三百八十五話 試し切り
ソウスケとザハークが鍛冶ギルドの貸し工房を借りるようになってから数週間、二人は殆どそこから出ることは無く鍛冶に没頭していた。
初心者であったザハークはソウスケの作業から盗める技術は全て習得し、通常では考えられない程の数をこなすことで既に腕前は素人と呼べ無いほど上がっていた。
ソウスケに関しては元々経験は無かったが、何をどうすればいいのかという知識はあったので腕だけはベテラン並み。
そして経験値も着実に溜まっていき、造る作品は店で売っても恥ずかしくないレベルの仕上がりとなっている。
「ソウスケさん、これだけの武器を造ったんだから一回試し切りでもした方が良いんじゃないか?」
「確かにな。鑑定で調べただけじゃ本当に良い作品かどうかは解らないからな」
長剣、短剣、双剣、槍、短槍、手斧、大斧、手甲と脚甲、小盾等々、様々な武器や防具がソウスケのアイテムボックスの中に入っている。
それらの手入れは作品が完成した際にキッチリ行っているので直ぐにでも試し切りをする事が可能。
「今から……でも大丈夫そうだな。よし、このまま鉱山に行って試し切りをしよう」
「分かった。直ぐに準備をしよう」
「その前に一応ここに戻ってくるつもりだが、もしミレアナが帰ってきた時の為に書置きをしておかないとな」
試し切りにそこまで時間を使うつもりは無く、気配感知にモンスターの反応があれば即座に倒すの繰り返し。
ソウスケとザハークの気配感知の有効範囲は他の者達と比べて広いので、今採掘場にしている鉱山程度ならばそこまで時間を掛けずに発見出来る。
ソウスケの計算では五時までには戻れるだろうと思っている、万が一何かあればそれより遅れる場合は勿論ある。
なので武器の試し切りに鉱山に向かいます、とだけ紙に書いて端に置いてある机の上に乗せ、早速鉱山へと向かう。
「よっ、と」
「グギャ!!??」
「ふんっ!」
「ギャギャッ!!??」
ソウスケの長剣とザハークの手斧の一撃をもらったゴブリンを武器の性能……ではなくあまりにも開きすぎている身体能力の差により、攻撃を食らった部分がごっそりと無くなってしまった。
「はぁーーー。相手がゴブリンだと力に差がありすぎるから武器の性能がいまいち解らんな」
「そうだな。ただ、鍛冶を始めたばかりの武器としては低ランクのモンスター相手に十分だと思うが」
二人がゴブリンを相手に使用した武器は二つともランク一の武器であり、造るのに使った素材は鉄鉱石のみ。
質の良い武器とは言えないが、ゴブリン相手には通用している。
「ただ、ここは防御力が高いモンスターが多いし、この程度の武器じゃ結構早めに武器がお陀仏になりそうだ」
「ならもう少し質の良い武器を使うか」
今度はソウスケは短剣を、ザハークは槍を持って試し切りの相手を探し始める。
五分後、予想通りの硬そうなモンスターを思い浮かべればトップファイブに入るであるアイアンゴーレムと遭遇。
即座に短剣と槍を使って攻める二人だが、武器の性能を確かめるために武器に魔力を覆っていない。
なのでアイアンゴーレムに傷を負わせることは出来ているが、武器の刃も少なからず欠けた状態になっている。
「う~~~ん……やっぱりアイアンゴーレムを相手に普通の武器じゃ分が悪いか」
刃が欠けた短剣をアイテムボックスの中に入れ、ソウスケはハンマーを取り出す。
「こいつなら、ちっとは効くだろ」
ハンマーに魔力を流し込むと面の部分の温度が急激に上昇する。
「あらよっと」
アイアンゴーレムからの右ストレートをサイドステップで躱し、腹に一撃を決める。
その一撃は先程までの威力と比べてアイアンゴーレムの体を揺らすには十分だった。
それに加えて高熱を持つ面での一撃をもらった腹の部分が熔けている。
「良い感じだな。やっぱり火を纏わせたりしなくても高熱にするだけでしっかりと効果が出てるな」
ソウスケが使用したハンマーはランク三の武器で、ルーキーから卒業した冒険者が持っていてもおかしく無い武器だ。
「ふむ……もう一発、今度は背中から一撃を入れてくれないか」
「おう、任せろ!」
ザハークからのオーダーにソウスケはしっかりと応え、アイアンゴーレムのロケットパンチを躱して背中に良い感触の一撃を加える。
(アイアンゴーレムがぶっ倒れない程度の一撃、これがお望みだろ)
ザハークが何をしたいのかなんとなく解っていたソウスケはわざと一撃の威力を弱める。
「流石だ」
自分の考えを読んでいたソウスケに賞賛を送りながらザハークは丁度前と後ろが熱で溶けている部分に槍を突き刺し、そのまま自身も回転してアイアンゴーレムの体に綺麗な穴を空ける。
「これで終わりだな」
最後は体から突き放された一部を槍で軽く突き出し、魔石が完全にアイアンゴーレムから離れ、動きが完全に停止した。
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