に問題はない。


性欲がそれなりにある者であれば、例え貴族の令息であろうとそういった店に行くのはおかしい事ではない。


ただ、特別な関係を持っている者がいるのであれば?

それはそれで話が変わってくる……かもしれない。


ソウスケと偶々出会った四人のうち、一人は家の関係で婚約者がいる。

ソウスケの誘いは非常にそそられるものだが、果たして自分はその誘いに乗っても良いのか……だが、ここで断ればこんな誘いは二度とないかもしれない。


「学生の間にちょっと悪い気分を体験するのも、悪くはないと思うぞ」


「ッ!!」


年齢的には生徒達の方が上なのだが、それでも何故かソウスケの言葉は何十年と生きてきた者の重みがあった。


「「「「い、行きます!!!」」」」


「そうこなくっちゃな」


行くべきか、踏みとどまるべきか。

葛藤していた生徒はソウスケの最後の言葉を聞いたことで鎖から解かれ、夜の街に向かうことにした。

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