デレス君主国12 閉会の巻
決勝が無事に終わると閉会式が始まります。長い演説が始まり勝者を称えます。偉そうな人達が壇上に上がり、優勝者の優男に次々と商品が渡されます。そのたびに会場に歓声がわきます。
つがいの羊や高そうな茶葉、絨毯などが積み上げられ最後〔大ハン〕自慢の馬が与えられます。それを前にした優男が手を振ると大きな拍手と歓声が沸き上がります。こうしてデレス相撲は終わり日が暮れていくなか皆が片付けを始めます。
「じゃがこれは年末年始の宴の始まりにすぎん」と族長が言います。「相撲はご先祖たちに見てもらう最初の余興に過ぎんのじゃこれから夜が最も長くなる日までご先祖たちには束の間の地上を楽しんで貰わねばならぬ。そして年が明けたら天に帰られるご先祖たちを無事送り届けるのじゃ」
亡くなっった先祖を歓待するという風習は里にはありませんでした。そもそも私のご先祖と言うのは恐らく今もどこかで生きている気がしますし祀る必要もなさそうです。
エレシアちゃんと秘書官達は面会の用事あるということですでに天幕を離れています。私と竜は後片づけの手伝いをしています。
「片付けが終わったらご飯ですよ」
「我は、もうお腹が減ったのだ」
「少しは自重しなさい」
「お腹は自重しないのだ」
「ノルシア、食べたいのなら片付けを手伝いなさい」
ここは、しっかり躾けておく必要があるでしょう。竜に主人が誰かもう一回教える必要があるかも知れません。しかし流石に古竜相手に物理で言う事を聞かせるのは少々面倒です。ちゃんとお申し付けを聞くように教育しないと行けないと思います。
族長は近くで熱心に若い連中を指導していました。族長が指示を出すとまるで手足の様に動きます。若者達は、まるで一つの生き物かの様に動いて効率良く天幕を片付けていきます。こちらも負けては居られません。軽く跳躍すると天幕の上に乗っている天井を巻き取りそれから一気に柱をまとめて引き抜きます。それして丁寧に積み上げていきます。周りを囲んでいた天幕は布と骨と木材にドンドン分解されて積み上げられていきます。積み上げられたものをどこからかやってきた手段が抱えてどこかに持ち去っていきまs。そうこうしているうちに周囲は元の草原が広がる広大な空間になっていました。すっかり空は暮れようとして星が瞬いています。暗くなってきたので族長は松明を持って片付け忘れが無いか確認しています。
「しかし、これだけ早いと少し時間が出来そうじゃな……そうじゃな……」
族長は何か思い出した様に一人の若者を呼び何かを言いつけます。その若者は急いで大天幕のある方に走って行きます。しばらくすると若者は馬からに乗った子どもを引き連れて戻ってきます。
「聡明なる〔大ハン〕の六男ムルク様じゃ」と族長は言いながら子どもを連れてきます。
「……昨晩話していたお孫さんですか?」
「そうじゃ。わしの優秀な孫じゃ、このように乗馬も得意じゃぞ。鐙も鞍なしでもこのように自由自在に乗りこなせる。それからじゃな……」
族長は自慢げにあごひげをさすりながら馬の腹を叩いています。それを横目で見ながら馬も話してみます『また始まったよ。爺の話が……』などと言っている様です。
「じじ様、こんばんわ。そちらにいるのはどなたでしょうか?」六男が馬上から声をかけてきます
「ああ、こちらはエルフの王国から来たフレナ嬢じゃ。エレシア王女妃殿下の護衛だそうな。それから侍女のノルシアだったかな」
「あまり見ないタイプのエルフですね。大きくなったら俺の嫁にしてやってもいいぞ」
……何を言ってるのでしょうかこの小僧。
「護衛と言っても冒険者ギルドからの依頼です。私もこのりゅ……ノルシアもエルフの王国の国民ではないので依頼と言う形で護衛を引き受けています」
「それではどこから来たのでしょうか?」
一見丁寧そうな慇懃口調で小僧が聞いてきます。ここは適当に答え起きます。
「北の方からです」
「北と言うとあの山脈を超えてきたのか?」
北の山脈と言うのはエルフの王国の北の砦より遙かに北にある山脈でしょうか……少し勘違いしているのうですがそのままにして起きましょう。
「それはともかく、そろそろ夜の宴の時間では無いですか?」
「おお、そうじゃったな。実はまだ少し時間があるのでのぉ。少しこの賢いムルク様の相手をしてやってくれぬかのぉ」
「相手と言われても具体的に何をすれば良いのでしょうか?」
「何、話相手をしてくれるだけで良いぞ。嬢ちゃんに流石に指南役を頼むのは無理じゃろ」
……と言われても特に話したいことは思いつかないので、族長が孫自慢を始めたところでそれにうなずきながら適当に話を聞き流しておきます。
「じじ様、話が長いのだ。エルフの娘の話が聞きたい」
小僧が口を挟んでおきます。面倒なのでノルシアの話でもしておきましょう。
「このりゅ……ノルシアは、大変食いしん坊で何でも食べ散らかしてしまうのです。朝も四人分の朝食を食べた後、更に肉を食べていました」
「朝からそれだけ食べたらその食べ物は一体どこに消えているの?」
「我の胃袋は何でも吸い込むからな。それらは分解されて……」
竜が余計なことを口走りそうなので慌てて口を塞ぎます。
「ノルシアは、まだ育ち盛りですので」
「エルフの育ち盛りは相当長いのだろうな……」
とにかくここは話を適当にはぐらかしながら宴の時間まで上手に潰さないと行けないようです。
「ところでフレナさん?一緒に馬に乗りませんか?」
……なので馬に聞いてみます『あまりやりたくない』とか言ってます。
「馬が乗り気で無いので遠慮させて貰います」
「エルフは馬と会話が出来るの?」
小僧が目を輝かせながら聞いてきます。
「これは私だけの特殊な技能で、どのエルフも出来る訳ではないです」
……まぁ里のエルフなら誰でも出来ますが全てのエルフが出来る訳ではないので嘘はついていないと思います。
「そんな能力があったら便利そうだなぁ……かけ声一つで馬が沢山追いかけてくるのだろ」
通常、馬は不平不満を垂らすだけで着いてくる事は無いです。言う事聞かせるには餌で釣るしかないのですが……もしかすると馬が人の言う事を何でも聞くと勘違いしているのかも知れません。それより馬が何やら不穏な空気を感じ取って警告しています。聞き耳を立てると確かに一日ぐらい先の距離(エルフ里だと20エルフ里ぐらいでしょうか?)に集団が移動している音がしています。数は多いが丸で烏合の衆の様に移動しています。少なくとも千以上、万は行かない程度でしょうか?大きさはあまり大きく無さそうですが二本足で歩いていそうな感じです……。いや若干大きな個体もいそうな感じです。正確には分からないのですがそんな感じです。
「……ゴブリンでしょうか?」
「ゴブリンがどうしたのだ?」
「ゴブリンがこちらに向かっているようです」
「何、それは一大事じゃ。こうしてはおられぬ。せっかくご先祖が来ていると言うのに出陣の準備をせねならぬとは。しかし、これは契機ですぞ。ムルク様、武勲を上げられるのですぞ。この老骨、鞭打って手助けしますぞ」
唐突に族長が身構えます。
「いえ、今日明日にはつきません。少なくとも三ー四日はかかるでしょうか?」
「エルフはそんな遠くの音まで聞こえるの?」
「これも私だけの特殊な技能で……」
「じじ様、物見はどうしているの」
「斥候は周辺を見回っている居る。ゴブリンの群れを見かけたら連絡を寄こすはずですじゃ」
「それら物見が帰ってきてから考えればばいいのでは」
「流石、ムルク様。聡明なお考えです。わしらも物見が帰ってきたときに何時でも出陣出来るように用意しておきますぞ」
ところで、このなんとも言えない、いたたまれない空気は一体何と呼べば良いのでしょうか?竜の方見るとあくびをしていました。
「それよりじじ様、そろそろ眠い」
「そうか、今日は活躍したじゃからな。ムルク様、ゆっくりお休みしてくだされ」
そう言うと若者が六男の乗った馬を連れて大天幕の方に戻っていきます。
「わしらもそろそろ宴に向かうことにするぞ」
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