六百六話 割り込み禁止
「「「「ミレアナ先生!!」」」」
「あなた達は……こんなところにどうしたんですか?」
自分に声を掛けてきた人物たち見覚えがある。
それはそうだろう、少し前まで短い期間ではあったが教え子だった生徒たちなのだから。
「その、ミレアナ先生に杖を造ってほしいと思って」
ミレアナの記憶が正しければ、目の前の生徒たちは魔法をメインに戦う後衛職。
杖が欲しいと思うのは分かる。だが、何故自分にそれを言うのか?
それがいまひとつ分からない。
「何故、それを私に頼むのですか?」
「そ、その……ソウスケ先生が自分たちに杖を造ってほしいなら、ミレアナ先生に頼んだ方がおっしゃられたようなので」
「…………なるほど、分かりました」
ひとまず、何故生徒たちが自分の元を訪れて杖を造ってほしいと頼んで来たのか、その理由は分かった。
しかしミレアナとしては造っても良いと返事をしていいのか、悩ましいところだった。
生徒たちが自分の杖を欲しいと願っている。
それ自体は、製作者として嬉しい。
「あの、勿論お金は払います」
「お、俺は素材も全て用意します!!」
「分かりました、少し落ち着いてください」
どういう状況なのかは理解したが、ミレアナとしてはまだ自作の杖を誰かに売るというのは不安だった。
自分がまだ素人の域を抜けていないと思っている。
事実として、ソウスケの様なプロと呼べる腕前は持っていない。
故に、生徒たちにそんな状態で自身が造った杖を売っても良いのか、そこに疑問を持った。
(おそらく、ロングソードや短剣に槍などはソウスケさん……もしくはザハークが制作を受けているのでしょうね。そして私には杖を……素人ながら、それなりに作ってきましたが彼らに合うかどうか)
目の前にいる生徒たちは貴族の令息や令嬢。
まだ冒険者になっていないひよっこ……ではなく、戦闘の実力だけであれば素人の域は超えている。
そんな生徒たちにまだまだ未熟な自分が造った杖を売っても良いのか……迷った末に、ミレアナは売ることを決めた。
「分かりました、まだまだ未熟な身ですが「よろしいですか」……なんですか?」
ミレアナが生徒たちに了承すると伝えようとしたタイミングで、一人の男が声を掛けてきた。
(なんですか、この男。私が生徒たちと話をしているというのに)
生徒たちと話しているタイミングで自分に話しかける。
それだけでミレアナの話しかけてきた男に対する評価はだだ下がりであった。
「私は氷結の鋼牙に所属する冒険者、ギリス・アルバ―グルと申します」
男は一人ではなく、後ろにも複数の冒険者を従えていた。
そしてミレアナは一目で解った……目の前の男が生徒たちを完全に見下していると。
(氷結の鋼牙……確かBランクのクランでしたか)
学術都市を拠点にするクラン、氷結の鋼牙。
ミレアナに話しかけてきた男、ギリスはクランリーダーや幹部でもないが、クラン内で将来を有望されている男だった。
「そうですか。今は私はこの子たちと話をしているので後にしてください」
「ミレアナさん、そんな子供たちとの話は置いといて、私たちと良い話をしましょう。子供たちとなんていつでも話せます」
圧倒的な上から目線の言葉。
後にしてください。
これはミレアナが生徒たちと話しているのに割って声を掛けてきたギリスに対して、最大限の慈悲であった。
ギリスの話を聞く聞かないなど、ミレアナの自由。
生徒たちとの話を終えた後、ギリスの話を聞かずに帰っても構わないのだ。
それをわざわざ生徒たちとの話が終われば、聞いても良いと答えた。
にも拘らず、ギリスは生徒たちを放って自分たちと話そうと良い、生徒たちを下に見る発言を堂々と先生と呼ばれているミレアナの前で言い放った。
(……あぁ、この人はあれですね。会話をしても無駄な方のようですね)
目の前の冒険者は話が通じない人間だ。
それが分かった瞬間、先程まで柔らかい雰囲気から一変し……威嚇するときに出す時以上の冷気と……ついでに殺気が零れた。
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