五百六十五話 ボス部屋で試そうか
「いよいよ明日で最後か」
「そうですね」
晩御飯を食べている最中に、ふと言葉が漏れた。
「明日はどんな授業をするつもりなんだ?」
本日は疾風のスキル書を受け取ったついでに、ダイアスと一緒に夕食を食べている。
ダイアスとしては、明日ソウスケたちがいつもと違う授業をするのか、それともいつも通りの授業を行うのか気になるところ。
「特にこれといって違う授業をするつもりはないかな。一週間でどれだけ強くなったのか見せてもらうための模擬戦。ぶっちゃけいつもやってる模擬戦と変わらない筈だ」
「そうか……でも、ソウスケ君たちのような実力者と何度も模擬戦できるだけ、あいつらは恵まれてるよ。現役の冒険者だからこそ、響く言葉もあっただろうからな」
「確かに俺らは現役の冒険者だけど、それはダイアスも同じだろ」
学園の教師という職に就いてはいるが、まだ冒険者を引退したわけではない。
「それはそうだが、やっぱり冒険者としてメインで活動しているソウスケ君たちの方が生徒たちの心に響くものがあるんだよ」
「……まぁ、俺の方が生徒たちと歳が近いしな。そう言う部分が心に響く要因かもな」
「ソウスケさんのお言葉なら、誰であっても相手に大きな影響を与えますよ」
相変わらずミレアナのソウスケ過大評価は変わらない。
(誰であってもってことはないと思うんだけどな。見た目と実力との差にギャップがあるから強い印象を与えるかもしれないけど……誰にでも影響を与えるのはやっぱり無理だな)
ソウスケの謙虚な考えは正しい。
だが、見た目と実力差のギャップが強い印象を与えるという考えは間違っていない。
「あんまり過大評価するなって」
「私はそんなつもりありませんよ」
「俺もあながち間違ってはいないと思うぞ。ソウスケ君の全力はまだ一度も見たことないが、きっと俺の想像の百倍ぐらい凄いだろ」
「良く解っていますね、ダイアスさん。私はソウスケさんが冒険者になって少し経ってから一緒に行動するようになりましたが、まだ一度も本気で戦っているところを観たことがありません」
「何度も強敵と戦ってるのにか……やっぱりとんでもねぇんだな」
とんでもない実力を持っているという認識は間違っていない。
ソウスケ自身のレベルや身体能力、技術やスキルもハイレベルだが重要なのはこの世界に来てから得た装備の数々。
普段使用しているコボルトキングの牙や爪をしようしたグラディウス。
いざという時にエースと使用する蛇腹剣。
そして超超超切り札的存在である水龍の蒼剣。目玉が飛び出す程高い金額を払って買った雷のハンマー。
その他にもダンジョンで手に入れた宝箱に入っていた高品質の武器もある。
(水龍の蒼剣に関しては目立つし、強過ぎるからおいそれと使えないんだよな)
真の意味でソウスケが本気を出せば、戦いによって周囲に被害が及ぶ……場合によっては、山が大きく抉られることもある。
故に、ソウスケはそう簡単に本気を出せない。
(でも、本気を出す感覚を知っておいた方が良いかもな……そう考えると、やっぱり本気を出す場所はダンジョンの中にしておいた方が良いな)
ダンジョンの中で本気を出したとしても、基本的に周囲に被害が及ぶことはない。
傷付いた壁などは時間が経てば修復される。
(普通の階層で本気を出したら斬撃が壁を貫いて他の冒険者に当るかもしれないし……五十層のボス部屋で試した方が良さそうだな)
ダンジョンでやってみたい事が決まり、自然と笑みが零れる。
「なんか良い笑みを浮かべてるけど、面白いことでも考え付いたのか?」
「別にそんな大層なことじゃない。まぁ……ちょっと試したいことが浮かんだだけだ」
「それはそれで気になるな。にしても、どんな相手だったらソウスケ君は本気を出そうと思えるんだ?」
本気を出そうと思える相手……それを考えた時、パッと浮かんだのは自身が契約した悪魔、レグルスとレーラだった。
(今後、もしあの二人みたいな悪魔と戦うことになったら、速攻で本気を出して叩き潰すだろうな。まだ一回も戦ったところを観たことはないけど……超強いのは間違いない)
その二人以外であれば、上位の竜種。
パッと思い付く限り、やはりドラゴンが相手では本気で戦わなければならないという気持ちが強かった。
「……やっぱりドラゴンとかが相手だと、本能的に周囲への被害とか考えなしで殺しに掛かるだろうな」
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