四百二十二話 その名前は……ドンマイ

街に帰って来た翌日、ソウスケは一人で街の外に出て森の中へと入って行き、一つの死体を収納袋から取り出した。


「さて、早速喰わせてもらうか」


先日倒したゴブリンパラディンを蛇腹剣に喰わせていく。

そして蛇腹剣がゴブリンパラディンの死体を全て喰い終わると、ソウスケは早速試したかったことを実演する。


ホーリースラッシュ、聖剣術の技の一つであり初歩的な技。

しかしその威力は凄まじく、聖なる刃が多くの木々を斬り倒していく。


「おっとっと」


無意味に木々を斬るのは良くないと思ったソウスケは即座に聖なる刃を消す。


「マジで聖剣術が使えるようになってるんだな……というか、冒険者で聖剣術を使える人っているのか?」


有名どころの冒険者の知識に関して乏しいソウスケはその辺りの事は全く知らなかった。

結論から言えば、聖剣術を扱える冒険者は存在する。


しかしその数は本当に限られており、聖剣術が使える冒険者達は基本的に国の騎士団や有名どころの貴族に仕える道を辿ることが多い。


いくら強者として高い位置に上り詰めたとしても、余程頭のネジが外れていない人間でない限りは死に対して少なからず恐怖心を抱いている。


なので比較的命の危険が少なく、高給が保証されている職に就けるならそちらに行ってしまうだろう。


「聖剣術……これが使えれば、ある種族には有利に戦える筈だ」


聖属性や光属性が付与された攻撃でなければダメージが入らないモンスターというのが存在する。

そういったモンスター達に対してソウスケが今回の戦いの戦利品として手に入れた聖剣術はとても有効な攻撃手段だった。


「ただこれは……どうしようか。使っえば聖属性の攻撃の威力は増すんだろうけど……」


ゴブリンパラディンの死体があった場所には一振りの長剣が置かれていた。

いや、ソウスケの体格を考えれば大剣とかもしれないその剣は、ゴブリンパラディンが扱っていた長剣だった。


「醜鬼の聖剣……うん、何と言うか・・・・・・ゴブリンに対してドンマイとしか言えないな」


醜い鬼と書いて醜鬼。そうゴブリンは表されている。


しかし聖剣というだけあって、ランクは六とそこそこ高い。

自動修復の効果が付与されており、刃は既に元通りとなっていた。


「まぁ、普通の武器を使って聖剣術の技を繰り出しても倒せなかったときに使うとしよう」


殆ど使う機会は訪れないだろうなと思いながらソウスケは醜鬼の聖剣をアイテムボックスの中に仕舞った。


「さて、試したい事も終わったし戻るか」


ゴブリンパラディンの死体を蛇腹剣に喰わらせ、聖剣術を使えるようになったソウスケの用は済んだので直ぐに森の中から街へと戻る。


しかし森の中にいるためそう簡単に街へ戻ることが出来る訳では無く、やはりモンスターが襲ってくる。


「ガルルルル……」


「あぁ……ブラックウルフか。珍しい、のか?」


Cランクに位置するウルフ系のモンスター、ブラックウルフ。

あまり群れることは無く、単独行動をする個体が多いモンスター。


そんな全身黒いの狼がソウスケを餌と見定めて襲い掛かろうとする。


「悪い、今普通に戦おうって気は無いんだ」


そう言いながらソウスケは右手を前に出し、狙いを定める。


「圧壊」


その言葉を口にした瞬間、ブラックウルフの腹が大きく抉れる。


「ッ!!!? カ、ァ……ッ!?」


「何が起こったか分からないよな。でも俺に牙を向いたんだ。死ぬ覚悟ぐらい出来てただろ?」


自分に牙を、刃を向ける人間は誰であろうと潰すか殺す。

ソウスケが今立っている場所は弱肉強食の世界、潰すより殺す方が一般的だ。


そんな覚悟がブラックウルフにあったのかは解らないが、ソウスケとしてはどうでも良い内容。

ブラックウルフが息絶えたのを確認し、血生臭い匂いに耐えながらその場で解体を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る