五百九話 誰かが見ている
「ソウスケさん、本当にあの子達からの依頼を受けるのですか?」
「なんだ、ミレアナは不満か?」
「そういう訳では無いですが……彼らに向上心があるのは認めますが、一緒にダンジョンに潜るとなればそれ相応の実力が必要です」
ミレアナとしては門下生たちの中に自分達の冒険に付いて来れる者がいないと感じていた。
ただそれは間違っておらず、三人が本気でダンジョンの攻略を始めれば付いて来れる門下生はいない。
「それはそうだな。でも、面白い依頼なら受けてみようと思ってる。門下生たちだって馬鹿じゃないんだ。自分が挑める領域がどこまでなのか……それぐらいはある程度把握できてる筈だ」
「……そうだな。あいつらそこまで馬鹿じゃ無い筈だ。それに、こっちには断る権利もある。全ての依頼を受ける必要はない、そうだろう」
「そういうことだ。ミレアナ、別に俺はあいつらからの依頼を全て受けようとは思っていない。本当に面白そうな依頼であれば受けるけどな」
「そうですか、それならば安心です」
ソウスケはなんだかんだで世話好きだ。
それを知っているミレアナは轟炎流の門下生たちからの依頼を全て受けるのではと、少々心配していた。
「とりあえず明日からは中級者向けのダンジョン攻略だ」
「確か三十階層のダンジョンだったな……ニ十階層辺りまでは一気に降りるのか?」
「そんな感じだな。一層からニ十階層のモンスターは大して強くないだろうからな」
全体定期にモンスターの強さは初級用のダンジョンと比べて上がっている。
しかし三人にとっては大きな差にはならない。
「ニ十階層からのモンスターなら多少は動ける奴らがいるだろう」
「…………」
「ミレアナ、険しい顔になってるけど何かあったのか?」
「なんだかこちらに視線を向けている者がいましたので」
姿を見せずにソウスケ達に……正確には三人の中の一人に視線を向けている者がいた。
「もしかして暗殺者とかか?」
「詳細は解りませんが、その可能性はあるかと思われます」
「もしかしてだが、視線を向けられていたのは俺か?」
「だと思います。ただ、ザハークが他者から恨みを買ってはいないと思われますので……簡単に言ってしまえばザハークの珍しさに惹かれて調べているのかもしれません」
「つまり暗殺者ではなく探偵? がザハークを調べてるかもしれないって事か……奪おうとしてる、て可能性はあるか?」
珍しい従魔というのは狙われやすい。
喋る希少種のオーガも当然珍しい。
単純にその素材を欲しいと思う者がいるのか、それともその戦力を欲する者がいるのか……今のところまだ解らないが、この街の住人の権力者がザハークを狙っているのかもしれないとソウスケは予想した。
「俺を奪う……そういった事が出来る者がいるのか?」
「慢心は良くありませんよ。真正面からでは無理だとしても、搦手を使われてはあなたも捕らえられてしまう可能性はあります」
「搦手か……確かにそういった方法で来られると危ういな。真正面からなら大歓迎なんだがな」
真正面からの殴り合いは大歓迎なザハークを無意識に口端を吊り上げていた。
それを見てソウスケは通常運転だなと思い、ミレアナはあまりに楽観的な考えに頭を抱えてしまう。
「例え真正面から来たとしても、それなりの対応をすべきでしょう」
「まずはお茶でも飲みながらのんびりと話し合いという事か」
「……相手にその気があるなら、そうすべきでしょう」
「暗殺者とか送ってきたらとりあえず潰して良いだろうし、ぞろぞろと私兵を引き連れてきたんだったらしっかりと交渉してボコボコにすれば良い」
ソウスケもあまり街中で暴れるのは良くないと思っている。
裏の連中を使ってくるならば身の安全を考えて速攻で始末すべきだが、そうでない場合はある程度手順を踏んでから潰す方が面倒事に発展しない。
結果的にそうなるかは分からないが、奪おうとしてきた相手を全てその場で相手にするのは良くないとザハークも解っている。
そしてソウスケ以外の人物に付いて行く気もサラサラない。
「分かった。なるべく暴れない様に気を付ける」
先程までの鋭い笑みとは違い、真面目な表情に変わっていたザハークを見てミレアナはホッと一安心した。
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