第7話 魔族の国

魔族が『ファンダイク』へ攻め入るという報告がシグムンドに入る少し前の話へと変わる。

エドがルーキフェルの魔法を利用して大爆発させたすぐあとの話。

世界の最南端に位置する大陸、『ルーラシア大陸』この大陸は世界の2割を占める巨大な大陸で元は人間が住んでいた国『シュクユウ』が存在していたが魔王軍の侵略により陥落した。

現在は魔王軍の本部として利用されている。

誰もその場所をみたことはないが、噂では空はドス黒く太陽の光も入らず、緑が全てなくなり荒れ果てた荒野の中に魔王軍の総本部があるとされる。

しかし、現実はそんなことは無く、空は昼は青く夜は黒く、緑も当時とあまり変わらない姿で残っている。

ただ一つ変わっていることとすれば『シュクユウ』があった場所には黒く、巨大な城がそびえだっているという事だ。

巨国をまるまるひとつ飲み込んで作られた城は想像することが出来ないほど大きい。

しかし、実を言うと城は中央に位置している奇怪な形をしている建物でその周りにあるものは城壁である。

そしてその城壁の中には城下町が広がり、様々な魔族...『鬼人オーガ』、『小鬼ゴブリン』、『竜人リザードマン』、『魚人マーマン』などの言い表すことが困難な程の数のいる種類の魔族がいる町が広がっており、かつての国よりも活気がある。

そこから小さな村が根のように広がりそれらをまとめる四方の街が点在する。

そしてその四方の街のまとめているのが首都として機能している黒き城である。

城は闇のごとく真っ黒で、奇妙な形も相まってかなり不気味な雰囲気の漂うものとなっている。

1階はまるで回廊のような造りになっており回廊の4角には4本の塔がそびえ立っている。

そして中央には大樹のような大きさの本城があり、そこから2階に上がれる。

その外見は刺々しい壁をしており、そして奇怪な丸やら三角のような図形が壁一面に広がっている。

本城はとてもアンバランスとも言える謎の巨大な箱のような部屋が塔の頂上より少しした辺りに3つでき物のようについている。

この部屋は魔王軍の中でも2番目の権威を誇る『三魔将』が住まう住居となっている。

見た目的にはそれほどの地位を持つものが住むべきとは思えない大きさだがこの中は魔法で広くなっており、その大きさは人間の貴族が住む屋敷の2倍から3倍ほどになる。

その中の一室。堕天使の王『ルーキフェル・アーキテクト』が住む部屋の中から話は始まる。


洞窟から転移して帰ってきたルーキフェルの服は酷く汚れており、ところどころ破けてしまい、美しい白い肌が露わになってしまっている。

ルーキフェルほどの強者にこのような仕打ちをしたものは自分が警戒する価値なしと判断した人間エドによって付けられたものだ。

エドの無謀な攻撃により今まで人間に傷一つ、汚れ1つ付けられなかったルーキフェルの瞳の中には憤怒の色が濃く映っていた。


「おのれ....!たかが一人間の分際で私に汚れをつけるなど....!!」

その憤怒は心のうちに留めておくことが出来ず、周りの石柱や壁にルーキフェルから漏れ出た魔力によりヒビが入り始めた。

それを見て主の帰還とともに迎えに来た使用人たちがルーキフェルに近づいて良いものかとたじろいでしまうほどに。

そんな蛇に睨まれた蛙のような使用人を差し置いてルーキフェルに近づいた者がいた。


「ルーキフェル!何また勝手に城を抜け出してきてんだよ。だからいつも言ってんだろ?外に行きたいのなら俺やこの屋敷の使用人に言ってくれりゃその手続きを取ってやるって。」


「ん。バティン...重ねて言葉を返すがいつも言っているはず、その手続きがめんどくさいと。」


バティンと言われた男はルーキフェルの配下の中でも最上位に位置し、『72の災厄の悪魔サタン・オブ・ディザスターNumbers72』に所属する大悪魔の1人。

見た目は赤髪の黄眼の好青年。

顔には若いながらも勇ましく、頼りがいのある面構えをしており、細身でもその体はかなり鍛え上げられていて、細くがっちりと逞しい腕や体は服の下からでも逞しさが浮き出ている。。

服装は上は馬の革をなめして作ったジャケットを来ている。もちろんこのジャケットはただの高級品ではなく、魔物の中でも最上位に位置する魔獣名だたる神馬の祖先スヴァジルファリという魔獣の皮をなめして作られたもの。

この魔獣は決して強い訳では無い。しかし、現在、その姿は幻とされており魔族や人間でさえも見つけることは不可能に近いとされている。

そのような魔獣のジャケットを来ているということは彼の地位はかなり高いということを意味する。

なおかつ、そのジャケットそのものもかなりの防御力を秘めたもので、生半可で有名な鎧よりもずっと防御力がある。

下半身には深紅の鎧をつけており、黒のズボンを下地に膝を干渉しないように付けられ足の甲の鎧サバトンすね当ての鎧グリーブ太ももの鎧キュイス、バティンは馬には乗らないが蹴りの殺傷力を上げるために工夫されたかかとの鎧スプールを装着している。

これだけ見ればバティンは人間と全く変わらない見た目だが彼の臀部からは蛇のような自由自在に動く細いしっぽが生えており、そこから繋がっているのか彼の頬の後ろ側には蛇のような鱗模様がある。

それが彼が人間ではないことをものがたっている。


「いや、だからって規則はやぶんなよ...まぁ、この際この話はどうでも良くて、他の三魔将の方々があんたをお呼びだ。

いつもの会議だよ。」


バティンがとある書類をルーキフェルに手渡すと、ルーキフェルの顔からは見るからに面倒臭いと言いたげななんとも言えない顔へと崩れた。

それと同時にバティンは周りにいる使用人達に退出するように目で促した。


「パス。」


「いや、出来ねぇよ。」


「なら私はまだ外出中って言っといて。」


「あんたここに居るじゃん。」


「いーやーいーきーくーなーいー」


「駄々をこねるなよ!あんたもういい大人だろう!」


「心は子供。」


「やかましい!」


先のルーキフェルの話を見た人はここでの会話に困惑しているだろう。

配下の魔族たちには隠しているがルーキフェルの本来の性格は自由奔放で、たびたび自分が嫌だと思うことには子供のような理由でキャンセルさせようとしてくるのだ。

三魔将の間では知られているが、そこから下の者達は知らない。その理由は単純で部下に自分の地位がいかなるものかという威厳が廃れる恐れがあるためだ。

ルーキフェル本人は別にそんなこと気にしてはいないが、他のふたりがやめてくれとしつこく言うためルーキフェルは渋々難しい言葉を使ってあらゆる者が想像する『圧倒的強者の振る舞い』を演じている。

でもやはりルーキフェルは自分のしたくないことを結果的には無理やりさせられているようなものなので時々ボロが出てしまう時があるのでそこはバティンがフォローして誤魔化している時がある。


「さっさと自室に行ってその汚れた服から着替えてきてくれ。」


「えーー!!めんどくちゃい。」


「可愛く言ってもだめだ。」


バティンは冷たく言うとルーキフェルから口を尖らせたまま自分の親指を下にしてブーイングしながら自室へと入って行った。

はぁっと疲れたようなため息をバティンはついた。

そしてふとあることに気づいた。


(そういやルーキフェルのやつ傷はついていないが服があんなにボロボロになって帰ってくるなんて余程強いやつと当たってきたのか?

あいつのドレスって低いやつでもそこそこの防御力あるはずだからそうそうやぶけないはずなんだがなぁ...)


その疑問を解消すべくバティンはルーキフェルの入った部屋の扉をノックした。


「なぁ、ルーキフェル。お前ボロボロになって帰ってきたがシグムンドに会ったのか?」


シグムンドの名は魔族のほぼ全員が知っている強敵だ。

何回もシグムンドのせいで勝てると思った戦いが負けに終わったことがある。

それもたった一人、シグムンドがやって来ただけで。

それ故にシグムンドは魔族の間では『人類最強の男』として知られ、魔族が勝利を得るためにはシグムンドは壊さねばいけない壁であり、故にどんな手を使ってもシグムンドを殺したいのが魔族の本音。

だから何回も魔族の暗殺部隊を送っているのだが、成功の知らせどころか誰一人帰ってこなかったのだ。

だから大抵、三魔将が傷を負う相手は『フンディング帝国』ではシグムンドぐらいしか居ないのだ。


「いや。違う。」


「?。じゃあ誰にやられたんだ。あの前に会議で出てたS級冒険者か?」


「それも違うよ。知りたい?」


「まぁな。お前ほどのやつの服を剥がすやつだ。将来強敵になるやつの情報は前もって知りたいしな。」


「なんか、バティン。その言い方だと、服を剥がすことで競い合っている変態みたい。」


「そんなしょうもないこと言ってないでいいから教えろ!!」


扉を少し開けてじとっと見てくるルーキフェルにバティンが少しキレた。


「人間だよ。神子になりたてのね。」


「あー、神子か。あそこは確か情報屋の話では神器を3つ所有してたなー。

ということは考えられるのは剣の神子で知られている万物を両断する剣フラガラッハの神子にやられたのか。

聞く限りあの能力はほんとに強大なものだしな。」


1人で納得しているバティンにルーキフェルは可愛く、


「ぶっぶー。ざんねんそれも違う。私がやられたのは偉大なる魔法使いの錬金石賢者の石の神子だよ。」


それを聞いてバティンの顔が崩れた。

その理由は前々から聞いていた偉大なる魔法使いの錬金石賢者の石の歴代の神子はその能力を生かせる人材に巡り会えず会議でも『神器の中でも警戒の必要なし。』と判断されている。

そんな『最弱の神子』と謳われている雑魚に三魔将が傷は負わせられなかったが一撃を入れられた。

その事実だけでも驚くべきなのだがそれでは色々と問題が起きる。

まず、自軍の配下の魔族の中での『三魔将』のレベルの変動の恐れ。

まずこれだけ言うと魔族の殆どは『三魔将』という位に憧れを抱き、敬愛する。

しかし、その位の1人がたかが人間。それも最弱と認定された者に攻撃をもらったなどと知られればその地位は事実的には変わらないが配下の中では低下してしまう。

そうなってしまえば士気にも影響を及ぼし、最悪、ルーキフェルの強さをその情報だけで勝てると勘違いする下衆による反乱が起きかねない。

よってそういった事態が起きる前に手を打たなければならない。


「信じられないが、今年の石の神子は少々判断を修正する必要がありそうだな。

それ、口外するなよ。今のところは有り得そうなS級冒険者に油断したところを不意打ちされたってことにしとけよ。」


「はいはい。分かってますよっと。終わったよ。場所はいつものところ?」


扉が開き、そこからルーキフェルの姿が現れた。

その姿はもはや神話に描かれる聖女の如く美しさで煌びやかな純黒のドレスの右肩から左脇腹にかけて大きな黒いバラが線を描くように伸びており、腰周りには大きさを均一化されたブラックダイヤを埋め込まれている。

スカートにはフリルがついており、上は美しさ、下は可愛らしさを出している独特なクラシックドレス。

両手には真っ黒の腕周りまで伸びる手袋をつけている。


「場所はいつもの大会議室ですよ、お嬢様。さて、参りましょうか。」


バティンは先程までの態度とうって変わりまるで上級執事バトラーのような気品ある仕草でルーキフェルへ手を差し伸べた。


「バティン。なんかキモイ。」


「はぁー。せっかく無理してやったったのに。返す態度がそれかい。あ、これ忘れてるぞ。」


バティンはルーキフェルの部屋の入口近くに掛けていたレース付きの帽子を手に取りルーキフェルへ渡した。


「むぅ。これ痒いから被りたくない。」


「しょうがないだろ。気品ある態度を保たなければいけないんだから。」


「はいはい。気品溢れるルーキフェル様ですよーだ。」


「なんでこいつこんなにもガキなんだよ...」



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神器戦争《セイクリッド・ウォー》 黄田毅 @kida100

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