百三十六話歳を忘れて

エアーホッケーでトーラスとセッツが遊び始めてから約三十分、二人はエアーホッケーが微量の風を生み出すためにため込まれている魔力を全て使い切るまで遊んでいた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・こ、こんなに動いたのは久しぶりだな」


「と、トーラス様の言う通りです。と、歳を考えた方が良かったと少しだけ後悔しています」


約三十分遊びつくした二人は汗まみれで椅子に座っていた。本来なら執事のセッツが商談中に椅子に座る事は無いのだが、このまま立っているのは厳しいだろうと思ったソウスケが座る様に勧めた。

最初は遠慮していたセッツだったが、トーラスに座っても構わないと言われ、操り人形の糸が切れたかのように力なく椅子に座った。


「それで、使い切った魔力に関してなんですけど、ここのボードから風を吹き出すのにスイッチを入れるボタンの所に魔力を流して貰うとその分魔力が溜まっていきます。そこまで多くの魔力は必要ないので一定以上の魔力量持っている方なら充電が可能です。全体の説明としてはこれで終わりですけど・・・・・・何か質問はありますか?」


二人は息を切らしながら首を横に振った。

そしてすっかり冷めてしまった紅茶を飲み干したトーラスはまだ興奮が冷めず、テーブルに身を乗り出してソウスケに迫った。


「そ、それでこれは売る予定はあるのかな?」


「は、はい。一応売ろうとは思っています。なので落ち着いてください、一旦座ってください」


「す、すまない。未だに興奮の熱が冷めなくてね。それで一つお願いがあるんだ・・・・・・是非これを私に売ってくれないか」


トーラスからの願いのソウスケはそう来るであろうと予想していた。

なので、ソウスケとしては製作費が殆ど掛からない為、トーラスに売ってもなんの痛手にもならず、むしろ金が手に入るので喜んでという心境だった。


「勿論大丈夫ですよ。ただ、まだ値段の方を自分でも全く決めていなかったのでそこをどうするか・・・・・・」


ソウスケとしては今この場では一般市民全てに行き渡って欲しくて造った物でないので、値段は高くなってもしょうがないと思っていた。


(そうだな・・・・・・制作時間と素材を集める面倒さを考えると、金貨一枚から十枚の間がベストかな)


日本円にして百万から一千万円の間が適正価格だとソウスケが考えていると、トーラスがダッシュで自分の机に向かい何かを引き出しから取り出すと、まだダッシュで戻って来た。


「今手持ちで持っている限界がこれだけなんだが、これで売ってくれるかな?」


トーラスがテーブルに置いたのは五枚の硬貨。そう、たった五枚だが種類がソウスケの想定外な物だった。

硬貨の色からしてもしやと思い、硬貨に鑑定を使って調べると五枚とも白金貨という事が分かった。


(・・・・・・ちょっとまて、まてまてまて。白金貨? てことはだ。一枚でい・・・・・・一億円。てことだよな? それが五枚。五億円・・・・・・う、嘘だろ!!??)


あまりにも想定外の金額にソウスケの頭はショートしかかっていた。

その証拠にトーラスが話しかけても返答できていなかった。


「ソウスケさん、大丈夫ですかソウスケさん!!」


「はっ!! だ、大丈夫だ。す、少し驚き過ぎて思考が停止してただけだ」


それは大丈夫ではないのではとトーラスとセッツも含めた三人は思ったが、ソウスケに何か異常が起きた訳では無いと分かり安心した。


「大丈夫なら良かった。さて、あの・・・・・・エアーホッケーだったかい? あれを白金貨五枚で売って欲しんだが構わないか?」


「はい。それは勿論構わないんですけど、実際に売るとなったらもう少し安くしてもらっても良いですか? 流石に白金貨五枚だと買う人が中々現れないと思うんで」


ソウスケとしては一家庭に一台とは考えていないが、大きな店や酒場なの一台置いてもらいたい程度には考えているので、商品として販売するときにはもう少し安くして欲しかった。


「そうだね・・・・・・まぁ、今回は私がエアーホッケーを買った第一号の客としてその値段にしておこう。ところでエアーホッケーを作るのにはやはり時間と金がかかるのかな」


「そうですね・・・・・・金は掛からないですけど、素材を結構使いますね。あと時間もそこそこ掛かります」


「そうなのか。だったら完全にオーダーメイド、予約制にした方が良さそうだな」


トーラスの提案は基本的に冒険者として動くソウスケとしては有難かった、一つだけトーラスにお願いをした。


「あの、力がある冒険者達用のエアーホッケーの材料はこれから自分で調達しに行くんで大丈夫なんですけど、貴族用の装飾に使う様な宝石や鉱石等はお客さんか、トーラスさんの方で用意してもらっても良いですか? 基本的には冒険者として行動しているんで」


「うむ、確かにそこはソウスケ君にとって重要なところだね。分かった、貴族用の予約やオーダーメイドが来た時の素材はこちらで負担しよう」


こうしてソウスケとトーラスの商談は無事に終わった。

そしてトーラスとセッツはその日の仕事を終わらせると、店に残っている荒事に対応出来て魔力量がそこそこある従業員にエアーホッケーの魔力を補充してもらい、時間を忘れて楽しんでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る