3.お風呂覗き隊のあと猫耳萌えですねっ!

 女性の平均入浴時間は約三〇分から四〇分、男性より一〇分弱長い。

急な夕立で濡れ鼠となった姉と加奈子さんはいっしょに入浴中だ。

俺も制服から上下黒のスウェットに着替えた。


「やけに静かだな」


 雨の強さは先ほどと変わりはないが、雷は少し遠のいた。

ふと感じたのは、外の雨音に対して家の中の妙な静けさ。


(あれ? 姉ちゃんと加奈子さん、風呂入ってるよな?)


 女の子同士で仲良くお風呂。

キャッキャウフフはお決まりだと思っていたが、どうも想像と違うようだ。

ドラム式洗濯機のゴウゴウという音だけが耳に入ってくる。


 リビングの五人掛けソファにのびのびと寝転がる。

俺もこのあとシャワーを浴びる予定だ。しかし、姉たちの風呂が長い。

三〇分は経過しただろうか。まったく出てくる気配も物音もない。


「うーん……風呂場で倒れてないだろうな」


 などと自分に言い訳をして、正当な理由づけをしたつもりで脱衣場へ行く。

リビングから廊下へ出て、脱衣場のドアに耳を澄ます。

中から聞こえるのは乾燥機の音だけだ。


(ちょっとだけ、ちょっとだけ開けてみようかな)


 アクション映画の真似で、銃を構えて敵のアジトに乗り込む格好をする。

ドアに背中を貼りつけ、右手は人差し指を立てて銃を作る。

そして、左手はドアノブに手をかけて、音を殺して回す。


「なにやってんの!? 蒼太!」

「うわぁ! びっくりした!!」


 内側から姉が思いっきりドアを開放する。

加奈子さんの姿がない。まだ風呂の中にいるようだ。


「お姉ちゃんを覗きに来たの?」

「違うって! 二人とも風呂長すぎ! 俺も入りたいんだからさ……」

「覗きの現行犯で乗馬マシンの刑ねっ」

「それは却下する!」


 湯上りの花穂姉ちゃんは、もこもこ素材の黒いルームウェアに着替えている。

加奈子さんに用意してあるのも、同じ素材の色違いだ。


「もうすぐ加奈ちゃん出てくるから、蒼太はハウス!」

「俺は犬か!」


 リビングへ戻って入浴の準備することにした。

準備と言っても、男は楽なものだ。パンツとタオル、これだけあればいい。


 姉と加奈子さんがリビングに戻ってきた。

どちらも甲乙つけがたい魅力がある。色気はいささか足りないが……


「弟君……ごめんなさい」

「え? 加奈子さんがなんで謝るの?」

「あ、いえ……先にお風呂いただいてしまったので」

「気にしなくていいよ。それより、そのもこもこの服似合ってるね」


 もこもこ素材の白いルームウェア、加奈子さんのは猫耳フード付き。

それをすっぽりかぶって、まるで仔猫のような可愛らしさだ。

ニヤニヤしながら見とれていると、花穂姉ちゃんの視線が突き刺さる。


「蒼太も早くシャワーしてきたほうがいいよ!」

「うん。わかってるって」


 姉に急かされてリビングをあとにする。

チラッと振り返ったときに、猫耳加奈子さんが見せた微笑みが眩しい。

外はまだ強い雨が降り続けていた。









◆◆◆◆◆◆









 シャワーを一〇分程度で済ませ、リビングに戻ると姉がため息を漏らした。

俺はいつも通りの風呂上りの状態。つまり、パンツ一丁で首にタオルだけ。

加奈子さんが家に来ていることをすっかり忘れていたのだ。


「蒼太……湯上り冷めると風邪ひくよ。また熱出すよ?」

「うん。すぐスウェット着るから大丈夫」

「あ……弟君の力こぶ……」


 ゲッと言わんばかりの表情で、加奈子さんのほうを向く俺と花穂姉ちゃん。

今度は姉と目が合う。すぐに気まずそうに目を逸らしてしまった。


「姉ちゃんさ、加奈子さんに変なこと言わせないでくれよ」

「変なことじゃないよ。ね、加奈ちゃん」

「はい……弟君の力こぶはギンギンに反り返ってマックス一六センチ……」


 加奈子さんが言葉を発した瞬間、姉はソファのうしろに隠れて笑いを噛み殺している。ここはお説教のひとつでもくれてやりたいところだが、口喧嘩では到底勝ちは望めない。


「加奈子さん。フンッ! これが力こぶ!」

「……すごいです。弟君たくましい……」


 ボディビルで言うモストマスキュラーのポージングをする。

体をやや前傾して全身に力を込め、腕や肩をアピールするポーズだ。


「へえ、蒼太って意外と筋肉質だよね」

「家でちょっとだけ鍛えてるからな」


 花穂姉ちゃんが立ち上がって、体をペタペタ触ってくる。

それに呼応して、加奈子さんまで物珍しそうに指でツンツンし始めた。

女の子の風呂上りの香りがほんわりと漂う。

筋肉は凄まじく盛り上がった……ただし、PC筋がパンツの中で……


「加奈ちゃん! 見ちゃダメ!」

「え? あの、どうしたんですか……」


 パンツ事変に気づいた姉は、加奈子さんの目を手で覆ってしまった。

目隠しされた猫耳美少女など余計可愛いだけではないか。


「これがギンギンに反り返ってマックス一六センチだ!」

「蒼太っ!」

「いや、これ姉ちゃんが加奈子さんに言わせたんだろ? 実演してんだけど」

「う……もう加奈ちゃんに変なこと言わないから着替えてくれない?」

「わかった。服着るよ」


 片手に持っていたスウェットの上下を着用したときだった。

目の前が薄暗くなって、体がやけに熱くなったのは……

雨に打たれすぎたのだろうか。意識が朦朧もうろうとする。

 

 花穂姉ちゃんと加奈子さんが、慌てた表情で俺に駆け寄る。

なにか叫んでいるように聞こえるが、意識はそこで途絶えた……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー