4.ベッドで下着にならないでくださいっ!

 花穂姉ちゃんが部屋に戻り、俺は入浴を済ませて課題を始めた。

この時間、姉は自室でテレビを観ている。壁から音が少し漏れてくるのだ。


 課題を進めているうちに、耳に飛び込んでくる音が変わりつつある。

強風が窓を叩き、外の電線が揺らめいているのが室内から見える。


「風、強いな……」


 隣りのテレビの音が聞こえてこない。

確か二人の姉のうち、どちらかは風の音や雷鳴が苦手だったような……

どちらかではなく、姉妹どちらも苦手だった気もする。


「蒼太っ!」


 ドアの向こうから花穂姉ちゃんの声&強めのノック音。

どうやら暴風の音が苦手なのはこっちの姉らしい。


 あまりに激しくノックするので渋々ドアを開くことに……

すると、目を潤ませた姉がまるで感動の再会シーンのように飛びついてきた。


 パイル生地の白いTシャツにショートパンツを着ている。

花穂姉ちゃんが何着か持っている上下セットの部屋着だ。


「うわっ! ちょっと姉ちゃん、離れてくれ!」

「風の音怖い! 木が揺れて怖い!」


 胸に顔を埋めるようにしがみついて離れてくれない。

鼻腔が石鹸の香りでいっぱいに満たされていく。


「わかったわかった! 風がおさまるまで部屋にいてもいいから!」

「ここでテレビ観ていい? 邪魔にならないかな?」

「うーん……ちょっと邪魔かな!」

「ありがとう蒼太。お姉ちゃんテレビ観るねっ!」


 俺は暗に邪魔だから部屋に戻ってくれと言ったのだが……

反論する余地なく、姉はテレビを観始めた。

時々、風の音にビクつく動作が小動物的で可愛らしい。


「ぷっ……姉ちゃんさ、さっきから風の音に反応し過ぎだろ」

「風の音すごくない? 怖いよ……」

「怖いんだったら、布団に入って耳塞いでればいいんじゃないの?」

「やだ。部屋にひとりでいるなんて怖い」

「俺、課題終わったら寝るんだけど……」


 姉は再びテレビを観始めた。風はおさまる気配がないようだ。

しばらく課題に集中しつつ、風の音に反応する姉を見て楽しんでいたが……


「蒼太! ちょっと来て」

「わっ! なんだよ、いきなり」

「いいから早く」


 急に立ち上がったと思えばグイグイと俺の手を引っ張り階段を下りる。

向かった先は廊下の先にあるトイレ。


「前にもあったよな。姉ちゃん、台風のときに……」

「蒼太、絶対にここにいてね」

「ここにいるから、早く済ませてくれよ」


 パタンとドアが閉まり、姉のリラックスタイムの開始だ。

すぐに水を流す音が聞こえ、同時に姉が飛び出してくる。


「うう……トイレの窓から見える木がすごい揺れて怖い!」

「おおいっ! 姉ちゃん! 手! 手を洗ってくれ」

「あ、うん。ごめん」


 洗面所まで付き合わされたあと再び部屋に戻り、俺は課題進め、姉はテレビを観始めた。

風は一向に収まる気配がない。今夜は春の嵐のようだ。









◆◆◆◆◆◆









 課題と明日の準備が終わった。退出を宣告せねばならない。

姉は自室から持ってきたであろうクッションを抱きかかえている。


「姉ちゃん、俺もう寝るんだけど……部屋に戻ってくれないか?」

「怖いよ……ここで寝ていい?」

「ダメだ。自分の部屋で寝てくれよ」

「蒼太ひどいよ。動画消してあげたのに……」

「姉ちゃんのことだ。あれ、バックアップしてあるだろ?」


 落ちていた姉のパンツを嗅いでいる動画。

あれは交換条件をクリアして、目の前で消去された。

だが、この慎重で頭のいい花穂姉ちゃんが、バックアップと取らないはずがない。


「……うう……ここにあるよ。端末のマイクロSDにまだ残ってる」

「やっぱり! 他にはない!?」

「絶対にない! 消すからここで寝てもいいでしょ?」

「わかった。じゃあ、姉ちゃんの布団は俺が……」


 言い終える前に姉は消灯してベッドに入ってしまった。

ため息を落とし呆れつつ、俺も同じ布団の中に入る。

薄い掛布団をめくるとそこに姉が寝転んでいる。


「蒼太って怖いものないの?」

「俺が怖いのは姉ちゃん二人だ」

「そんなに弟から愛されるお姉ちゃんは幸せものだねっ」

「いや待て。俺は怖いって言ったんだぞ……って、あれ!?」


 布団の中でなにかを発見した。それを手に持ってみると……

Tシャツとショートパンツ。先程まで姉が着用していたものだ。


「蒼太って寝るときはずっとパンツだけなの?」

「姉ちゃん! なんで脱いでるんだよ! 服着ろ! これ部屋着だろ?」

「あ! 蒼太が大きくなってる!」

「それ……わざとやってるだろ」


 横向きに対面した俺と姉。姉は脚を絡ませてくる。

自分の下着と姉の下着が密着しているのがはっきりとわかる。

離れてくれと言う前に、風の轟音が再び聞こえた。

姉が締めつけるように腕を絡ませてくる……


「きゃっ!」

「ぐえっ! 苦しい!」

「あ……ごめんね」

「あのさ、姉ちゃん。ちょっと聞いていいか?」

「なに?」

「昨日の夜はブラしてなかっただろ? なんで今日はブラして寝るの?」

「え? 寝るときはブラするよ。ナイトブラね。これ着て寝ないと、胸のかたち崩れちゃうんだよ」

「あれ? そうなのか。知らなかった……」

「うん。ちなみにこれも……寝るとき用のおやすみショーツ」



 俺の手は姉によって臀部に誘導された。

妙に肌触りがいい生地だ。手の平に尻の柔らかさと体温が伝わる。


「おやすみ、蒼太」

「姉ちゃんは意地悪だな……こんな状態で俺が眠れると思う?」

「あ。大きくなったままなんだ」

「せめて下半身を密着させるのはやめてくれ……」

「離れたら怖い……」

「わかった! こうしよう」


 俺は姉に背中を向けて寝ることにした。

これで下着姿を見なくても済むし、パンツの中も鎮静化するだろう。


「蒼太」

「ん? またトイレ?」

「違うよ。そろそろじゃないの?」

「だから、なにがそろそろなの?」

「エッチなことする時間」

「おやすみー! 花穂姉ちゃん」


 言葉とは裏腹に、その晩は眠れなかった。

姉が背後から抱き付くように密着していたからだ。

薄い掛布団の中は、姉花穂の匂いで満たされた。


 寝息を立て始めたのを見計らって、さきほど触れた臀部に触れてみる。

姉の肌に興奮しているのか、それとも姉の下着が好きなのか……

自分の趣向がよくわからなくなった。

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