五百二十八話 冒険者でなくとも驚く

「……よし、これで終わりだ。それじゃ、地上に戻りましょう。ザハーク、それで良いよな」


「あぁ、問題無い。次は今回よりも速いスピードで攻略していけば良いだけだからな」


「それじゃ、地上に戻りましょう」


「あ、あぁ……その、ソウスケ君は空間収納持ち、なんだよな」


「はい、そうですよ」


それはソウスケが亜空間の中にモンスターの素材をポイポイと中に入れていけば解る。


だが、中に入れてモンスターの素材が多過ぎる。

通常の空間収納持ちでは絶対に入りきらない量。


それを余裕な表情で入れていった。


その光景を見れば、冒険者でなくとも驚いてしまうのは仕方ない。


「だからモンスターの素材や魔石をギルドに持っていけば、きっちり全部売れますよ」


「そうみたい……だな」


三人はまさかの状況に驚きが止まらないが、ありがたい状況ではあるのでこの幸運は利用させて貰おうと決めた。


「有難う。ソウスケ君達が一緒にいてくれるなら、脅威となるモンスターはいないだろう」


自分達が束になって戦っても、三人の内、一人にも敵わない。


それだけの実力の持ち主が、一緒に地上まで同行してくれる。

これ以上の護衛はいないと感じられる頼もしさだ。


生徒達もその好待遇さは理解出来る。


部屋の中で起こった件の処理を終え、ソウスケ達は扉を開けて部屋から出た。


「……森の中ってことは、ここはニ十階層のどこかってことか」


二十何階層とまでは分からない。

周囲に鑑定を使って調べても、そこまでは分からなかった。


(まさか二十九階層なんてことはないよな? 飛ばされた階層の地点よりも、下の階層に扉が繋がっているって可能性は否定出来ないけど……)


転移された階層に扉を開ければ戻れる、そんな保証もルールもない。


もしかしたら……このまま下の階層を目指してボスモンスターを倒せば地上に早く戻れるかもしれない。


だが、その行動にはソウスケたちの早く中級者向けのダンジョンを攻略したいという欲が混ざっている。

ダイアスたちに地上まで一緒に向かうと約束したので、なるべく安全を保障できるルートを進むべきなのは間違いない。


「ミレアナ、上に進む方の階段がどこにあるか分かるか」


「少々お待ちください」


そう言うとミレアナは一瞬で宙に跳び、全体をくるっと見渡した。

そして直ぐに階層を発見した。


「二つ、階層を発見しました。行きましょう」


「そうか……なら、日が暮れないうちに出来る限り進もう」


「い、今ので階層の場所が分かった、のか?」


「ミレアナはエルフの仲でも眼が良いんだ。それに視力強化を使用すれば……よっぽど離れていなければ、大体は解る」


実際はハイエルフなので、通常のエルフよりも視力が高く、コントロール出来る。


なるべく早くニ十階層に辿り着くために、速足で進む。

生徒の中にはミレアナが階層を発見したという言葉に疑念を抱く者がいたが、自分たちでだけでは正確に移動できないので、とりあえず口は出さなかった。


(冒険者のくせにランクを上げないとか……完全にふざけてるだろ)


冒険者学校に在籍している生徒の殆どが成り上がるために、日々努力を重ねている。

ソウスケの様に、ランクに執着しない者などいない。


だが……その実力は見せ付けられた。

今の自分達では届かない程の実力差……認めたくはないが、自分達よりも強い。


そう実感させられる戦いだった。


そして今も自分達に向かって襲い掛かってくるモンスターを瞬殺している。


(クソがッ!!! なんで、なんでそんなにあっさりと倒せるんだよ!!!)


自分より年齢が低く、体格も良くない者が自分達では倒すのに時間が掛かるモンスターを瞬殺してしまう。


その現実を脳は理解しているが、心が理解したくなかった。


「おっ、本当に上へ戻る階段みたいだな」


ミレアナの捜査は見事に成功し、上の階層へと繋がる階層を発見。

だが、その階段を上がってもまだ森の景色は続いていた。


移動速度を上げるが、生徒たちとソウスケたちとでは、本気の移動速度とスタミナに圧倒的な差がある。

結局その日は森の中で一夜を明けることになった。

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