五百五十五話 どういった手札にするか
「火の魔力を扱うアシュラコングなんだが……とりあえず腕力は半端じゃなかった」
「や、やっぱり打撃がメインなんですか」
「……それなりに、だな。火の魔力を扱えるからか、ある程度遠距離攻撃も行えた筈だ」
目を瞑れば、直ぐに脳裏に思い浮かぶ。
ザハークと火属性のアシュラコングが全力でぶつかり合った激闘。
それは金を払ってでも観る価値があった。
「ただ……単純な殴り合いだけでも他の戦いと比べて次元が違ったな。拳だけで序盤は戦ってたんだが、どっちの攻撃も当たらないんだよ」
「それは、お互いの攻撃を読み合っているから、ですか」
「多分そうだろうな。ザハークも攻撃の中にフェイントを入れてたりしてたんだが、アシュラコングはそれに引っ掛からなかったんだよ」
「相手も戦闘経験が豊富だったのですね」
「Aランクのモンスターだからな。そこら辺のモンスターと比べれば超えてきた実戦の数は多いだろうな」
しかし戦いの運びはザハークの方が一枚上手だった。
「でもな、攻撃事態は全て捌いてたんだ。そんで相手の攻撃意識が腕だけに向いている瞬間を狙って、腹に蹴りをぶちかました」
「ぶちかましたということは、アシュラコングの猛攻を躱して一撃入れた、ということですよね」
信じられない、という思いがある。
だが、自分たちを纏めてボコボコにしたザハークなら六本の腕から繰り出される猛撃を躱し、捌いて一撃を入れられるかもしれない。
そんな思いもあり……実際は後者の考え通り、ザハークはアシュラコングの腹に綺麗な蹴りをぶち込んだ。
「お互いに序盤は腕だけの攻防しか行ってなかったから。アシュラコングの頭から蹴りという選択肢が消えていたのかもしれない。それをザハークは直感で感じ取ってファーストブレイクを決めた」
「……腕でしか攻撃してこない。その考えを逆手に取った……ということで合ってますか?」
「それで合ってるぞ。簡単な例としては……バリバリ魔法使いや僧侶の格好をした人物がいきなり身体強化系のスキルを使って殴り掛かってきたから驚くだろ」
「そ、そうですね……はい、それは驚きます」
ソウスケに言われた光景を想像してしまい、思わず吹き出しそうになるのをグッと堪えた。
その光景を見れば大抵の人物が驚くだろう。
しかし、その大抵の者が驚くというのが戦いで相手を欺くのに重要になる。
「モンスターが人間ほど考えながら動いているとは思えないが、そういった攻撃というか……切り札を最後まで残しておいて止めを刺すのは結構ありだと思うぞ」
「……メインの武器以外にもそれなりに使えそうな武器や技を磨いておいた方が良い、という内容にも繋がりますね」
「その通りだな。それでザハークはこういった方法でアシュラコングの猛攻を対処していた」
肩から魔力を出して腕を作り、自由自在に動かす。
その光景に今日何度目になるか分からない衝撃を受けたラーテスト。
「そ、それも……ま、魔力操作による技術、なのですか?」
「そうだな。多分魔力操作による技術の一つだ。この手で実際に剣や槍を持つことが出来るし、グーで殴ることも出来る。これの水バージョンを両肩から二本ずつ生やして、手数をアシュラコングと同じにしたんだよ」
「……本当に、規格外ない方ですね」
「それには物凄く同意するよ。かなり難しい技術だと思うけど、これも何度も訓練を重ねれば実戦でも使えるようになるはずだ」
「そうですね……それも、奥の手として残しておいた方がよろしいでしょうか」
「ん~~~~、それはラーテストが決めた方が良いんじゃないか。俺としてはメインの武器や魔法に自信があるなら魔力による腕は奥の手として隠しておいた方が良いとも思うけど」
それを強制するつもりはない。
ただ、冒険者として先輩であるソウスケの言葉は学生のラーテストにとって有難いアドバイス。
ソウスケの言葉通りメインの武器に自信があるという条件も重なり、仮に魔力の腕を会得できた場合の使い道は決まってしまった。
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