六百七話 始めて感じる冷たさ
ミレアナは自身の敵意や殺気を特定の相手に向かって飛ばすのが非常に上手い。
この点に関しては、ややソウスケよりも上。
ソウスケも同業者からよろしくない感情を込めた視線を向けられることはあるが、ミレアナほどその視線に対して嫌悪することはない。
しかしミレアナはそんな視線を向けてくる野郎どもに対し、直ぐに暴力を振るうことはないが許されるなら、一発拳を蹴りをぶち込みたいという思いはある。
表に出さないだけで、そういう感情はやはり生まれてしまう。
だが、そういった殺意や敵意を関係無い人にまで向けてしまうのはよろしくない。
それは分かっているので、なるべく……なるべく一般的な同業者に迷惑を掛けないように、という心掛けの精神を持って冷たい殺意を飛ばしている。
(((ぜ、絶対に怒ってる!!!!)))
ミレアナは生徒たちに殺意や敵意を伝わらないようにコントロールしている。
それは上手くいっているのだが、それでも自分たちがミレアナと会話している最中に割り込んできた冒険者に対し、恐ろしいと感じるほどの冷たさを向けているのは理解した。
(こ、こんな冷たい敵意を出せる、のですね)
一人の女子生徒はまだ一度も見たことがなかったミレアナの感情を感じ取り、自分に向けられたものではない……それは分かっているが、背中から冷や汗が流れた。
ミレアナが生徒たちに対し、現在の様なゲス野郎どもに向ける視線を飛ばしたことは一度もない。
パーティーのリーダーであるソウスケや仲間であるザハークを馬鹿にされると、キレるトリガーになる。
それは短い付き合いの生徒たちにとって、周知の事実。
ソウスケの実力を実際に体験してからは侮るような視線、感情を向ける生徒はいない。
寧ろ何故自分たちとさほど変わらない年齢なのに、圧倒的な実力を身に付けられたのか……憧れや尊敬の感情を向ける生徒が殆ど。
「私からすれば、あなた達との会話もいつでも出来るので、ここで話す必要性は全く感じません」
話が通じない野郎だと思ったが、まだ物理的な解決方法には出ない。
それはミレアナの心に、パーティーリーダーであるソウスケに迷惑を掛けてはならいという思いがあったから。
現在、ミレアナの立場は奴隷ではなく一人の冒険者であり、ソウスケの仲間。
なので……ミレアナが起こした問題が全てソウスケの責任となることはない。
それはミレアナも解ってはいる。
解ってはいるが、ミレアナにとってソウスケは自身を地獄の底から救い上げてくれた恩人。
そういった認識なので、あまりソウスケの許可なしに手は出さないでおこうと、一応決めている。
「あなたが何の目的で私に近づいてきたのかは知りませんが、今私にはこの子たちとの話している方が重要なんです」
今自分が何を思っているのが、正直に伝える。
勿論、ギリスたちには冷たい殺気と戦意が向けられている。
ギリスの後ろに並んでいる者たちはその圧に押され、一歩……二歩と後退った。
勧誘しようと決めていたエルフ(ハイ・エルフ)がそれなりに強い人物だという話は聞いていた。
しかし所詮は噂話、実際にその戦いっぷりを観て見なければ本当に強いのか分からない。
ギリスに付いてきた者たちの中に鑑定のスキルを持っている者はおらず、ミレアナのステータス的な強さが分かる者は誰一人としていなかった。
実際にミレアナと会った際も、今の今まで噂通りの強さを持っていると思う者は誰もおらず、見た目は良いのでこいつが加われば氷結の鋼牙の評判が上がるだろう。
そんなしょうもないことだけを考えていた。
だが、実際にふたを開けてみれば出てきたのは圧だけで自分たちを後ろに下がらせるような強者。
戦う様子を観た訳ではないがとりあえずのところ、多くの者たちの本能が解ってしまった。
自分たちが束になっても勝てる相手ではないないと。
色々とその感覚に言い訳をしたい思いはあっても、言葉に出てこないのが現状。
しかし、そんな中……一人だけはミレアナの圧に恐れず言葉を発した。
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