三百二十七話 オッズは低い

「相変わらずレベルが高いな」


「対人戦に特化してるってのもあるが、長剣使いの方は間合いの取り方と懐に入るタイミングが上手い」


「技術的なやり取りも凄かったですけど、繰り出す技も派手でしたね。ああいうのが生で見られれば客たちがあそこまで盛り上がるのも解ります」


長剣使い対、槍使いの試合は長剣使いの方に軍配が上がった。

観客がいるという事もあって、両選手はちまちまとお互いの隙を伺うような真似はせず、最初からフルスロットルの状態で戦いが始まった。


「持っている武器も質の高い魔道具だった。ああいうのはカジノ側が用意するのか?」


「そういう場合もあるらしいぞ。まっ、そうなった場合はダンジョンでモンスターを倒したりして代金を稼がなければならないらしいけどな」


「それは何というか、魔道具を壊してしまったら更に借金が増える可能性もあるって事ですね」


「そんな事もあるかもな。ただ、剣闘場の選手になる奴の中で元々貧乏って選手は少ない筈だ」


そもそもある程度実力がある人物は金に困る事は無い。


「というか、実力が均衡しているからかあまりオッズは高くないんですね。今更ですけど」


「ここに来る客たちにとって、賭けは基本的に次いでだ。メインは選手の試合。それ目的で来てる客が大半だ」


長剣使いが試合に勝利した事でソウスケの賭け金は増えたが、それでもルーレットやポーカーの時ほど増えた訳では無い。


とはいっても、この試合に金貨一枚は賭けていたので結果的に銀貨六十枚分のチップが増えた。


「さて、この後もまだ試合があるけど、もう少し賭けていくか?」


「・・・・・・そうですね。まだ時間に余裕がありますし、もう何回か賭けます。試合を見るのも楽しんで」


両者が全力で戦う試合にソウスケは何度も興奮して叫びそうになっていた。


(周囲の様子を見る限り別に可笑しい頃では無く、寧ろ当たり前の事なんだろうけど、ちょっと恥ずかしいんだよな)


まだ試合中に騒ぐという事に対して恥ずかしさを感じているソウスケだが、この後数回ほど剣闘場の試合を観戦する中で完全に吹っ切れた。


「ソウスケ、お前マジで凄いな。お前が選んだ選手全部勝ったじゃねぇーーか」


「なぁ、もしかして」


「バルスさんの考えている通りで合っていますよ」


ソウスケは周囲にバレないように小さな声で答える。


「俺らもそういうマジックアイテムを持っているけど、あの鏡を相手に通じるものなのか?」


選手との間に造られている鏡は鑑定を弾く機能があり、それはカジノにやってくる客の間では周知の情報なので、準備運動をしている選手に鑑定を使う者はいない。

剣闘場にリングに張ってある結界にも同様の効果が付与されている。


「直ぐには全て視る事が出来ませんでした。ただ、少し経てば視えるようになりました」


「マジか。でもあれ並大抵のレベルの鑑定系のスキルじゃ視えないって噂だけどな。ちなみにソウスケはどれぐらいなんだ?」


ジーラスの問いにソウスケは指を六本立てて返す。


「おぉーーー・・・・・・それって商人になれるレベルだよな」


「そう、なのかもしれませんね。まっ、自分自身にそういった才能は感じられないんで、それに関しては本当に偶々得たって感じだと思います」


「偶々でも羨ましい事に変わりはないぜ。なぁーー、バルス」


「ああ。冒険者になったばかりの時は買い物で騙されるなんて事は少なくなかったからな。後になって騙されてたんだなって知ることがちょいちょいあった」


そこまで生活に余裕が無い商売人達は客に対してバレないであろうギリギリのラインの嘘をつき、客から金を巻き上げるのは珍しくない。


ただ、そんな事をしていて何も天罰が下らないのかといえば、そんな事も無い。

商人以外に珍しくはあるが、鑑定系のスキルを持っている者は珍しくなく、噂が広まって嘘がバレた時には牢屋にぶち込まれる。


「さて、丁度良い時間だし晩飯でも食べるか」

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