イルム王国編25 王家の農場3

 結局、畑を往復した後、支配人が持ってきたコーヒーと言う飲み物を啜っています。


「これ苦いですね……あと粉っぽい」


「……ですので適当に砂糖やミルクを入れて飲んでください。粉は、ほっっておけば底に溜まるのでそれは残してください」


 ディエナ姫は、そう言いながらドバドバ砂糖を入れています。そこまで入れると単なる砂糖水な気がします。


「……おいしい」


 単なる砂糖水になったコーヒー美味しそうに飲みながら、つまみの堅果を摘まんでいました。本人が美味しそうなので本人は美味しいと思っているのでしょう。


「この飲み物はコーヒー豆を炒って砕いたものを湯で煮だしたもので、南方交易で最近入ってきたのです。茶に比べると馴染みが薄いですし、それ以前に値段が高いのであまり飲まれておりません。薬として少しずつ普及している所ですが……」


 見たところ気付け効果がある様な感じです。沢山飲むと眠れなくなるのではないでしょうか?


「これは、眠気覚ましに使うのでしょうか?」


「はい、その通りです。なので法学官の卵が勉強する時に飲んだりしますね」


「寝ないで勉強するのは、あまり良くないのでは?」


「まぁ、エルフと違いまして、人間は生き急がないと時間が足りませんのでな……」


 人間さんは短命です。そのため寝る間を惜しんで勉強しないないと行けない様です。


「それはともかく王都の方が、きな臭いですな……」


「……それはここで話て良い話なのでしょうか?」


「ディエナ王女殿下の安全に関わる事なので、聞いて欲しいのです。ディエナ姫がコーヒーで遊ぶのに飽きるまで時間がありますから話を聞いておいてください」


 支配人が一呼吸おいて言葉をつなげます。


「このまま行くと内戦が始まってしまいそうなのです。どうも宰相が傭兵を雇い入れているらしく、それに対抗する為に将軍も軍隊を呼んでいるそうです」


「……それは確かな情報なのでしょうか?」


「あくまでも王宮に居る知り合いの話によればですけどね……」


 知り合いがどのような人か分からないので真偽は分かりません。


「……ですから、まで殿下にはここに滞在して欲しいところなのです。とは言え、破天荒な方ですから突然、王宮に向かうと言い始めそうで……。その時は殿下を守ってはくださいませんか?いえ、虫の良いお願いだと思いますが……」


「それは私の雇い主次第ですので……」


 今の雇い主は誰かよく分かりませんが、そう言う事にして起きます。


「……そうですか、フレナ様なら安心出来そうなのですが……」


「居なくても大丈夫じゃないでしょうか?」


 神出鬼没ですし、そもそもエルフの車列が2日かけて移動する距離と同じ距離をあの姫は、どうやって移動してきたのでしょう。普通には考えれば徒歩ですが途中見かけませんでしたし、謎の手段で移動してきたとしか思えません。仮に戦場のど真ん中に居たとしても、次の日ひょっこり別の場所に出現してそうな気がします。


「……まぁ、それは置いときましても王都の様子を調べた方が良いかも知れません……」


 内戦に巻き込まれないかエレシアちゃんが心配なのです。隠れ家に戻ったら早速、王都潜入捜査を始める事にしましょう。


 王家の農園から戻ると《念話》がなりました。


(はい、こちらフレナ)


(左のユリニアです。王都の様子が不穏なので、私達は、王都の外にあるエルフの王国の大使館の別館に一時退避する事になりました。場所は後でお伝えしますので、そちらはもう少しゆっくりしていてください。情勢によっては王国からの脱出を試みます)


了解オーバー。こちらは王都を散策します)


(……えっと、王都は不穏なので今近づくのは辞めた方が良いのでは無いと思います)


(だから不穏な原因を探りに行くのです)


(まぁ、賢者様なら地獄でも大丈夫ですけど、今はイルム王国のディエナ王女殿下のお守りだと言う事を忘れないでください)


(あの王女様は、殺しても翌日生き返ってそうですけど……)


(あまり変なことは言わないでください)


 左のがクスクス笑っています。変なことを言った記憶はありませんので恐らくディエナ姫が変だから笑ったのに違いありません。


(それではお気をつけて……)


(それでエレシアちゃんはどうでしょうか?)


(公女殿下は、お元気ですよ。そろそろ賢者様離れしていただかないと行けませんが……)


(しなくても良いと思いますけど)


(賢者様は、護衛が終わったら別の場所へ旅立つのですが、公女殿下には王族の義務がありますので、そこについて行く事は出来ませんので……)


(義務とは面倒なモノですね……)


(それでは別の用事がありますのでこれで……)


 左のが《念話》を切りました。それでは王都を目指すことにしましょう。


「それでは王都に行って参りますので、王宮に戻る気がないのなら隠れ家の中でじっとしていてください。王宮に戻る気があるなら連れて行きますが」


 隠れ家に戻るとディエナ姫に言います。


「それじゃあ、フレナ。お姫抱っこして連れて行ってね」


 などと言いながら背嚢に荷物を詰めていました。来たときよりモノが増えている気がするは気のせいでしょうか?増えたのは精々、王家の農園でもらった野菜ぐらいのはずですが……。


 仕方が無いので私も巾着に荷物をしまいます。


「……やっぱりその巾着何でも入って便利ね」


「何でもは入りませんよ」


「例えば?」


「生き物は巾着に入りません。ディエナを巾着に入れて運べるので楽なんですけどね。出来ないんです……それからパン種とかも入りませんでした。一部の食材は巾着に入らない様です」


 どうも《収納ストレージ》魔法の制限になっている様です。


「生きている判定されると入らないみたいな感じね……」


 生きている判定ですか……。恐らく、《収納》の魔法自身にそう言う制限がありそうです。……そうすると根本的に魔法を構築しなおす必要がありそうです。この手の制限がつくのは、制限をかけないと何らかの危険が発生する為に付け加えられているので、うかつに解除するのは危険です。魔道書にまとめられていた元素魔法や付与魔法は、誤発動を防ぐ為の安全装置がついていました。それが簡単魔法と呼べる理由なのです。魔法を行使する時、それがもたらす影響、反動、危険性を除去する仕組みが必要になります。例えば初期魔法に分類される《点火》などは厳重にこの安全装置が組み込まれています。あの魔法は、火を付ける対象が必ず火種になるように設定されているのです。誰が使っても間違って自分の服や指を点火しないように調整されているのです。古代魔法の場合、そのあたりも自分で計算して、自爆しないように調整する必要がありますが、下代魔法は大抵そのプロセスが無視出来るようになっているのです。その代わり発動原理などが分からない様に隠蔽されていて呪文と言うキーワードが必要になります。恐らく魔法が広まる過程で、理論を知らなくても魔法が使える様になる仕組みが作られたのでは無いかと考えられます——魔法使いの時代に作られた技術の一つでしょうか……。


 それはともかく、《収納》の改良より先にやることがありました。それはガラス細工の整理です。色々とアイデアがあったので暇をみながら適当に作っていました。この手の細工は、取りあえず魔法で超高熱にしてドロドロになったところを風の魔法で型作りをして固めるのですが、温度調整を間違えると簡単に割れます。温度を少しずつ下げながら冷やす必要があります。材料はその辺の石ころと砂漠で取れる灌木の灰です。素材屋で買った物も若干加えています。添加するのもで強度や色が変わるのです。そうやって、丸底のものとか円筒状のもの、長細い管やへんてこな形状のもの取りあえず色々なものが揃っています。一部は錬金術に使われる標準的なものですが、学園都市でインスパイアされたものもあります。


「随分、代わった形状ですね?」


「いえ、これは合理的な形状なのです。少なくとも実験するのには」


 しかし、ガラス細工は割れやすいので巾着に放り込むとしても割れない用に梱包する必要がありそうですね……。


 それが一段落すると王都に侵入です。


「それでは出発しますよ」


「お姫抱っこ」


「……では目をつぶってください。絶対目を空けてはいけませんよ。空を飛びますので危ないですから」


「《飛行》も出来るのですか、フレナ凄い」と言いながら顔を赤らめながら目をつぶるディエナ姫を《浮遊フロート》で浮かせて《束縛バインド》で引っ張っていきます。《束縛》の魔法は力を調整すれば抱かれている様な感触が得られるのです。

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