五百八十三話 まさにバーサーカー

ミレアナが上級者向けダンジョンを探索している頃、ソウスケとザハークもダンジョンを潜っていた。

とはいっても同じ上級者向けダンジョンではなく、中級者向けのダンジョンの二十一階層に転移して三十層のボス部屋を目指しながらも、魔石の回収メインで探索を進めていた。


「はっはっは!!! どうしたどうしたどうした!!!! その程度かッ!!!!!!」


「……まさにバーサーカーだな」


ラスボスであるエルダートレントの素材が欲しいというのもあるが、エアーホッケーを造るための魔石の量が少々不安なため、積極的にモンスターを倒しながら階層を下っている。


現在ザハークは森林での戦いを得意とするフォレストオークの群れと戦っているのだが、いくら地の利があっても身体能力の差が大きく、大抵一撃で倒してしまう。


「やはりただのオークだとこの程度か。せめて上位種ならばな」


「一応下層だから探索を進めてれば上位種と遭遇する機会はあるはずだ」


ただ、基本的にはオークジェネラルまでしか現れることはない。

オークの上位種であるナイトやアーチャーなどはオークより強いが、それでも同じDランク。


そしてその更に上の存在がジェネラルだが、ランクはC。

オークを纏める存在として身体能力が高いのは勿論だが、ジェネラルがいることでオークの連携度が高くなる。


(さすがにキングは現れないだろうな……仮に現れたとしても、遭遇するかどうか)


ジェネラルの更に上の存在としてキングが存在する。

しかしランクはBであり、中級者向けダンジョンで生まれるモンスターとしては完全にイレギュラーな存在。


そう簡単に現れることはない。

ラスボスであるエルダートレントは手数の多さと木、風魔法を使った多彩な攻撃が厄介なモンスターだがキングは単体の強さもさることながら、集団を纏める力が半端ではない。


エルダートレントとオークキング、どちらの方が強いかと問われれば迷う冒険者は多い。

だが、どちらの方が厄介かと聞かれれば大抵の冒険者はオークキングだと答える。


「そうだな。期待しながら進もう」


地図を見ながらサクサクと進み、出会えば全てのモンスターを討伐。

とにかく見かけ次第モンスターを倒してくれと頼まれたザハークとしては多少物足りない相手であっても、間違いなく楽しい時間だった。


今回の探索に限ってソウスケは解体のみ行い、戦闘には全く手出ししてない。

つまり、遭遇したモンスターは全てザハークの獲物となる。


ただ、ザハークも素材は冒険者にとって大切だと理解はしているので、しっかりと倒すときは急所を攻撃するか魔石を貫手で掴み取る。

素材を無駄にしない倒し方を心掛けているので、ソウスケとしては鍛冶に使える素材が増えて大助かり。


少々睡眠時間を減らして探索した甲斐があり、三日ほどでラスボス部屋に到着。

挑むのは勿論二人だけ。


他のパーティーと一緒に挑むつもりはない。

ザハークが最初から少々いかつい空気を出していたのと、ソウスケたちが他のパーティーと組んでボスに挑まないという話が徐々に広まっていたこともあり、二人に声を掛ける同業者はいなかった。


ただ、ボス戦前に匂いを嗅ぐだけで腹が減るような飯を食べていたことで、結局のところ冒険者からの視線は集まってしまった。


「ようやく順番が回って来たな」


「そうだな。俺一人で挑んでも良いんだよな」


ザハークのセリフを聞いた後ろの冒険者たちがギョッとした表情を浮かべる。

多才な手札と膨大な魔力量を持つエルダートレントだけではなく、同じ様な厄介さを持つトレントが何匹もボス部屋にいる。


人の言葉を喋るオーガという時点で普通のオーガではないということは理解出来る。

しかし一人で三十層のボスに挑むのはあまりにも危険。


それを一人の冒険者が注意しようと思った時には既に二人が中に入った時だった。


「魔石だけは綺麗に頼むぞ」


「あぁ、任せてくれ!!」


ボス部屋の環境によって魔力も再生もし放題トレントたちを前にしても、相変わらず目は狩人のまま。

ザハークが一人でボスに挑むことを心配した冒険者の気持ちは意味なく、戦いは三分ほどで終わった。


結果は勿論ザハークの圧勝。

魔石もソウスケの要望通り綺麗に抜き取った。

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