四百十七話 辞退する

「あの……俺としては、今回の事は秘密にしておいて欲しいんですよ」


「ん? それは……あれか、今回の偵察でそもそもゴブリンの上位種がいなかったと、もしくは群れは無かったと報告して欲しいという事か?」


「はい、そういう事です。あぁ~~……群れに襲われたという内容だけはそのまま報告しても大丈夫です。ただ、ゴブリンパラディンやプログラップラー、ウィザードというBランクの魔物を自分達が討伐したという内容は内緒でお願いします」


ソウスケの願いにミレアナとザハークは特に反対しない。

二人共ソウスケがランク上げには特に興味無いという事を理解しているからだ。


だが、レアレス達は何故ソウスケがその様な事を願うのか全く解らなかった。


冒険者なら普通は自身のランクを上げられるなら直ぐにでも上げたいと思うもの。

ランクが上がればそれは自身が自慢出来るステータスになり、受けられる依頼が増えて報酬額も上がる。


基本的にランクアップ出来る機会を自ら不意にする冒険者などいない。

ただそこでレアレス達三人はソウスケ達が普通で無い事を思い出す。


(三人とも実力は俺達とはかけ離れている。あれでEランク冒険者だなんて本当に詐欺も良いところだ。だが、それだけの実力があれば既に俺達と同じDランク……いや、ギルドが認めれば特別措置としてCランクに昇格させていてもおかしくない)


短期間の間に昇格を重ねた冒険者は殆どいない。ただ……ごく稀に突出した力を持つ冒険者が現れ、通常なら考えられない程のスピードでランクアップを重ねる者たしかにいる。


(三人は現状の生活で満足をしている。それを考えれば特に昇格に興味が無いのも頷ける)


グランもレアレス達と同じく、もしかしたらソウスケ達はランクアップには興味が無いのかもしれないという考えに至る。


既に装備は充実しており、仲間も強い。

ソウスケからすればこれ以上冒険者に必要な何かを求める欲求は大して無い。


「三人ともあれか、特に現状の生活で満足してるって感じなのか?」


「そんな感じですね。そこそこの宿に泊まれて武器もいつも使ってるグラディウスの他にもありますし、ダンジョンに潜れば色々と手に入るので」


ダンジョンに潜るれば色々と手に入る。その言葉は間違っていないが、それを怪我無く死者も無く手に入れるのが中々難しいのだが……それが容易に出来てしまうほど、ソウスケ達の戦力は揃っていた。


「そうか……二人はどう思う?」


「ソウスケ君達がいなきゃ私達は今頃殺されていたか、ろくでもない人生を過ごすことになっていたのだし、三人がそれを望まないならそういう報告でも構わないです」


「僕も同じ意見かな。無理に昇格を望もうとしているんじゃなくて、辞退してるんだ。それを止める資格は僕達には無い」


シャリアとダイアは特にソウスケの考えを否定することは無かった。

それはレアレスも同じだった。ただ、ゴブリンパラディン達の存在だけはギルドに上手いこと伝えようと考えていた。


グランはやはりランクアップの機会を不意にするのは勿体ないんじゃないかと思う気持ちはまだあるが、自分の問題は無くソウスケの問題なので自分の考えは関係無いと決める。


ただ、ソウスケの考えに納得できない男がやはり一名いた。


「ふっ、ざけんじゃねぇよ!!!!! お前何様のつもりだ!!!」


「……声がデカい。別に何様ってつもりでも無い。単純に俺は、俺達はランクを上げる事に興味が無いんだよ。現状の生活で満足しているからな」


ダンジョンに潜れば、盗賊を倒せば金も装備も手に入る。

冒険者として冒険に必要な物はそれらで補えることが出来る。


「悪いけど……アーガスどう思うが俺の考えは変わらないし、そもそも関係無いから」


そう言いながらソウスケはゴブリンパラディンの死体は一旦収納袋の中にしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る