四百七十三話 意識の外から

「ヤバいなぁ……バチバチ過ぎるな」


「そうですね。観てるこっちが熱くなりそうな程にバチバチです」


ザハークとアシュラコングは同じタイミングで駆け出し、殴り合いが始まる。

ただ、殴り合い手が始まって約一分が経過したが、両者とも傷は一つも追っていない。


(アシュラコングもある程度戦闘経験数があるからか、ザハークのフェイントに引っ掛からないな。でも、それはザハークも同じか)


アシュラコングもザハークを真似てフェイントを行うが、それに引っ掛かることは無い。


お互いの攻撃を躱すか防御するか、もしくは相殺するかでクリティカルヒットは無いが……徐々にザハークが不利になっていくのが観ていて解かる。


「ちょっと押され始めてきたな」


「やはり問題は手数の問題でしょうか」


「だろうな。普通に考えて腕が六つってのはずるいな。ザハークよりスピードが劣っていたとしても、手数が劣りはしない」


一撃一撃が全身全霊の力を込めた一撃では無いが、それでもまともに食らえばダメージが大きい一撃だ。

しっかりとズラして対処しなければならない。


「や、やはり一人で相手をするのは無理かと」


「いいや、それを決めるのはまだ早い。確かにアシュラコングはAランクの超強いモンスターだが、ザハークだってオーガの希少種。そのポテンシャルはAランクにだって届くと俺は思っている。というか、超えていくだろうな」


言葉では表しづらい感覚だが、ザハークはレベルではなく存在そのものが強くなっていくという期待感がある。


「それに防戦一方になってきてはいるけど、全ての攻撃を捌けている。まだスピードに関してはまだザハークの方が上だ。それと……ザハークは全ての手札を出し切ってはいない。だから、戦いはまだまだこれからだ」


そこでタイミングを見計らったかのようにザハークは手からではなく、脚で攻撃を行った。


「ふんッ!!!」


「ウボっ!!??」


二分ほど、ザハークは延々と手だけで攻撃も防御も行っていた。

それはアシュラコングも同じだが、アシュラコングの場合はそもそも脚を使って攻撃するという考えが頭の中に無かった。


そしてザハークも手だけで攻撃を行っていたので、脚を使って攻撃を行ってくるという予想は全くしておらず……モロに前蹴りを腹部に食らってしまう。


ファーストヒットを食らったアシュラコングは勢い良く後方へ飛んでいき、壁に激突。

壁にはアシュラコングが激突したという跡がくっきりと残っていた。


「おぉう、ナイス蹴りだな」


「……す、凄いですね。ですが、なぜあそこまで綺麗に蹴りが決まったのでしょうか」


「多分だけど、意識外からの攻撃だったからじゃないか」


「意識外からの攻撃、ですか」


セリスは直ぐにソウスケの言葉を理解出来ない。

そんなセリスの為にどう説明すれば良いのか頭の中で考える。


「えっとだな……例えばだけど、魔法職同士が攻撃魔法だけを使っていたのに、急に身体強化のスキルを使って接近戦を仕掛けられたら驚くだろ」


「そ、そうですね。直ぐに対処するのは……そういった状況に慣れているか、事前に情報を得ていなければ無理かと」


「本当はもう少し深い内容になるんだろうけど、俺はそこまで詳しく無いからな」


自身がこうだろうと思った考えなので、正確な内容とは言えない。

だが、セリスにはとても分かりやすい説明だった。


「……狙っていたのでしょうか」


「ん~~~~、どうだろうな? もしかしたら狙っていたのかもしれないし、偶々使っていなかったら蹴りを放ったのかもしれないし……なにはともあれ、攻撃に準備出来ていなかった部分へのクリーンヒットだ。相当なダメージを与えられたんじゃないか」


ソウスケの考えは正しく、攻撃に備えて防御していなかったアシュラコングはザハークの蹴りによって大ダメージを受け、前蹴りを受けた場所の骨は完全に折れていた。


ただ、身体強化系のスキルを使用しているザハークの前蹴りを食らえば大半のモンスターは貫かれてしまうが、アシュラコングの腹部は赤くなっているが、それでも貫かれてはいない。


それどころか、アドレナリンがドバドバと出ているので感覚的にはそこまでダメージは無い。


(まだまだ戦えるだろう、アシュラコング)


そんなザハークの思いに応えるようにアシュラコングは立ち上がった。

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