百二十一話虫のしぶとさ

二人に向かってくる毒付きの針に対し、ソウスケは慌てる事無く対処した。


「速さはちょっとあるけど、重さは無いからこれでいけるだろう」


ソウスケは自分とミレアナの前に小さな上昇気流を作った。

するとスナイプビー達が放った針は二人に届く前にしたからの風圧に飛ばされ、二人にダメージを与える事は無かった。


だが、直ぐに尻から針が生えてくる様子を確認したソウスケは、自分が立てた仮説に対して舌打ちをした。


「ちっ、再生するのは針だけだと信じたいな・・・・・・ミレアナ!! 俺が動きを止めるからその間に仕留めろ!!」


「わ、分かりました!!!」


ソウスケはスナイプビー達がもう一度毒付きの針を発射する前に両手から強風を生み出し、スナイプビーの進行を妨害していた。

前に進むのが無理なら一旦引こうと考えたスナイプビーだが、そうはさせないとソウスケが強風の軌道を変え、今度は後ろに下がれなくなった。


そして前方の強風は左手で、後方からの強風を右手で操作している事でスナイプビー達はその場から動けなくなっていた。


「ーーーーーーー吹き荒れ、凍てつかせろ。 アイスブレス」


ソウスケがスナイプビーを抑えている間に完成したミレアナの魔法がスナイプビー達を襲い、全て氷漬けになった。


全身が氷で覆われたスナイプビーが地面に音を立てて落下し、完全に動かなくなったのを確認してからソウスケは素材と魔石の回収に移った。


「分かってはいたけど、こうも蜂がデカいといろんな意味で怖いな。念には念を入れておくか」


ソウスケは頭の片隅にあった知識を思い出し、氷を熔かすのを踏みとどまった。


「ミレアナ、素材は何が回収できるんだ?」


「針と一応羽も素材ですね」


「分かったそれなら氷を熔かす部分は針と羽の部分と魔石があるところだけにしておけ。昆虫だから体を切り分けても動き出す可能性があるから注意しろよ」


ミレアナは完全に忘れていた知識をソウスケのお陰で思い出し、緩んでいた気持ちを引き締めて解体の作業にはいった。


そして五分後に解体は終わり、素材と魔石を回収するとミレアナが戦闘中に気になった事をソウスケに質問した。


「ソウスケさん。スナイプビーの動きを止める時に一匹だけ逃げていきましたよね。あれってわざとですか?」


「・・・・・・良く分かったな。あの時全部仕留めようと思えば仕留められたけど、一つ思い出した事があってな」


ソウスケの思い出した事が全く予想できず、ミレアナは可愛らしく首を横に傾げていた。

そんなミレアナを見てソウスケは少しニヤニヤしながら目的の内容を答えた。


「蜂と言えばハチミツだろ。一匹だけ逃がせばそのまま巣に戻るだろうと思ってな。逃がしたスナイプビーの方向は覚えているから気配感知の範囲をを広げて探索すれば、そんなに時間をかけずに見つけられるだろう」


この世界に転移してから甘いものを口にしていなかったソウスケは、ハチミツが手に入るかもしれないと期待しており、かなりテンションが上がっていた。


話を聞いていたミレアナも同様に、甘いものは大好きなためテンションが上がっていた。


「なるほど!! それは名案ですよソウスケさん!!! あ、でも・・・・・・」


スナイプビーの巣の事を思い出したミレアナは上がっていたテンションが、真っ逆さまに落ちた。


「スナイプビーの巣にはモンスターの中でも珍しく、必ず上位種のクイーンスナイプビーがいるんでけど・・・・・・」


昔、クイーンスナイプビーと戦って痛い目を見たミレアナは恐怖心こそなかったが、忌避感が少しあった。

だが直ぐに今の自分は一人なのではなく、ソウスケというとても心強い主がいる事を思い出し、下がっていたテンションが元に戻っていた。


「でも、ソウスケさんがいるんですから大丈夫ですよね!!」


「お、おう。まぁ・・・・・・そうかもしれないな」


スナイプビーのランクがDだったため、上位種のクイーンスナイプビーのランクはおそらくCだと思ったソウスケは苦戦はしても、負ける事ないと思った。


それとは別に、ミレアナのテンションの浮き沈みの激しさにソウスケは若干困惑していた。


(な、なんか珍しくテンションの落差が激しいな? まぁ、特に異常状態になっているとかじゃなさそうだから大丈夫か)


二人は気配感知の範囲を広げながら逃がしたスナイプビーの巣を探し始めた。

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