第3話 初陣

翌日のまだ日が登っている最中の時。

エド達が止まっている部屋の戸が軽く2回ノックされた。


「エド様。メガイラ様。

ご出立時刻の30分前でございます。

身支度をお整えられたら、1階ロビーにおこし下さい。」


と、男性使用人らしき人物に言われてメガイラが目を覚ます。


「出立時刻ってまだ日が昇り切ってないじゃないか...」


メガイラが寝ぼけ眼を擦りながらぼやく。


「ま、それほど遠出になるか討伐するのに時間がかかるんだろ。

ほら、エリーも顔洗ってこいよ。」


「・・・もしかして起きてたの?」


エドはローブからいつもの服装へと、着替えながら頷いた。

猟師であるエドにとってこの時間よりも早く起きているので苦ではない。

それに引替えメガイラは通常この1、2時間後に起きているので目を開けるのでさえ辛い。

なんとか体を起こし準備を始めた。

準備が終わるとすぐさま部屋を出た。

魔動エレベーターで1階に降りると、紳士淑女の人混みの中で浮いている存在の姿が見えた。

その数は4人で1人は少女のように見えローブを着ている。

顔はフードを被っているのでよく見えない。

また1人は体は大柄で鎧を、また1人は細身で布の不思議な服を着ており、鎧の類のものは来ていないようだ。

最後の一人は鎖帷子を着て、短めのフードを被っている。

彼らの正体は直ぐに分かった。

シグムンドが昨日言っていたS級冒険者グループ『黒き聖杯』のメンバーだろう。


ローブを着た魔術師ソーサラーらしき人物がこちらへやってきた。

身長は160位だろうか、魔術師ソーサラーがエドたちの前で止まると深くかぶっていたフードを後ろへと外した。

フードの中から現れた短い髪は青色をしており、例えるなら青空に映える海の色というのだろうか。

まるでわんぱく少年を絵に書いた様な髪型をした女性。

顔も世間一般的な魔術師ソーサラーのイメージの真逆で活発的に思える可愛らしい顔。

瞳の薄い水色がまた、彼女の可愛らしさをひき立てているようだ。

見た目は20代前後に見え、ローブの胸あたりには魔術師組合所属を示す金色の杖の紋章が描かれている。


「す、すごい!この若さでこの紋章を貰えるなんて!」


メガイラが珍しく興奮気味に言った。

杖の紋章は色によってランク付けされており、彼女の胸に掲げている金色は最高魔術師を表している。

メガイラは魔術師組合に登録しているのだが、現在下から2番目の青色で止まっている。

彼女の地位はメガイラにとってもはや英雄と言っても過言ではない。

同様の模様の拡大バージョンが背中に写されている。



「お〜す。もう話はシグムンドから聞いてるよね?

あたしが『黒き聖杯』のリーダーを務めているコンタンス・レヴィだよー。気軽に『レヴィちゃん』って呼んでね〜。

よろしく〜。」


軽い。初対面の挨拶はこんなにも軽いものだったのか、レヴィと名乗った女性は軽く右手を上げて言った。


「リーダー...初対面でそれは軽すぎるぞ。」


後ろの鎧を着た大柄の男がやれやれっといった様子でほかの2人と一緒にやって来た。


「ふにゅ〜。そうは言われてもねぇ。フレンドリーにいくのがあたしらしいのにー。」


「それはいいけど時と場合ってものがあるよ。レヴィ。」


鎖帷子を着た男がレヴィに言う。


「え〜。ヴィーはいつもそれなんだから。」


「おいおい。そのくらいにしとけ。

お向こうさん流れについていけなくてポカンとしてるぜ。」


実際そうだ。もう何が何だかエド達は分からなくなっている。


「あ〜、ごめんね。じゃあ外に止めてある馬車の中でちゃんとするね。

来てきて〜。」


笑顔でエドたちの手を引っ張りながらレヴィは宿の外へと連れ出した。

一般的なワゴネットの馬車に乗り込んで、馬車は目的地と思われるところへと進み始めた。


「さて!改めましてあたしが『黒き聖杯』のリーダー、コンタンス・レヴィちゃんなのだ!」


揺れる馬車の中器用にバランスを取りながら立ち、ブイサインをこちらへ向けてきた。

しかし、それを遮るように


「それで、僕が偵察役をやっている『猟兵レンジャー』のヴィルヘルム・アルトドルフ。

レヴィが暴走したら僕に言ってね。」


鎖帷子を着ていた青年がフードを取りこちらへ笑顔を発した。

髪はボサボサの金色で、とても優しそうな好青年の顔にエド達はほっとする。

....隣で青髪の少女がブーブーと文句を言ってるのを無視して。


「俺だな?俺がチームの盾と剣を任されている『重戦士ヘビーウォリアー』カラドックだ。

まぁ、近接戦闘面でなんかあったら俺に頼れや。」


カラドックはまさしく大男という言葉が相応しく頭には赤のバンダナを付け、角張っている顔の左頬には大きな傷がついている。

右脇には普段つけているだろうヘルムを抱えている。


「・・・・」


「おいおい。自己紹介ぐらいはしといた方がいいだろ。」


カラドックが最後の細身の男に話しかける。


「『忍者シノビ』コタロウ。ヴィーと同じ役職と思ってくれ....」


真っ黒い不思議な服を来ている黒髪の目元まで髪を伸ばしている少年がこちらを見ずに答える。

目は髪で見えないが歳はエドたちと大差ないだろう。


「暗い!くらいぞコタロウ!幾ら闇に紛れるのが得意な職業でもそれは暗すぎる!」


レヴィがコタロウの元へ行き頭をペちペちと叩く。

エド達もあらかた自分のことを紹介し終えた後で


「『忍者シノビ』って職業は聞いたことないんですけど。一体どんな職業なんですか?」


メガイラがレヴィ達に聞く。その答えはカラドックからやってきた。


「コタロウの出身が東方の国でよ。そこの国発祥の職業だ。まあ、『暗殺者アサシン』と似たようなものだと思ってくれや。おっと、着いたみてぇだな。」


馬車が止まった。どうやら近くには着いたらしいが馬車では音で気づかれる可能性が高いのでここからは歩いて向かうようだ。


「今回は敗残兵の討伐が目的だが、まずどんな時でも偵察が必要だ。

普段はコタロウに任せてるんだが、今回は勉強という目的だからお前達2人にも行ってもらうぞ。」


「でも僕達は『隠密技術ステルススキル』なんて1個も解放してませんよ?」


カラドックの提案にメガイラが質問で返す。


「それは問題ないよ。レヴィの魔法で音を消す魔法があるから時間内だったら大丈夫だよ。」


「ほう。そんなことが出来るのか。」


エドとヴィルヘルムのやり取りの間に入って


「舐めないで欲しいものだね〜。これでもさ・い・こ・う魔術師の称号を与えられてるんだからね!」


エヘンっとした態度でレヴィが大言した。


「レヴィ。時間がもったいないから2人に『音消サウンド・バニッシュ』の魔法と他の『強化バフ』の魔法をかけてあげて」


また、ブーブーと文句をいいながらエドたちに『音消サウンド・バニッシュ』、他にも『俊敏スピードアップ』、『身体軟体ソフト・ボディ』の魔法もかけた。


「まだ色々とかけられるけど偵察だし、素早さとかの魔法で充分だと思うよ。ま、だいたい相手がどんなのか分かってるからそれに見合った魔法をかけたよー。」


「ほんじゃ、お二人さん。頑張ってコタロウについて行きな。俺達はここで待ってっからよ。」


エドたちの了解の返事とともに


「よし...いくぞ。」


コタロウが無動作ノーモーションの跳躍で木の枝に乗った。


「「は?」」


2人は顔が引きつった。


「何をしている....?はやくこい。」


いやいやいやいやいやいや、無理。

そんな跳躍出来るはずがない。

助けてくれと願わんばかりの眼差しをレヴィ達に向けるとカラドックからかえってきたのは、


「だから『頑張ってついていけ』って言ったろ?ほれ、飛べないんなら走っていけぃ。」


笑いながら言ってきた。

もうやるしかない。態度はとても明るいものだが冗談で言っているものではなかった。


((くそったれーー!!!!))


口に出したいがここは敵地の近く。

気持ちをぐっと堪えてコタロウが飛び去った方向へと猛ダッシュて駆け抜けていく。


「行ったな。さて、どうなることやら」


「そうだね。ダイダロスの神子の方は鍛えればなんとかなるよ。でも、石の神子の方はどうだろうね。

彼、魔法使えなさそうだよ?」


「ふむー。どんなものにでも試練はいつか必ず訪れるものだよね。

違うのはその時期がやってくるのが早いのか遅いのかの違い。

今はエドくんがその時期が来てるだけの話、あたし達が手助けしてあげればいいんだよ。


...今までの石の神子のようにならないようにね」


一方、


「やっと来たか...遅いぞ...」


「ハァ....ハぁ...無茶...いう...な...」


「.........うぷっ」


顔面蒼白の2人は答えることすら苦しかった。


「見ろ。敵の様子を伺うんだ....」


見ると、そこに居たのはおよそ10はいるだろう『小鬼ゴブリン』達がいた。

その後ろには3m近い高さのある穴が空いていた。

恐らく『小鬼ゴブリン』はそこを守っているのだろう。


「ふむ...。あの洞穴の大きさからして『鬼人オーガ』がいる可能性が高いな...。」


「なんで...そんなことがわか...うぷっ..。」


「自然にできたならともかくあの穴は完全に奴らによって拡張されたものだろう...。

そして、『小鬼奴ら』だけなら広げる意味は無い。よって、比較的仲の良い『鬼人オーガ』の大きさであればあれは住めるほどのサイズだろう。」


「「ほぉー...」」


冒険者にとって当たり前のことかもしれないが知らないエド達には関心する事が出来る情報だ。


「今回はこのぐらいで十分だろう...。

レヴィ達のところに戻るぞ。そろそろ魔法の効力もきれる頃だろう...。」


「え?また、あの道走るのか....?」


「当たり前だ...。」


というのと同時にコタロウの姿が消える。


((いじめだァァァァァァァァ!!!!))


心の中でコタロウを怨みつつまた、猛ダッシュで来た道を駆けていく。

やっとの思いでたどり着くとコタロウがもう既にさっきの情報を伝え終わったあとだった。


「お。お疲れさん。勉強出来たか?」


「あ、あぁ...俺らには合わないってことがな....。おぇ...」


「ははは。そうだ、ほれ。神器だ。これから戦闘に入る。覚悟しとけよ?」


カラドックが魔法鞄マジックバッグからリヴァイアサンと賢者の石を取り出し、エド達に渡した。

この魔法鞄マジックバッグは肩がけのバッグという見た目の割にかなりの量のものが入るので冒険者御用達の品だ。


「何かあったらあたし達が守るけど一応訓練って名目だから基本的にはあたし達は手を出さないからよろしくー。」


「気楽に行こ。緊張は大事だけど戦いの最中ではマイナス面の効果の方が多いから。」


「さてと、行きますか。」


エド達は確かに緊張しているのだが、他にも不安的要素がある。

特にメガイラに関しては自らの手で他者の命を奪ったことがない。

エドは狩りで必ず獲物は仕留めているので慣れてはいる。

これから行うことは悪く言えば『蹂躙』だ。

これから命を奪うという罪悪感が生まれメガイラの顔が強ばる。


ついに小鬼ゴブリン達の住処までやって来た。


「よし。じゃあ、メガイラ君。君が先行してくるんだ。

レヴィ、攻撃と防御の強化を。」


「よしきた。一応過剰にやっとくよー。」


獅子の激昂ライオン・インセンスド鋼鉄の体アイアンボディの魔法がかけられた。


「・・・・君にはこの効果の魔法も必要ね。」


さらに勇気の一欠片ブレイブピースの魔法もかけられた。


「・・・・・」


「きついかもしれないけどここでやっておかないといざという時に君は死ぬ。

これはそれを防ぐためなんだ。

頑張ってくれ。」


ヴィルヘルムが俯いているメガイラに優しく言う。


「わかりました。でも鞭なんて使ったことが...」


「それなら...大丈夫だ...。その鞭は自分が当てたいと思う相手に向かってくれる...。

お前は標的を定め、振るだけでいい...。」


後ろを押されるようにメガイラは草むらから出ていく。

やはり顔には不安の色がまだ色濃く残っていたが、それと同時に覚悟を決めたような眼差しをしていた。

小鬼ゴブリン』がメガイラに気づいたのは一瞬だった。

数は12体。そのうち1体は報告のためか巣穴へと駆けて行った。

残り11体の『小鬼ゴブリン』がメガイラの前に立ち塞がる。

見た目は身長100cmより少し小さいぐらい醜悪な顔で鼻が大きいのが特徴的だ。

かなり痩せており、普段の生活の低さが見受けられる。

上半身は裸で所々に傷が見える。下半身は兵士の名残なのか鉄装備だったものを履いている。

武器は棍棒やボロボロの斧、刃こぼれした剣、錆び付いた槍などまともな武器はない。


「ニンゲン!」


「コロス!ニンゲンコロス!」


「クッテヤル!ホネモノコサズニクッテヤル!」


見開いた黄色い目が一斉にメガイラを睨む。


「ッ・・・!!ここで殺さないと僕は死ぬんだッ!」


未だに自分の中の良心と戦っている。

エドの目からでもそれがすぐに分かる。

レヴィ達はいつでも助けに行けるように武器をにぎりしめている。


「シネーー!!!」


1体の『小鬼ゴブリン』がメガイラに向かって走り出す。


(標的を捉えて打ち据えるだけっ!!!)


右手にあるリヴァイアサンを不格好ながらも『小鬼ゴブリン』に向け打つ。

すると、リヴァイアサンは不思議な挙動を2つえがいた。

まずひとつ、通常鞭は上から振り下ろすと当然ボディの部分が上から下へと落ちる。

しかし、リヴァイアサンが描いたのは振り下ろした瞬間にボディの先端部分が走ってくる『小鬼ゴブリン』の醜悪な顔面に向けて一直線に疾走っていった。

そして2つ目は、『小鬼ゴブリン』とメガイラの距離は20メートル弱あった。

リヴァイアサンの鞭の長さは2m。

届くはずがないのだ。しかし、リヴァイアサンの鞭はゴブリンの顔へと届いた。

簡単にいうと伸びたのだ。

これは特段珍しいことではなく、『神器』の下位互換とされる『魔道具』にも起こり得ることだ。

顔を打たれた『小鬼ゴブリン』は反動で後ろに吹き飛びすぐさま動かなくなった。

顔がもう無くなっているのだ。


「グガッ...?ナニモノ...?フツウノニンゲンジャナイ!!」


仲間が殺され怒り狂う『小鬼ゴブリン』に相反してメガイラの手は震えていた。

小鬼ゴブリン』が怖い訳では無い。

初めて他者の命を奪ったことで彼の中で謎の喪失感が生まれているのだ。

しかし、メガイラは今やるべきことはちゃんとやる。


(すまないっ!これをしないといけないんだっ!)


残り11体の『小鬼ゴブリン』にも狙いを定め11回、リヴァイアサンを振り下ろした。

全て『小鬼ゴブリン』に当たり全てが動かなくなった。

全て顔がなくなった。


「はぁ...はぁ...くっ.....。」


メガイラは口を抑えてなんとか嗚咽を喉の奥へと押しやった。


「よくやったじゃねぇか。上々だ。さ、いくぞ。まだ残りがいるんだ。モタモタすんなよ?」


カラドックを戦闘にレヴィ達は巣穴の元へと歩いていく。

メガイラは未だに苦しそうだ。

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