五百一話 吸収が早い

闘志を溢れさせる程戦意を漲らせたのは良かったが、それでも全員がザハークの一撃を加えることはなかった。


「よし、一旦終わりだ。しっかりと水を飲んどけよ」


そう言ってザハークはソウスケ達の元へと戻って行った。


「お疲れさん。どうだった?」


「どうだったって言われてもなぁ……まぁ、ボチボチなんじゃねぇのか?」


何度も門下生と戦ったザハークだが、決してボンクラだとは思わなかった。

これから強くなるだろうと感じた粒はいた。


「ふむ……一つ聞きたいのだが、ザハークさんはどうやって剣技を身に着けたのですか。扱っている剣技は野生のものではなく、人が扱う剣技だった」


従魔の中で武器を扱う個体を見たことはある。そして野生のモンスターでも武器を扱う。

ただ、ここまで人が扱う剣技に近い動きをするモンスターは殆ど見たことがなかった。


「どうやって……俺を拾ってくれたのはソウスケさんだ。体術も剣技も魔法も……全てソウスケさんに教わった」


「おい、別に俺はそこまで大したことは教えてないっての。お前が超早い速度で吸収していったんだろ。レガースさん、こいつの希少種は希少種なんで他の個体より覚えるのが早いんですよ」


「なるほど。希少種、その一点だけでも納得出来る理由だ。希少種、亜種はこの上なく強くて厄介な個体だった……それは身に染みて覚えている」


何度もダンジョンに潜ったことがあり、今でも自身を鍛える為に潜っているレガースは過去に何度か希少種や亜種と戦ったことがある。

一般的な個体の常識が通じない。


通常種なら問題無く倒せるモンスターであっても、亜種や希少種になれば本気の殺意と戦意を漲らせて倒す。

そういった心持で戦わなければ容易に足元を掬われる。


「俺達が戦ったあれは亜種だったっけ?」


「上位種か亜種か……どちらにしても通常種よりははるかに強かったかと思われます」


「どういったモンスターと戦われたのですか?」


「パラデットスコーピオンというサソリタイプのモンスターです。通常は尻尾が一本なんですか偶に尾が三本、体の色が赤い個体がボスとして現れるんですよ」


「強さとしては……Aランクだったか? 俺としては厄介なモンスターという印象が強いな」


火属性のアシュラコングは単純な強さを持った驚異的なモンスター。

だが、ソウスケ達がパラデットスコーピオンの亜種は相手を状態異常にする攻撃を多く持ち、動きも昆虫特有の読めない動きでターゲットの刺客からグサッと殺ってしまう。


「Aランクのサソリ系のモンスターか……私が苦手な部類だな」


「それは俺も同じだ。戦うならばやはり人型のモンスターが戦いやすい。ソウスケさんはどうだ?」


「……俺も人型の方が戦いやすいけど、俺の攻撃も一般的な者とは異なるからな。特に……こいつを使えばモンスター達も一瞬は驚くだろ」


自身が身に着けている指輪を見てソウスケやニヤッと少々邪悪な笑みを浮かべる。


「それはマジックアイテム……装飾系のものではなく、武器に変化するタイプの魔剣か魔槍か」


「正解です。こいつの正体は魔剣なんですけど、戦う時以外はこうやって指輪の状態にしてます」


「そうか。形を変化できる、それだけその魔剣がかなり上等な物だと解ったよ。それにしても一瞬は必ず驚く攻撃か……羨ましいね。そういう攻撃は魔剣や魔槍の類を手に入れないと行えない」


正確にどういった魔剣なのかは解らないが、自信満々に語るだけの力はあるのだと本能的に理解する。

そして轟炎流剣術には搦手が無いのでそういった手を持っているのは素直に羨ましいと感じるレガースだった。


「ダンジョンに潜っているならそういった類の魔剣や魔槍は手に入りそうな気がしますけど」


「一応持ってはいるが、上級者向けのダンジョンの下層に生息するモンスターには少々心伴い。中途半端な手を使うなら轟炎流で戦た方は効果的といったところです」


「なるほど……それより、レガースさんはダンジョンで使える剣以外の攻撃手段は教えていますか? 自分としてはやはりモンスターの眼を潰す為に足で砂をぶつけたりといった攻撃や、少々お金は掛かりますけど閃光玉とか目くらましにはもってこいですよ」


「勿論砂をぶつけることは教えています。最初はそれって卑怯な攻撃じゃないですかと言う門下生もいましたが、実戦で使ってみるとその重要性を良く理解していました。ただ、閃光玉などに関しては少々お金が掛かるので一部の門下生しか実戦で使っていませんね」


「あぁ~~……なるほど、確かに少し高いですもんね」


少々お値段が高く、銀貨数枚から高性能な物だと数十枚もする。

そこでソウスケは一つこれなら安値で買えるのではという道具を思い付いた。

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