デレス君主国5 外交官の巻

 夜が更けてきました。恐らく外を眺めると赤い月は南中になろうかとしています。青い月も昇っています。きっと雲一つ無い夜空に星も赤く青くそして紫色に染まりとても美しいと思います。外の気温は段々寒くなり天幕の周りが冷え込んできました。それよりエレシアちゃんはそろそろ眠いと思います。そう言う訳でエレシアちゃんの様子を見に行くことにします。


 再びこっそり会話の輪の中に入り込もうとします。


 ちょうどその瞬間、お開きになったようです……。


「……」


 振り返ると右と左のが寝っ転がっていました。


「そこの二人起きなさい」


 優しく声かけしてあげます。


「えー眠たい」「もう少し眠らせてください」


「もうお開きですよ。自分の寝床で寝ましょう」


「というか僕たちの寝床はどこなの?」


「さあ知りません」


「賢者様でも知らない事があるのかぁ」


「知らないことの方が遙かに多いのです」


「賢者様でも知らない事があるのですね」


 そこは話を繰り返す所ですか全くこの右と左のは……。それよりエレシアちゃんは大丈夫でしょうか?


「エレシアちゃん大丈夫でしょうか?」


「フ……フレナ様大丈夫です」


 エレシアちゃんはそう言っていますが傍目にフラフラしております。


「いえ、全然大丈夫には見えません。支えてあげますから早く休みましょう」


「フ……フレナ様、す……すみません」


「あやまる必要などありません。エレシアちゃんは十二分に働いたと思います……ところでそこの秘書さん、宿舎はどこにあるのでしょうか?」


「私達の止まる天幕は、こちらだそうです」


「ほらそこの二人も行きますよ……あとそこで残飯を漁っているノルシアも」


「主殿、我が食べているのは残飯ではないぞ」


 この竜まだ食べています。


「では置いていきます」


「いや、まてすぐ行く主殿」


 竜が食べ物を抱えてほくほくしながら後を着いてきます。


 外は星が綺麗ですがとても冷え込んでいます。吐く息は白く寒いと言うより痛いです。夜の道無き道を我々は秘書の案内で進んで行きます。


「ここが我々の宿舎です」


 そこは大きな天幕です。先程の宴会場になっていた天幕ほどは大きくありませんが20人ぐらいは入れるでしょうか?そう言えば里にもこれぐらいの大きさになる手のひらサイズの天幕があったような気がします。


「寒いので暖めておきました」


 天幕の前に立っている侍従が言いました。中に入ると天幕の中央で薪が燃えており煙はパイプを伝わって羊の絨毯で作られた天井の隙間から吐き出されており中は温かいというより少し暑いぐらいです。 中央を起点としその周りに寝台が並んでいます。


「これも年二回運ぶのでしょうか?大変そうです」


「賢者様、天幕も寝台も分解して馬車に載せると意外にコンパクトになるそうです」


 秘書官がいいました。


 私はエレシアちゃんを寝台の上に横たわらせて寝かしつけると紙に筆を巾着から取り出しと天幕の様子と先程の族長の話を書き留めていきます。左右のは寝台

に飛び込みそのまま寝ています。竜は持ち帰った骨を無心で貪っています。


「やれやれ……」


 私は首を振ります。振り返ると外交官が頭を振りながら羊皮紙と睨めっこしていました。


「外交官さん、何をしているのでしょうか?」


「ああ、賢者様。実は本国に送る文章に手こずっておりまして……」


 どうやら今日決めたことの報告書を書いていたようです。


「どのような文章ですか?」


「ああ、文章そのものよりもイメージをはっきりさせないと正確に伝わらないものですから……」


「イメージですか?」


「ええ、この巻物を使うことで都と念話が出来るのですが、外交と言うものは一字一句正確に物事を伝達しなければならないので、あの左右の掃除係みたいに漠然としたイメージを伝える訳には行かない訳です」


「ああ、あの右と左のは最低限必要な情報だけ得られれば十分ですね」


 護衛の左右の二人は理気術と言うもので念話みたいな事が出来るのですが、先日竜の洞窟に入ったときは大まかな居場所と生死ぐらいしか分かりませんでした。ああいう戦いの場では細かく正確な情報よりも素早く伝達できる事が重要なのですが、外交官が送るべきな情報は正確でなければ送らない方がマシだそうです。


「ええ、文字一つ間違えるだけで意味が真逆になることもあります。外交文書を一文字間違えたばかりに戦争になったら洒落になりません」


 どうやら外交責任の重圧の上で悩んでいる様です。


「こんな感じで送りましょうか……。この時間は誰の当番でしょうか?」


 外交官さんは筆を置き懐から巻物スクロールを取り出すとクルクルとひもといて広げていきます。広げるとそこに書いてある文字を読み始めます。見た感じ巻物の中身に念話の呪文と魔素マナが封じ込められており、巻物に書かれている呪文が鍵になり、それを唱える事で巻物の封印が解かれ、中の魔法が発動される魔法が付与されています。しかし魔素の量が魔法一回分に少し足りない感じです。これでは魔法が終わると巻物自体が燃えてしまうのでは無いかと思います。


 念話と一言で言いますが、まずエルフの王国の都に向かってあたりを付ける魔法が発動します。その次に念話する相手を捕まえる魔法が発動します。最初に相手を捕まえた後に念話の魔法が発動する仕組みで、相手が居ない場合は魔法はどうやらキャンセルされるようです。


「…… …… …… あ、つながった……こちらはエレシア派遣団の外交官です……そちらは……お……王妃様」


 どうやら王妃様につながったようです。


 外交官はその後奇声を上げつつブツブツ呟いて居ました。


 独り言が終わると巻物は青い焔をふきだし灰に変わりました。


「まさか王妃様がでられるとは心臓が止まるかと思った……」


「何があったのでしょうか?」


「普通は夜番は若い外交官の仕事なのですが今日に限ってなぜか王女様がでられのです。大変焦りました」


「それで上手くいったのでしょうか?」


「まぁ今日の話の概略だけなので後から書面でちゃんと送るようにと言われましたが、書面はここから送れないので次の国到着してから送付する事で納得していただきました」


「誰かに頼めないのでしょうか?」


「機密文書ですのでそれなりの人に頼まないと行けないのですがあいにくデレス君主国には信頼できるエルフが住んでいないので、フェルパイア公国内の外交連絡網を使わないと行けないのです。それにしても信書を渡せるのは来月の中旬ぐらいになるので来月末になるでしょうか……」


「下手すると王女が直接来そうですね」


「いや、まさか……そのまさかもありそうな……」


 外交官が考え混んでいるようです。


 私はそろそろ寝ることにしましょう。エレシアちゃんは既にぐっすり寝ているようです。


 エレシアちゃんは寝顔も愛らしいわけです。油断すると引き込まれそうに顔を覗き混んでしまいます。しかしながら現在そのような状況ではありません。周りには外交官やら竜やら武官も寝ています。左右の武官はすっかり寝ています……ところで見張りは要らないのでしょうか?


 竜もいびきをかいて寝ております……骨が竜の周りに散らかっています……明日の朝に散らかった骨を片付けさせないといけないようです。竜と言っても所詮は竜ですから人の生活にはなじみがないのでしょうからちゃんと人らしい生き方を押してておかないと行けません。食べ物はその辺の床に食い散らかさずに片付


けることとかです。机の上の書類は散らかったままでも構いませんけど。

 月は天中を過ぎて西に傾き始めていますし、明日の朝は早そうなのでちゃんと寝ないと大変だと思います。


 ところで明日の予定は何でしょう?


 振り返ってみるち外交官がまだ考え混んでいました……可哀想なので声をかけるのは辞めておきます。明日のことは明日の朝に聞いても大丈夫でしょう。寝る前に寝台の周りを綺麗に片付けます。紙と筆を巾着の中に無造作に投げ込み片付けます。


 私の周りにあるのは巾着ぐらいです。他の方々に比べてものすごく綺麗だと思います。それに比べて竜の汚らしい事と言ったらありません。やはり明日の朝にお申し付けをして片付けさせましょう。


 天幕の中央で火は緩やかに燃えゆるゆる煙を上にくゆらせています。件の炎は明日の朝までは十分持ちそうな感じで燃料がくべてあります。周囲に燃える様な危ないものも置いてないので安心して寝られそうです……。しかし少し気になるので念の為に火精に火の番でもさせることにします。デレス君主国内も他の外界と変わらず精霊の力がほとんど感じられませんが幸いなことに近くに竜がおります。竜は精霊と生物の両方に属しているので身体の中には当然精霊さんを溜め込んでいるのです。すなわち竜から精霊をちょっと借りれば夜の火の番ぐらいは十分出来ます。火精でも火の番をさせるの必要な精霊は、ほんの少しなので全く問題ないと思われます。


 そう言う事なので火精さんを呼び出して命令します。


「火精さん火の番は任せました」


 これで安心して寝ることができます。おやすみなさいと呟きながら寝台の中に潜り込みます。そのまま深い眠りに落ちていきました。

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