五百三十一話 生活を支える技術
「金に困ることはない……それは実に羨ましいです」
「激しく同意だ。私達も今は困ることはないが、若い頃は……」
二人共若い頃にはそれなりにお金で苦労していた。
それはダイアスも同じであり、隣にいる生徒達もこれから辿る道だ。
「……ソウスケさんは一回の狩りで多くのモンスターを倒し、全ての素材を持ち帰り、大半を売っています。しかしあまり無駄遣いをしていません。偶に美味しい料理を食べることもありますが……あまり無駄な贅沢をしていないと思われます」
ミレアナの言う通り、あまりソウスケは無駄遣いをしていない。
それは間違っていないのだが……三人が常に泊っている宿代、食費は決して安くはない。
「無駄遣い以外に、ソウスケさんに場合は鍛冶と錬金術が出来る。普通の冒険者から見れば、そこが一番節約出来ている部分じゃないか?」
この世界に来る時に鍛冶と錬金術のスキルは既にレベル五。
特に苦労していないという意味ではチートだが、素材を集めるのは自力で行える。
そういった点を考えれば、冒険者として活動するうえでかなりの節約といえるだろう。
ソウスケ程の腕が無くとも、スキルレベルがどちらとも三もあれば十分だが……そこまで鍛え上げるにはそれなりの時間が必要になってしまう。
「そうかもしれませんね。しかしザハーク、それは世間一般的にみて異常なことです」
「……そういえばそうだったな。となれば、節約に関しては無駄遣いをしないが一番か」
「その……ソウスケ君はいったいどれほどの武器とマジックアイテムと作れるのですか?」
気になってしまう。
まず戦力が異常な二人が、ソウスケの鍛冶と錬金術の腕を異常だと断言した。
ソウスケの年齢はどう見ても十五か十六程度だ。
実際に目の前で見せて貰っている強さを手に入れただけでも、自分達からすれば偉業と感じる。
しかしその他にも、鍛冶と錬金術の腕がどれほどの高水準まで達しているのか……半分好奇心、もう半分は恐れの感情を持ちながら尋ねた。
「…………」
「…………」
ミレアナとザハークはお互いに目を合わせ、どう答えれば良いのか悩む。
(正直に答えれば……気絶しそうですね)
(俺たちからすれば、いつも傍でその技術の高さを見ていたから普通なんだが、第三者からすればそれが普通ではないんだったな……悩むな)
悩んだ結果、ザハークは自分が答えない方が良いなと思い、回答をミレアナに任せた。
「そうですねぇ……ルーキーからベテランの人でも扱える程度に、と言っておきましょう」
「ルーキーからベテランまで、ですか……それは本当に、凄いですね」
本当は嘘だ。
まだ一流のプロと呼べるレベルまでは達していないが、上級レベルの冒険者でも扱える武器を造ることも可能。
(本当に……傑物という他ないでしょう。この事実を知ればどれだけの初心者の心が折られるか……いえ、戦闘面に関しては少なくとも、既に多くの者の心を負っているかもしれませんね)
それは間違いない。
ソウスケの様な幼い見た目で、本物の強者というのは稀も稀だが……歴史上、存在はする。
だが、その誰もがそれ相応の歳を取ってから強大な力を身に着けた。
ソウスケの様に、年齢が二十歳を超えていないにも関わらず、戦闘だけではなく鍛冶や錬金術の腕もプロ並みの者はまずいない。
「本当に凄いですよ。まぁ、ソウスケさんの様な例外中の例外を目指すのは多分無理でしょうが……錬金術は一年生の段階から学んでみるのは将来性を考えてもありだと思いますよ」
ベテランレベルの財力になれば、ポーションを買うことに抵抗は全くない。
だが、冒険者になってから数年のルーキーぐらいでは、買ってしまうと少々財布に痛い。
なのでケチってしまう者が多く、その結果…………依頼先で命を落とすケースは少なくない。
「確かに三年間、時間を掛けていけばそれなりには……」
「授業を受ける生徒がどれぐらいいるか想像つかないが、受けておいて損はない授業かもしれないな」
二人は比較的、ミレアナの学校の授業に錬金術を取り入れるのに賛成だった。
「鍛冶ですと、学校で授業を行う場所をつくるのも、冒険者になってから鍛冶場を借りるのも少々大変でしょう。それは考えると、やはり錬金術の方を少しでも学んだ方がよろしいかと……人の才能は戦闘だけではありませんからね」
冒険者学校に入れば、冒険者のプロになる為の内容ばかりを学ぶ。
冒険者のプロを目指しても……必ず成功するとは限らない。
ボチボチな結果で終わるかもしれない。
だが、目を向けてみなければ開花しない才能があるかもしれない……絶対とは断言出来ないが、可能性はある。
(ただ、冒険者といえばやはり戦闘面で活躍することに憧れる子たちが多い……授業を受ける生徒がどれだけいるのかまでは読めませんね)
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