デレス君主国3 世継ぎの巻

「まぁそう言うことじゃ、ところで客人……フレナ殿であったか今年で幾つになられるのか?」


「はぁ……1000歳ぐらいですが……」


 年齢にいくばくかサバを読んでんでいますが、年齢を数えるのが面倒なので里の人は大体大雑把にいいますので私も大雑把に言うことが多いです。中には本当に忘れていような人も居ますが……例えば長老とか……。


「ハッハッハッ、1000歳とな?冗談が過ぎるぞ流石にエルフでも1000年とは……まぁ良い。女性に年を聞くのは失礼じゃったな。この話は忘れてくれたまえ」


 ……いえ本当に1000年ぐらい生きてますけど……。デレスに於けるエルフの認識は長寿だがそれほど長くは生きないのでしょうか?


 ここで族長との話を一旦切り上げることにします。


エレシアちゃんの方を見ると……通訳に秘書に外交官を総動員して〔大ハン〕とまだ話しています。〔大ハン〕の方にも何人か従者らしき人達が取り巻いています。大きな集団になっているので割り込めそうになさそうです。左右のはどうやら食べ疲れたようでぐったりしていましたが竜はまだ口の中に肉を詰め込んでいます。


 天幕の中は換気窓があるとは言えあまり空気が良くないですし、肉の食べ過ぎと長話を聞いて頭が少しボンヤリしてきたので少しお外の空気を吸いに行こうと思います。


「はぁ……」


 空を見上げると東から登った赤い月が夜空を照らし夜空を照らしています。星々が輝いていますが若干赤く染まっています。久しぶりに見る気がします……いえいえ昨日も見ましたが……天幕の中の淀んだ空気の代わりにお外の寒冷な空気が肺の中に入り込んできます。1,2,3,4……何度か深呼吸を繰り返してそれから天幕の周りをゆっくり歩き始めます。


「今日はなんだか気分が良いです」


 ……お酒は飲んでいないはずですが、宴会の空気に寄ったのでしょう。


 天幕の周りはかがり火で明るすぎるので少し離れた暗い場所から夜空を眺めていたいものです。私はゆっくりと大天幕から離れて歩き出します。


「これはこれは客人、このようなところで一人歩きは危険ですぞ」


 外に立っていた兵隊がたどたどしい共通語で話しかけてきます。


「危険には見えないですけど……」


「油断は禁物だぞ……人とみれば見境なしの連中がうろついているからな。それに最近や野獣や魔獣も彷徨いているからな。まあこの〔大ハン〕の天幕の前で粗相を犯す奴はいないと思うがな。特に火を持たずに夜をうろつくのは危険だぞ」


「ここはそんな状態なのでしょうか?」


「ここ半年ぐらい野獣や魔獣が出てくるようになったからな……いやそうで無くても夜に火も持たずにうろつくのは危険だ」


 そういえば南の砦も北の砦もきな臭かったですし、この辺りではなおさらきな臭いのでしょうか?


「……それに何かあれば俺達が責任を取る事になる。あまり天幕から離れてくれるな客人」


「責任とは?」


「そりゃ死刑だ」


 兵隊が首の前に手を横にするポーズをします……やはり、この国では何かやらかすとすぐ死刑になるようです。


「それは大変です。それではそろそろ天幕に戻ることにします」


「そうしてくれると俺も有難い」


 兵隊さんの命の危険ですから散歩は諦めて天幕に戻ることにしました。


「ただいま」


「おかえりじゃ」


 ……なんで竜が天幕の入口で待っているのでしょうか?それも両手に肉をつかんだまま。


「それはお前が我の主だ。主の帰りを待つもの下僕の仕事だと思うが」


「そういえばそうでした……」


 この竜を監視の為に連れてきたのをすっかり忘れていました。


「それで何か用事でしょうか?」


「うむ、肉ばかりで飽きた。何か他の料理は無いか聞いてくれ」


 そう言うのは自分で聞けば良いと思うのですが先程の族長に尋ねてみました。


「なら薄焼きの揚げパンなどどうじゃ?」


 ……先程、農耕民……とか言ってませんでした?……まさか掠奪したものとか言いませんよね?


「いやこれらは、ちゃんと交易で手に入れたものじゃぞ。肉を焼くときに使う香辛料もそうじゃな。それから干したメロンや果実をこのヨーグルトに付けて食べると旨いぞ」


 木の小鉢に入った果実が出てきます。


「はぁ……」


 唐突にどこからか次々と新しい料理が出てきます。口直しがあるなら最初から出して欲しいものです。そこでくたばっている左右の二人にも食わせば少しは目が覚めそうです。


「ほらデレスでは客人には肉を食わせるのが礼儀じゃから」


「そうなのですか?」


「わしらも食いたいだからがな」


「それでちゃんと交易で手に入れたものですよね……」


「そうだぞ我々はエルフの王国から小麦を買いフェルパイアに売る。フェパイアから香辛料や砂糖を買いそれをエルフの王国に売るこれぞ三方得じゃ」


 中抜きではないでしょうか……まぁデレスの土地は夜危険らしいですからそれなりの報酬と言うところでしょうか?……いや……エルフの国まで何事も無く安全に来たような気がします……何か腑に落ちないですけど……。


「いや、それは違うぞ。それこそ我らが道を安全に保っているからの結果じゃ」


「……そう言う事にして起きましょう」


 まぁパンが美味しいのでどうでも良くなりました。しかしこの揚げパンを白いどろっとした液体につけると美味しいです。パンと言っても膨らませていないらしくもたっとしており、揚げパンなので油っこいのですがこの馬の乳を発酵させたと言う酸味のあるどろっとした奴に付けると中和されて酸味が口の中に広がります。この少し癖のある酸味もなかなか行けると思います。竜は相変わらず健啖ぶりを発揮しております。いろいろな食べ物を一度に口の中に放り込んで果たして味が分かるのでしょうか


「うむ旨いぞ。我は満足じゃ」と竜は言っているので問題なさそうです。


 それでは私も口直しを何か食べることにいたします。


 ちょうどそのタイミングで外から馬が駆ける抜ける音がします。1、2,3,4,5……どうやら馬は五頭の様です。それが兵士が静止するのも止めずこの大天幕へ向かっている様です。しばらく駆ける音が響いた後に馬のいななく声がし、音がやみます。


 しばらくすると天幕の中にズカズカ入ってくる男達が居ます。


 中に居る人達より若そうな男とその後ろに四人の男が腰巾着の様に着いています。

真ん中の男は〔大ハン〕の方に向かって何かを叫びます。


 騒がしかった天幕が一瞬にして静まりかえります。


〔大ハン〕は男のを一瞥するとすぐに目をそらしてエレシアちゃんとの会話を続けます。


 再び天幕の中が騒がしくなります。


 天幕に入ってきた男は怒鳴り散らしながら駆けつけた兵士達に囲まれ外に引き釣り出されていきました。


「族長さん、あれは誰ですか?」


「客人よ。あれは〔大ハン〕五男のグルク・ウヌ・ドゥエム・ウヌ・イルム・ウヌ・ディトゥ・ウヌ・ジルチ・ウヌ・ヤンジ・ウヌ・ディエン・ウヌ・ボルム・ウヌ・ヤルク・ウヌ……じゃぞ」


「そのグルクさんと言うが一体何の用事でしょうか?」


 流石に私もデレスの言葉は分かりません。そう言う文字がかかれた本を読んだことが無いからです。族長の話によればそもそもデレスには記録を書き記す文字は無く伝承は全て口伝で行うそうです。


「文字では口伝に勝るものはなしじゃ文字に残した時点で言葉の意味から魂が抜けてしまうからな」


 どうしても書き記すべき事は共通語で書くそうです。


「共通語に訳した時点で魂が抜けているから書いても書かなくても同じじゃ」


 どうやらデレス人が氏族ごとに別々自分の言葉を不便でも使い続けるのはそう言う考えが根強いのも一因の様です。まり書き残した時点で魂が抜けてしまう……つまり訳した時点で魂が抜けてしまう……魂を保ったまま氏族の伝承を伝えるには聞いた事と同じ言葉で口頭で伝えなければならない様です。


「それでグルクさんは何と言ってらしたのでしょうか?」


「まぁ何時もの奴じゃよ。〔大ハン〕の跡継ぎ、つまり次の《ハン》の話じゃな。グルク様はああやって何時も噛みついておる。『親父はまたそのような乳臭い小娘等とじゃれ合っているのか。いい加減腑抜けたな。さっさと引退して俺に《ハン》の座を寄こせ』と……」


「それは死刑ですね」


 エレシアちゃんを乳臭い小娘等というのは流石に許せません。


「まぁ、それは〔大ハン〕の息子じゃから流石にむりじゃの……年明けに族長会議があるから顔見せだろうし、あの程度の事、いちいち気にしておったらデレスでは身が持たぬぞ」


 ……とは言っても先程一瞬しーんとしていた様な気がします。


「実はじゃな今の〔大ハン〕には六人の存命の息子がおって、そのうちの誰かが次の〔大ハン〕なると言われている。しかし長男は西の方の異国の傭兵になるといったまま二十年以上帰ってきておらぬし、次男は目立たぬし、三男は病弱なので、四男か六男の争いなると言われている。間に挟まれて面白くないのじゃろ」


 族長はそう言いながら白い白濁とした液体を注いで飲んでいます……と言いますかこれお酒ですよね。どこから出てきたのでしょうか?


「ああ、これはこっそり持ってきたのじゃ。自慢の馬乳酒じゃ。〔大ハン〕は客人に酒は出すのは縁起が悪いと言っておるがやはり宴会では酒を煽らんと締まりが悪いのでのぉ」


 そう言いながらグビグビ飲んでいます。


「大丈夫なのですか?死刑にならないのですか?」


「勝手に持ってきたものを勝手に飲んでるだけじゃから問題ないよ……ほらあの辺でも飲んでるだろ」


「そういえばばそうですね」


 言われてみればあちらこちらから酒精臭さが充満してきます……ところどころで酸っぱい臭いが漂っています。鼻を利かせすぎると自爆しそうなのでこの辺で辞めておきます。


「まあ客人も一杯やるか?」


「遠慮しておきます」


「そりゃもったいない秘蔵の馬乳酒だぞ。飲める機会は二度と来ないかもしれんぞ。遠慮しているとわしが全部飲んでしまうぞ」


「なら我が変わりに飲もうか」


 竜が話に割り込んできましたがここは拒否することにします。


「全部飲んでください」


「そちらの従者が欲しそうな顔をしているが」


「酒癖が悪すぎるので飲ませてはダメです。大天幕がぶっ壊れます」


「あの従者は、それほど酒癖が悪いのか?」


「ええ天災レベルですよ」


 何しろ大地震を起こしたぐらいです。


「え、我は酒癖は……」


「ええい黙ってなさい」


「しゃあないな後でわしの天幕にこっそり来れば飲ませてやるぞ」


「そう言う事はいわない」


「へい」


 それはともかく〔大ハン〕とエレシアちゃんは延々と何を話しているのでしょうか少々気になります。先程より取り巻きの数が増えている気がします……それに〔大ハン〕の従者が急がしく動き回っています。

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