六百三話 判断が速い!

二回りほど体が大きいフォレストタイガーは即座にこの場から離れようと判断した。


自分より体が小さいとはいえ、同じフォレストタイガー。

従えた二体だけでは倒せない冒険者やモンスターは今までにいた。


だが、自分が加われば今まで倒せなかった相手はいなかった。

まだ冒険者ギルドには伝わっていないが、この三体はそれなりの冒険者を殺していた。

いずれはギルドの方から指定で討伐依頼が出されるほどの力と連携力を有していたのだが……リーダーであるフォレストタイガーは仮に、最初から自分も戦いに参加していれば同族を殺したエルフに勝てるとは思えなかった。


そして自分の視る眼の無さを呪った。

逃亡という選択を取ったことに関して、強者としてのプライドが傷付けられた……なんてことは一ミリも持っていない。


他のモンスターよりも生存本能が強いため、逃亡を非とは考えない。

ただ、今まで従えた者たちと一緒に戦った相手が、偶々こちらが逃げるほどの力を持っていなかっただけ。


兎に角生存本能が強いフォレストタイガーは逃げるしか道がないと即座に判断した。

どれぐらい早いかというと……一体目の同族が殺された瞬間には足に力を込める。

そして二体目の喉が風剣で貫かれたのと同時に駆け出した。


助ける気などさらさらなく、とにかく逃げようと……生き延びようと必死。

身体強化と脚力強化を使い、四肢に風の魔力を纏う。


そしてダンジョンに生まれたときから備わっているスキル、逃亡……逃走時に脚力が上昇する。

計四つの強化スキルを使用していた。


「逃がしませんよ」


「ッ!!!???」


隣から聞こえた声に驚きを隠せず、目を思いっきり見開く。


あり得ない。自分は全力で逃げた。

逃げる瞬間、このエルフは後ろを向いていた。

絶対に自分が追いつける訳がない……だが、現実として隣から声が聞こえ、そちらに振り向くと先程同族と戦っていたエルフが……正確にはエルフの上位にあたる種族、ハイ・エルフがいるのだ。


冷静に考えれば今までは考えられなかった光景が目の前で起ったのだ。

あり得ないことが現実となる。


目の前で起ったことが他人事であれば、冷静に判断出来たかもしれない。

しかし、いざ我が身に起きれば脳はそう簡単に物事を冷静に捉えることが出来ない。


(本当に、賢いというか……判断が速い個体ですね)


二体目のフォレストタイガーを倒す際に、リーダー格であるフォレストタイガーが全力で移動することは気配の動きで把握していた。


ただ、その速度が予想していたスピードよりも上だったので、少々焦った。

それでもミレアナが身体強化系のスキルを複数同時に発動すれば、Cランクのフォレストタイガーに追いつくことぐらい容易い。


「せい!!!!」


逃亡するフォレストタイガーに追いついたミレアナは左側に体を回転させ、重い蹴りを首に叩きこむ。


「ッ!!!! ハッ……ァ」


首の骨を完全に折られ、呼吸不可能。

顔面から地面に突っ込み……次第に体は完全に動かなくなった。


「やり過ぎないように調整できて良かったです」


ミレアナが本気で蹴りを叩きこめば、フォレストタイガーの体は折れるのではなく、切断されてしまう。

それではやや商品価値が下がると思ったミレアナは強過ぎず……しかし弱すぎないように調整。


調整は見事上手くいき、損傷を首の骨が折れるだけで済ませた。


「さて、まずは一か所に纏めましょう」


他のモンスターに食われたり、同業者にハイエナされないようにフォレストタイガーの死体を一か所に集める。

幸いにも先に倒した二体はモンスターや同業者に発見されることなく、無駄に争わずに済んだ。


同業者に発見されてハイエナされれば、どうしても面倒なことになる。

ミレアナはソウスケを馬鹿にするよう名相手には容赦しないが、別に殺したい訳ではない。


だが、本人が要らないと捨てている死体を除いて、ハイエナしようものなら正直なところ、殺されても文句は言えない。

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