八十二話急に泣かれると困る
二人がギルドに向かう途中、ソウスケの鼻が漂って来る良い匂いを察知し、匂いの発信源に進行方向を変えた。
「ミレアナ、ちょっと道草喰うぞ」
「えっ、よ、今日の予定がある場所に向かわなくていいんですか?」
ソウスケのいきなり道草を喰う宣言にミレアナは驚き、つい大きな声を出してしまった。
ソウスケは逆にミレアナの驚き様に少し驚かされた。
「別に時間までに着かなければいけない用事って訳じゃないからな、そんなに焦る事は無い。用事自体もそこまで時間が掛かる内容じゃないからな」
「そ、そうなんですか。それならいいんですが」
「という訳で道草を喰うぞ」
「は、はい。分かりました」
ソウスケが先導で良い匂いの発信源へ向かうと、そこにはスープを売っている屋台があった。
「おっちゃん、スープ二杯ちょうだい」
「おう、二杯だな。一杯銅貨五枚だから十枚だぞ」
屋台の中年のおじさんが椀にスープを入れている間に、ソウスケは金を払う準備をしていた。
(結構具が入ってるんだな。野菜は勿論、肉もそこそこな量が入っているな。というか、なんか嗅いだ事がある匂いだな・・・・・・)
もうすでに原型はなく、匂いも他の野菜やスープと混ざっているため殆ど肉自身の元の匂いは残っていないが、ソウスケはほんの僅かな匂いと直感で何のモンスター肉かが分かった。
「おっちゃん、もしかしてスープに入っている肉ってオークの肉?」
「おう、よくわかったな坊主。坊主の言う通りスープに入っている肉はオークの肉さ。最近ギルドからいつもの値段より安く売られていたからな。いや~~~~、あれだけオークの肉が安く手に入ったのは初めてかもしれないな」
「そ、そうなんだ・・・・・・それは良かったな」
ソウスケはオークの肉が安く売りだされている理由に十分に心当たりがあるため、少し苦笑いになりながら屋台のおじさんに銅貨十枚を渡した。
「おう、確かにちゃんと十枚あるな。ほれ、スープ二杯だ」
スープ二杯を受け取ったソウスケは、一杯をミレアナに渡した。
「ほら」
「えっ、わ、わわわ私にですか!?」
「お前以外に誰がいるんだよ。ほら、早く受け取れよ」
「で、でも。私は奴隷ですよ?」
ミレアナの頭の中にある知識としては、こういった場面で奴隷が食べ物を食べる事は無いとなっていた。
それより前に前提として目も前にあるようなスープは食べられないと思っていた。
「俺はそういう事は気にしない人間なんだよ。いいから受け取れ、そして食べろ。お前に渡した装備と似た様なもんだ。惜しむ事じゃないんだよ」
ソウスケとしては当たり前の事を言っているのだが、ミレアナとしてはこの上なく嬉しくて目から涙が零れ落ちてしまった。
涙を流すミレアナのを見たソウスケは急な事にどうしたいいか分からず、屋台のおじさんに助けを求めた。
「お、おっちゃん。俺はどうしたらいいんだ!?」
「はっはっは、別に坊主が悪いわけでは無い。坊主がエルフの嬢ちゃんにとって良い主だから涙が零れたんだ。気にするこったー無い」
屋台のおじちゃんはミレアナから何故涙が零れ落ちたのか直ぐに分かったため、特に驚きはしなかった。
しなかったが、ソウスケの優しさに感嘆していた。
(この坊主は恐らく今まで結構田舎の方で暮らしていたのかもしれないな。だからこんな奴隷に対して優しい性格、なのかもしれないな)
おじさんの予想はあながち間違ってはいなかった。
「す、すみません。う、嬉しくて涙が出てしまっただけなんで。あ、あまり気にしないでください」
「そ、そうかなら良いんだけど・・・・・・ほら、とりあえず冷めないうちに食べようぜ」
「は、はい。そうですね!!」
それから五分間ほど二人は温かいスープを堪能した。
「はぁーーーー美味かった。おじさん、ご馳走様」
「ご馳走様でした」
二人の本当に美味しそうな顔に、おじさんはとても満足そうにしていた。
「おう、お粗末様。また食べに来てくれよ」
「ああ、また今度な」
こうして屋台を離れてからは特に道草を喰うこともなく、二人は冒険者ギルドにたどり着いた。
「よし、中に入るぞ」
「は、はい」
「そう構えなくていいから。お前強いんだし」
ソウスケは鑑定を使いミレアナのステータスを見たため、ミレアナの強さにある程度予想がついていた。
中に入るとまだ昼過ぎと言う事もあって、冒険者達は殆どいなかった。
ただ、ギルド内の酒場で飲んで食っている冒険者や、訓練場で訓練を終えた冒険者がぽつぽつといた。
そしてギルドの中にいた人達は、冒険者だけでなくギルドの人間までもがミレアナの姿に見惚れていた。
顔はハイ・エルフと言う事もあり普通に美人と呼べる人の顔が霞むレベル、スタイルはエルフ、ハイ・エルフにしては珍しく出ているところは出ている。
ミレアナの容姿、体型に男だけでなく女までも見惚れていた。
男の中にはムスコが元気になってしまい前屈みになっている者もいた。逆にムスコが元気になっているのにもかかわらず、それに気づかず自分の象徴を晒している者もいた。
そんな多くの視線が自分に向いているのに気が付いたミレアナは恥ずかしくなり、手で顔を覆い隠した。
だがそのおかげで大きな胸を守る物がなくなり、男たちにとっては寧ろ眼福になっていた。
「ミレアナ、お前の事をギルドの受付嬢に伝えるけど、もしスキルを書く事になったら馬鹿正直に書かなくていいからな」
ソウスケは周囲にばれない様小さな声でミレアナに伝えたが、多くの視線を受けていたミレアナは答える時に変な声を出してしまった。
「ひゃ、ひゃい!!!」
恥ずかしさのあまり変な声を出してしまったものの、ソウスケが伝えた内容をミレアナはしっかりと理解していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます