六百六十六話 過去最高

「えっと、それじゃあ……今日も一日お疲れ様でした。乾杯!」


「「乾杯」」


客が途切れる夕方過ぎまで武器や防具、ポーションを売り続けた三人は正直なところ……かなりくたくただった。

だが、睡眠欲よりも腹が減ってしょうがなく、食欲の方が強かった。


多くの商品が売れたところで税金分を商人ギルドに渡しても、手元にはたっぷりと売上金がある。

ということで、本日も少し豪華な料理店に入り、多くの料理を胃袋へ運んでいく。


普段はあまりがっつり食べないミレアナも、この時ばかりは所作は綺麗だが、他の人が見れば驚くほどの量を食べていた。

ちなみに三人は個室で食べているので、他の客に会話が聞かれることはない。


「いやぁ~~~、本当に盛況だったな」


「そうですね。私もそれなりにポーションや杖を造っていたつもりでしたが、まさか殆ど売れてしまうとは思いませんでした」


ミレアナは自作の杖を売るのは今回が初めてであり、ある程度売れるかどうか少し不安だった。

しかし、いざ販売が開始されると目の前の光景が信じられないと思うぐらい、ミレアナが造った杖もテンポ良く売れていった。


(正直……自分が造った物が売れるというのは非常に嬉しいですね)


今までポーションをソウスケとザハークが武器を販売する時に、ついでに売らせてもらっていたことはある。

そこでポーションが売れるのも嬉しいと感じたが、今回はその比ではなかった。


(ですが、ここで調子に乗ってはいけませんね。私の錬金術のスキルレベルはソウスケさんと比べてまだまだ低い。それでも良い作品が造れたのは、やはりダンジョンなどで手に入れた素材のお陰でしょう)


自分に厳しいミレアナは現時点で満足するわけはなく、まだまだこれからだと緩んだ帯を締めた。


「そうだな……今回はいつもより多くの武器や防具を用意していたが……思った以上に冒険者たちが訪れたな」


「だな。やっぱりダイアスが広めてくれたからってのはあるだろうな」


「うむ、その通りだな……あの男は顔が広いのだろう」


ザハークが考えている通り、ダイアスは学術都市に限ればかなり顔が広い。

ソウスケに素材を預けた後、同僚の教師や生徒たちだけではなく、冒険者ギルドにも顔を出して知人が質が良い武器を低価格で露店販売すると、話を広めていた。


他者からの信用がある男でもあるので、その話は今日にいたるまで話を聞いた者は他の者にも話、多くの客が訪れる結果となった。


「ダイアスさんには感謝しないとな。お陰でだいぶ売り上げが上がった」


「ソウスケさんや私が普段から造っているポーションをかなり売れましたからね」


「あれはおまけ程度のつもりだったんだけどな」


二人がおまけ程度だと思っていても、販売価格を考えれば冒険者たちにとって「今ここで買っておかないと絶対に損する!!!!」と思わせるには十分であった。


「そういえば、商人ギルドの者がかなり驚いていた……ていうか、若干顔を青ざめてたな」


「ふふ、そうでしたね。ですが、私たちが一日で売り上げた金額を考えると、妥当な反応だと思われますよ」


普段よりもソウスケとザハークは武器を造る時間が多く、その間にミレアナもせっせと杖を造り続けていた。

出来上がった商品の数は普段よりも多く、質も悪くない。


途中からポーションも追加したことで、偶に露店で武器を売る時もそれなりの売上金が手に入るのだが、今回は集客数も良く、はっきりと桁が違った。


露店の売上金であれば、過去最高の値段を叩きだした。

そして商人であってもその売上金はある程度驚かされるものではあるが、商人ギルドの受付嬢は決してその額を言葉にすることなく仕事を遂行した。


ただし、表情にはびっしりと驚きの表情が出ていたが、それはソウスケとミレアナも同じだったのでツッコミはしなかった。


(まさか黒曜金貨一枚を超えるなんてな……ふふ、普段から大金を持っていても、この結果は本当に嬉しいな)


値段と質を考え、冒険者の中にはわざわざギルドからお金を引き下ろして買いに来る者もいたので、今回の結果は傍から見れば妥当だったと言えた……が、それでも嬉しいものは嬉しく、三人とも今日は珍しく満足するまで食べ、お酒も飲んで楽しんだ。

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