セイレキ2100

ヴァレー

第1話 アプト老人の臨終

 紀元前にして、約7500万年前のお話。地球とはとてつもなく離れた…具体的には4000万光年(光の速さで4000万年かかる距離)という遠い場所での出来事であるが、高度な文明を持った人類がある星に居住していた。この星の言語を厳密に再現すると面倒なので、地球人でもわかるような言葉に変換しなければなるまい……地球人たちが自分の星のことを「EARTH(地球)」と呼んでいるように、彼らは自分の星のことを「HOPE(希望)」と呼んでいた。

 ホープ星の人たちは、現代の私たち、西暦2000年あたりの地球人よりもずっと高度な文明を持っていた。それらの詳細を細かく説明するのは、この話を語る上ではあまり意味がないので、その文明の中でもこの話に関する最も重要な部分だけを語ろう。


 ホープ星の人類の姿や体の構造、ものの考え方などは現代の地球人ととても似ているので、彼らの様子を想像するには現代の地球人をそのまま想像してくれてよい。遺伝子に関する高度な技術により、平均寿命は300歳くらいになっていた。しかしそれでも、やはり歳を取ると体は動かなくなっていき、病気になり、やがて老衰して死んでしまうとか、そのあたりは現代の地球とほぼ同じである。医療技術が発達しているため、苦しみながら病気で死んでいくというような光景は、相当の貧困世帯でもない限りほとんど見られない。


 ホープ星の注目すべき技術の一つに「未来予測」というものがあった。非常にハイレベルなコンピューターを使い、ちょうど地球の人たちが1週間後の天気を予測するように、ホープ星の人たちはもっと多くのことを、地球人よりもはるかに正確に予測していた。

 これを組み合わせて医療や遺伝子技術の発展により、細胞・遺伝子のレベルでの未来予測が可能になった。人が死に、バラバラになり、空中に灰となって散って行っても、それらがずっと未来にどの辺に到達するかとか、それらの細胞や遺伝子がどのように結合して結果として何が生まれるかとか、そんなことまで予測できており、それが当たり前になっていた。細胞レベルで設定されている個人の「意識」が、遠い未来にどのようになっているか、ということを予測できた。

 簡単にいえば、彼らは「人が死んだ後にどうなるのか」を、意識レベルで、科学的に突き止めたのであった。地球人が「前世」とか「来世」とか呼んでいる、宗教がかった概念を、彼らは科学的に導き出した。


 結果「すべての生物は死んだ後に別の生物に生まれ変わる」ということがわかり、それはこの宇宙がなくなりでもしない限り、永久に続く、ということを知った。つまり人は死んでも別の生物に生まれ変わるのであって、地球の言葉でいう「霊魂」そのものは消滅しない。霊魂はどこかに飛んで行ったりして、また別の生物として生まれ変わる、ということである。

 これは多くの人々を安心させた。生物はすべて自我の消滅という恐怖から逃れられないからだ。しかしこのような概念が当たり前に社会に受け入れられるようになってくると、また別の不安が出てくるものである。その生まれ変わる先の生物は何か、ということだ。


 これに関してもホープ星の人たちは解明することに成功した。ものすごいコンピューター、ちょうど私たち地球人が人工知能と呼んでいる技術のずっと先端の技術だが、これによって将来、「いつ、どこの、どのような生物に生まれ変わるか」ということまで、しかも恐ろしく具体的にわかるようになっていた。「いつ」生まれ変わるのか、というのでさえ、数分単位で正確に予測できていた。たとえば「あなたは何年何時何分に、この星のこの場所で、○○という生物として産まれる」というふうにだ。

 しかしこの繊細な問題は重大だった。考えてみれば、生きている間に生まれ変わり先がわかってしまうというのは大きな問題である。昆虫に生まれ変わる人と人間に生まれ変わる人とでは、将来に対する希望の持ち方が全然違う。中には変えられないはずの生まれ変わり先を変えられるなどと嘯く「救済者」のような詐欺集団が増長したりと、大きな社会問題を引き起こした。

 そこでこの問題は、国際レベルの公の機関で厳密に管理されることとなった。具体的には、余命1ヶ月以内の宣告を医師にされた者にだけ、本人に「自分の生まれ変わり先」の情報を提示してもよい、ということだった。

 情報の提示は本人のみ。混乱を避けるために家族にすら知らせることは禁止されていたが、実際には禁止事項を破って本人が家族にしゃべったりしていた。それでもこの厳密な管理体制が敷かれて以来、生まれ変わり先のことで大きな混乱は起きなくなっていた。


 ホープ星のある病院で、ほぼ寝たきりの老人が病院のベッドに横たわっていた。この老人はアプトという名前で、すでに医師の死の宣告を受けており、余命は3週間だった。

 アプト老人は、生まれ変わり先の情報の提示を希望した。この情報は希望しないともらうことができない。すべての人が生まれ変わり先を知りたいわけではないのである。それは内容によっては、ひどく絶望させられるからだ。しかしこの老人は、どうしても自分の死後、何に生まれ変わるのかを知りたかったのだった。

 死後の情報を提示するのは、国が決めた指定の機関の技術者だった。医師ではない。未来予測の技術は莫大なコンピューター資源を使うことから、どちらかといえば工学寄りで、医学とはあまり関係がなかった。そうはいっても、医学の知識なしに死後の予測などできないので、ある程度の知識は要求されるのだが。


 情報の提示は病院ではなく、指定の特別な部屋で行われる。情報が第三者に聞かれては困るからだ。部屋は小ぎれいだが、情報の機密のために窓もなかったので、窮屈な感じだった。

 アプト老人はその部屋のベッドで寝ていた。意識はしっかりあるし、言葉もしゃべることができたが、老衰のため体は不自由だった。

 やってくる技術者はスードという70歳の青年だった。70歳の青年というのはいいかたがおかしいと思うかもしれないが、この星の人類の寿命を考えれば、地球人でいえば30歳半ばくらいに相当し、見た目もそのくらいである。研究者や技術者は社会に出るまでに膨大な量の勉強をしなければならないため、学生の時間が長いという理由もある。50歳くらいで就職するのがふつうである。


スードが部屋に入ってきた。


スード「アプトさん、エンジニアのスードと申します」


アプト老人「ええ・・・」


 この星の人々にはもちろん相当の言語があり、独特なしゃべり方があったりするのだが、それをそのまま書いたのでは都合が悪いので、日本語でそれっぽく表記することにする。

 その後しばらく沈黙が続いた。重大な情報を扱う時でもあるので、なかなか言葉が出にくいものである。スードの仕事も、ただ短い情報を老人に口頭で伝えるだけなのだが、これがなかなか言い出せないものである。


先にしゃべりだしたのはアプト老人のほうだった。


アプト「気を遣わんでもええんですわ、若先生。先生は大変な研究をしてらっしゃるんや、研究に専念してもらわんと・・・わしなんかのために疲れさしてもあかんやろうからなぁ・・・」


スード「いえ、そのようなお気遣いは無用です」


アプロ老人「わし、覚悟はできとります。蚊かもしれんし、アブラムシかもしれへん。向こうで産まれてもすぐに死ぬかもしれへん。でもな、ほんま感謝しとるんですわ。自分の生まれ変わり先がわかるだけでも十分ですわ。大昔の人は、それこそ死んだら消えてなくなるとか、ありもしないとわかっている天国やら地獄やらに行けると思わされておったんですから」


スード「ええ、ええ・・・」


アプト老人「それで、先生・・・ズバッといってもらってええんや。ワシの生まれ変わり先は、なんやろか?昆虫でも魚でも、微生物でもええんや。それだけでも十分ありがたい話なんや」


スード「では申し上げますが・・・」


アプト老人「・・・」


スード「アプトさん、あなたの生まれ変わり先は、人間です。もっとも、時代も場所も違うので、厳密に今と全く同じ形ではありませんが」


アプト老人「人間!?」


スード「はい」


アプト老人「若先生!気ぃ遣わんでもええんですわ!わしを安心させるために嘘はつかんでええんです!遠慮なくほんまのこと、いってくださればええんですわ!」


スード「これをご覧ください」


 スードは携帯用のコンピューターの画面を見せた。それは生まれ変わりの結果を出しているデータである。

 スードはCreature(生物)の欄を指さした。


スード「これは生まれ変わり先の生物の種類を示しています。human(人間)と書いてあるのがおわかりになりますか?」


アプト老人は興奮した様子で


アプト「ふむ・・・ふむ!なるほど!では、わしは人間に生まれ変わるのですな!」


スード「そうです」


アプト「おお・・・おお・・・!なんとありがたいことで・・・!」


スード「それはよかったです」


 技術者はこのとき、淡々と述べることを義務付けられている。残念とか喜ばしいとかいう言葉は、少なくとも技術者は、基本的には使ってはいけない。特に生まれ変わり先が、一般的にあまり望ましくないもの・・・昆虫や微生物などであれば、提示された側がパニックになりかねない。

 しかし今回は生まれ変わり先が人間であることもあり、このようなときは提示された側がパニックに陥ることはほとんどない。いわば今回のスードの仕事は、いつものパターンであれば楽なものになるはずだった。


アプト「そうか、そうか・・・またこの姿でやり直せるんですな!ありがたい、ありがたい・・・楽しみですな!向こうの世界で、今度は綺麗な娘と・・・ああ、そうや先生!生まれ変わりの私は、男性ですかな?それとも女性で?」


スード「男性ですよ」


アプト「そうかそうか!またこの姿でやり直せるんやな!ありがたい!今から楽しみですわ・・・いや先生、申し訳ない!わしはてっきり微生物やらアブラムシやらになるんじゃないかと思っとったんですわ!まさか人間だとは、もう意外や意外、わし、今まで生きとってこんなに感動したことがないというくらいですわ!」


スード「それは良かった。・・・ところでアプトさん、まだ詳細情報が残っているのですが?」


アプト「詳細?ああ、そうやった!わしとしたことが、浮かれてしまったわ。そうそう、で、なんやったかいな?」


スード「詳細情報です」


アプト「そやそや、生まれ変わりのな?詳細情報。そうや先生、その生まれ変わりというのは、いつのことなんです?10年くらい先やろか?それとも20年?もう今から待ち遠しいんですわ!」


スード「アプトさん、まずよくご理解いただきたいのですが、死んでから生まれ変わるまでの間は、どんなに長い時間でもほぼ一瞬に感じられます。意識がない状態ですし、眠っているのとも違います。その間は微分遺伝子・・・大昔の人たちが言っていた「霊魂」だけ浮遊している状態で、時間という感覚を一切感じません。つまり、10年だろうが20年だろうが、アプトさんにとっては同じように一瞬に感じます。いいですね?」


アプト「ああ、ああ、ようわかりました。10年も20年も同じなんですな?わかりましたとも!それでわしが生まれ変われるのは何年先ですかな?まさか100年先とかおっしゃったりはしませんな?ガハハ!」


スード「100年先でも1万年先でも感覚的には同じですがね、アプトさん。私の申し上げたこと、ちゃんとご理解なさってますよね?」


アプト「わかっておりますとも!100年でも1万年でも・・・ん?まさか先生、1万年先とかいうのではないでしょうな?」


 スードは携帯コンピューターを見せた。そこの「space calender(宇宙暦)」の欄に、「13800017352.43956」と書いてある。


スード「アプトさん、少し難しいお話ですが、私たちが存在するこの宇宙が出来上がったのは約137億2500万年前で、この宇宙の誕生時を私たちエンジニアは「宇宙暦元年」と呼んでいます。そしてその宇宙暦で、アプトさんが生まれ変わる時は約138億と1万年ということになります」


アプト「はあ・・・ふむ、先生方がそのような・・・なんやろ、難しい暦を使っておられるのはわかります。でもわしら一般の者にはようわからんのですわ。要するに先生、今から何年後にわしは生まれ変わるんやろか?」


スード「それは、生まれ変わる宇宙暦138億から現在の宇宙暦137億2500万年を差し引いて・・・つまりですね、7500万年後ということになりますね」


アプト「・・・え?・・・先生、わしの聞き間違えやろか?7500年、と聞こえたんですが?」


スード「7500年ではなくて、7500万年です」


アプト「あ・・・へ、へぇ!」


アプト老人はもう少しで失神しそうだった。


スード「アプトさん、落ち着いて!先に言ったでしょう、どんな年月でも一瞬に感じると!」


アプト「一瞬?」

スード「そうです。今の私たちには7500万年という時間はとてつもなく長く感じられますが、死んでから生まれ変わるまでのアプトさんの感覚では、ほとんど一瞬に感じられます。死んだと思ったら、次の瞬間には赤ん坊として生まれているのですよ」


アプト「ほ、本当ですかいな?先生、ほんまに一瞬で生まれ変われるんですかな?」


スード「少なくとも、アプトさんにはそのように感じられます」


アプト「そ、そうでしたか・・・はあ、びっくりしましたわ・・・そうかそうか、それならええんや。7500万年・・・それでも一瞬なんやな?死んだと思ったらもう目が覚めて、もうわしは赤ん坊になっておるんですな?」


スード「その通りです」


アプト「ありがとう、ありがとう!そや、そやな!わしとしたことが、いろんな情報がいっぺんに入ってくるもんで、取り乱してしまいましたわ!」


スード「そのようですね。まあ落ち着いて」


アプト老人は落ち着きを取り戻した。そしてスードは続けた。


スード「それで、生まれ変わる場所なのですが・・・申し上げてもよろしいですか?」


アプト「ふむ、生まれ変わる場所ね・・・ええ、どうぞ先生!おっしゃってください!」


スード「ここよりもとてつもなく遠い星です。具体的には、この星から約4000万光年離れた星で生まれ変わります」


アプト「4000万年?それ、どれくらい遠いんじゃろ?」


スード「4000万光年です。光の速さで4000万年かかる距離、です」


アプト「ようわかりませんが、要するにとても遠いところなのですな?」


スード「ええ、そうですね。その星は、X_APKHVT_4973529・Y_JVHFOEG_83650・VEC_07548.08563という名前がありますが、これではややこしくてわかりにくい・・・現地人は自分たちの星のことを『地球』と呼ぶだろうと予測しているので、そう呼ぶことにしましょう」


アプト「地球・・・地の星ですか・・・よいネーミングセンスですな!地球・・・そうか、わしは地球の人間になるのですな?」


スード「そうです」


アプト「そうですかそうですか!ありがたいことで・・・ところでその地球人というのはどんな人たちなんでしょうな?先生、そういうことまではわからんのやろか?」


スード「地球人の社会状況までは予測できませんが、体の遺伝的な構造などはわかっています。およそ私たちと似たような形、構造を持っています。予測される体の構造などから考えると、私たちホープの人類よりもたぶん気性が荒く、自己中心的で、あまり先の未来のことを考えない気質だと思われます」


アプト「ふーむ、それはよろしくありませんな・・・まあ多少はしかたありますまい!」


スード「あとそれと・・・」


アプト「それと・・・なんです?」


スード「ああいや・・・実はその、我々よりもずっと寿命は短いです。平均寿命は約80年程度ですね。文明が十分高くないという理由もあるのですが」


アプト「いやいやいや、80年!それだけ生きられれば十分ですとも!ありがたい!」


スード「ええ・・・ただし・・・」


アプト「ただし・・・なんですかな?先生、何かいいにくいことですかな?いや、ええんですわ先生!もうわし、何いわれても驚きませんので!大丈夫です、おっしゃってください!」


スード「今の時点で、生まれ変わる先の先天的な病気なども予測できます。それでアプトさん、あなたが生まれ変わった先での寿命もわかっています」


アプト「うむ、寿命ですな?なるほど、わしが生まれてからいつ死ぬかまでわかっていると!」


スード「はい。お望みならお教えするよういわれておりますが、いかがいたしますか?」


アプト「ええ、大丈夫ですとも!おっしゃってください先生!人間に生まれても、すぐに死ぬかもしれへんのや!」


スード「31年、と出ています」


アプト「31年!なるほど!平均寿命よりもずいぶん短いですな・・・しかしわし、もう贅沢は申しません!人間としてまた生きられて、しかも若い体になれて、それで31年も!それで十分です、先生!」


アプト老人は、元気な口調だったが、やはりショックは多少あったのか、その元気さも演技じみていた。


アプト「その、31歳で死んでしまう理由というのはなんでしょうかな?そういうのは予測できたりするもんですかな?」


スード「残念ながら、それはわかりません。未来予測のコンピューターは膨大なデータに基づいて、まるで人間の脳のように判断を下します。その中で行われている情報処理はあまりにも速く多く複雑で、人間が分析できるようなものではありません。私たちエンジニアは、コンピューターが出した結果を読むことはできますが、なぜその結果が出たのかはわからないのです」


アプト「そうですか・・・いや、ええんです。それだけでも、十分です先生!」


スード「最後に電波処理のお話ですが・・・」


 この告知の後、最後に「電波処理」と呼ばれるオプションがある。これはおまけみたいなものなのだが、生まれ変わる先の自分自身に、電波を使って自由に好きなメッセージを送れる、というものだった。

 具体的には、本人が死亡した後にホープ星から生まれ変わり先の星へ向けて、メッセージを収納した電波を送信する。もし運が良ければ生まれ変わった先でその電波を受け取り、メッセージを解釈できれば、生まれ変わった後に生まれ変わる前の自分から発信したメッセージを受け取れる、ということになる。


 しかしこれは、実際にはまったくあてにならないシステムだった。電波を発信するところまではうまくできるのだが、生まれ変わった先の星で電波を受け取らなければならない。そちらの星で、宇宙から届いた突然の電波を受け取れる文明があるかどうかがまず問題である。

 そしてまた、仮に電波を受け取れる文明があったとしても、本人がそれを受け取れるかどうかだ。読者のような一般の地球人が、突然宇宙から届いた電波を受け取って解釈してみるなど、ありえないことだ。

 最も難しい問題は言葉の壁だった。まったく言葉のわからない星から届いたメッセージを受け取ったところで、普通に考えれば意味が分かるはずがない。しかもそれは絵や図でもなく、紙や画面に描かれた言葉でもなく、「電波」なのだ。

 電波を送るのには理由がある。通常は非常に遠い星へ向かって送るので、ロケットに何か物質を入れて送るなどの方法では「遅すぎる」のである。微分遺伝子・・・わかりやすい言葉で「霊魂」の飛んでいく速度は光に近い速さなので、同じくらいの速度を持つ電波を同時に送信しないと、生まれ変わるまでに間に合わないのだ。

 それで言葉の壁を乗り越えるため、メッセージの言葉は「どんな言語を持つ人類にでも、ある程度共通なメッセージの仕組み」を使って、その信号に変化されて送られる。これによって言葉の全く通じない星の人間にも、ある程度の文明力があれば解釈できる可能性がある、というものである。


 しかしそれは「解釈できる可能性がある」という程度のもので、正直全くあてにならない。実際のところ、生まれ変わった先の自分が運良く生まれ変わった先の自分が電波信号のメッセージを無事受け取れる可能性はほとんどゼロと考えていいだろう。

 また当然ではあるが、生まれ変わり先の生物が、明らかに電波を解釈できないような下等生物であるとわかっている場合は、このオプションはつかない。アプト老人の生まれ変わり先は地球の人間であるため、「解釈できる可能性がある」と判断され、このオプションを付けることができる。


アプト「メッセージですな?なんでもええんやろか?」


スード「なんでもいいですよ」


アプト「どんなに長くても?」


スード「大丈夫です」


アプト「うむ・・・それなら・・・」


アプト老人はしばらく考えて、思いついたようにいった。


アプト「まず、人は生まれ変わる、ということをそいつに教えてやってほしいんですわ」


スード「生まれ変わる、ということですか?」


アプト「うむ、その地球とやらはわしらの星よりもずっと文明が低いと思うんですわ。だからたぶんやけど、地球人は、人が死んだら生まれ変わって別の生物になる、という事実を知らんと思うのです。大昔のホープ人のように、死んだら永久に消えてなくなるとか、ありもしない天国や地獄を信じてみたり、あるいは考えるのも恐ろしいので、できるだけ日常を忙しくして死後の世界など考えないようにするとかな?それじゃあ安心して死ねませんがな!だから教えてやりたいんです。死んでも次があるのだと、その事実を」


スード「なるほど、わかりました。その意味のメッセージを入れておきましょう」


アプト「それと、あとは・・・」


スード「はい」


アプト「そやな、先生!何か先生からメッセージを入れてもらえんやろか?」


スード「へ?私が・・・ですか?」


アプト「うむ!わしがこうして安心して死ねるのも先生のおかげなんで、先生にはほんま感謝しとるんですわ!先生はお若いからようわからんかもしれんけど、人間、死ぬときはほんまに孤独なんです。孤独は絶望です。生まれ変わったらミジンコみたいなもんに生まれ変わって、ようわからんまま生きて、ようわからんまますぐに死ぬもんやと思っておったんです。それが先生に告知されてな、ほんま生き返ったようですわ!ほんまありがたいことなんです、先生。だから・・・」


スード「私はただコンピューターの出した計算結果を申し上げているだけなので、何も大したことはしておりません」


アプト「ええんです!ええんです先生、そんな遠慮せんでも!なあ先生、生まれ変わる先のわしに、なにかいうてくれませんやろか?それでわしはなんとなく、安心して死ねる気がするんですわ」


スード「・・・なるほど、そうですか。では僭越ながら、何か少しメッセージを」


アプト「入れてくれますか!ありがたいことで」


スード「ええ、でもまあ、少し考えさせてください。今すぐには思いつきませんので」


アプト「ええ、ええ、考えてください先生!わしはもう、先生がわしの思い付きを受け入れてくれただけで充分ありがたいんですわ!」


 アプト老人の面談はこれで終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます