四百九十二話 その気持ちの方が強い

ダンジョンの入り口に辿り着いたソウスケ達は周りの冒険者から当たり前ではあるが、注目を集めていた。


ダンジョンの入り口前では自分達には無いスキルを持っている者を募集していたり、商人が商品を売っていたりもする。

そんなルーキー達は一目で強いと解るザハークと、男であれば必ず視線を向けてしまうスタイルと美貌を持ち合わせているミレアナに注目が集まっているのだが……やはりソウスケに興味を持つ者は皆無であった。


(やっぱり強そうな奴とパーティーを組みたいって思うよな)


ルーキー達の視線が二人に向けられており、ソウスケはルーキー達の気持ちが良く解っていた。


(実力の差というものを理解していないのでしょうか? 私達がルーキー達と組んでダンジョンに潜るメリットなど皆無だというのに)


自分達を誘おうと考えているルーキー達に辛辣な評価を下すミレアナ。

しかし事実として、ソウスケがルーキー達と組んでダンジョンに潜るメリットは何一つとしてない。


(死にたくない、生き残りたいという気持ちは解らんでもないが、強者の陰に隠れても意味は無いと思うがな)


ルーキー達の気持ちが多少は解るが、強敵との戦いを望むザハークにとって強者の陰に隠れようとする気持ちは理解出来ない。


そして何組かのパーティーが三人に声を掛けようとするが、ザハークが睨みを利かせて壁をつくる。


「「「「ッ!?」」」」


明らかに自分達に対して好意的では無い目。それを受けたルーキー達の脚は止まってしまう。

そして職員に三人で潜ることを伝え、中へと入って行く。


「まったく、もう少し自分で成長しようという気持ちはないのでしょうか」


「ない訳じゃないだろ。でも、やっぱり生き残りたいって気持ちの方が強いんだろ」


「だろうな。その気持ちだけは理解出来る」


元々野生の中で生きてきたザハークにはその考え、気持ちが身に染みて解る。

だが、最近はそれよりも熱い戦いを望むようになっている。


「まっ、ザハークが睨んで壁をつくってくれたんだから、地上に戻っても絡んでこないだろ。よっと」


そう言いながら扉を開けると、三人の前には草原が広がっていた。

奥の方に山は一切見えず、草原のみの階層。


もちろん木は所々生えているが、見渡しの良い景色となっている。


「あれだな、最初のダンジョンと同じ様な感じか」


「みたいだな。ただ……多分どこまで奥に行っても山は無さそうだし、前みたいにブロッスドラゴンみたいな隠れた強敵とかはいないだろう」


稀に難易度が低いダンジョンでも並外れた力を持つモンスターが隠れていることはある。

しかし今回ソウスケ達が潜ったダンジョンにそういった隠れたモンスターは残念ながらいない。


「でも……やっぱりダンジョンのモンスターは元気一杯に襲ってくるんだな」


ソウスケ達の姿を確認した二体のホーンラビットが果敢に……いや、無謀にも襲い掛かった。

飛び掛かってくるホーンラビットにザハークは探索しながらも小さな魔力の玉を投げ、その額を撃ちぬいた。


「おぉ、器用に貫いたな」


「こういうのには少し慣れてきた。ただ、今回はホーンラビット程度だから上手くいっただけだ」


ザハークも器用さは徐々に成長している。

しかし今回はランクの低いホーンラビットだったからこそ、ドンピシャで額を貫くことに成功した。


ソウスケは二つの死体を空間収納にしまい、再び歩き出す。


「なんか、これぐらい強いとダンジョン探索というよりは、ピクニックって感じだな」


「そうですね。ダンジョンを侮っている訳ではありませんが、前のダンジョンの様に緊張感を保つ必要は無さそうですね」


このダンジョンも過去にはイレギュラーが発生したことがある。

だが、そのどれもがソウスケ達ならば対処出来る内容。


ダンジョンイレギュラーはダンジョンの難易度に似合わないモンスターを生み出す場合もあるが、今潜っているダンジョンの難易度を考えるに、せいぜいCランクのモンスターが現れる程度。


Cランクのモンスターならば三人にとって良い運動になる相手という強さ。


イレギュラーなどと呼ぶ存在ではない。


こうして三人は地図に描いてある通り下に続く階段に進み、問題無く潜っていった。

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