エルフの王国37 北の塔の巻4
塔の上階をくぐり抜けた私達は表の階段を駆け足で降ります。
「急ぐぞ」と叫んでいる王女が一番最後を走っています。ペースを落として王女に合わせる必要があるようです。ゆっくり歩くぐらいの速度まで落として王女と併走することにします。
「ところでヴィアニア様は、クァンススがどの階に居るか分かっておられるのですか?」
「知らん。賢者殿が知っているだろうからそれに付いてくまでじゃ」
……
……
「……ルエイニアさんは、当然知っていますよね」
「勿論知っているけど、タダで?」
「……ええ、タダです」
「まぁ仕方ないなぁ。じゃあツケにしとく」
相変わらずルエイニアは何を言っているのかよく分かりません。
「この階だよ。たぶんこの奥の会議室にいるよ。」
聞き耳を立てて見るとどうやらこの中に沢山騎士がいそうな気配が感じ取れます。
「それでは突撃じゃ。妾に続け」
一番最後を走っている王女が言います。
目の前には大きな扉が立ちはだかります。クァンスス達はどうやらこの扉の中に居る気配がします。
「クァンスス達はこの中に居るようです」
「まぁ、ここしかないだろうな」
「まぁそうだよね」
この階の扉はこの一つしかないので隠し扉でも無ければ、ここ意外ありえませんけど……。
「それでは開けてみるぞ」
王女が床を引きずる音を立てながら大きな両開き扉を開けていきます。
「たのもう」
……私の小粋なセリフを横取りしています。
そこは大きな広場になっており、さらにその奥に扉があります。広場の中は暗がりになっており、そこを囲むように置かれた松明の炎が揺らめいています。
「……おや誰もいないのか……賢者殿、話が違うでは無いか」
「ヴィアニア様、奥の部屋から気配がします」
「んん、今のはほんの冗談じゃ。この奥が会議室なのだろ」
王女は澄ましています。
「それでは今度こそいくぞ」
「いきなり殴り込むのは不味いと思いますよぉ……ここはまず穏便にメイドのフリをしたまま用事で入った方がいいと思いますよ。警戒されて証拠を隠されたら事ですからね」
ルエイニアが王女にささやいています。
「ふーん、それもそうじゃの。ところで妾はどうすれば良いのじゃ」
「僕が一から説明します」
何やらルエイニアは言葉遣いや仕草まで怪しくなっています。やはり何か企んでいる様な気がします。
「ほらほら、フレナさんも仕度仕度するする」
「はいはい、分かりました」
ルエイニアは一体、何を考えて居るのでしょう……。クァンススに内通しているとか……警戒を強くした方が良さそうです。
それからルエイニアはどこからともなくティーカップとポットを取り出します。
「
そう言いながらルエイニアが水に何かの粉を練り込んでいます。既に原型とどめていない草でしょうか?黒くて丸い粉粒を丹念に水に練り込んでいます。練り込んだ粉は水に拡散していきどすぐろい謎の液体ができあがります。それは思わず鼻をつまみたくなるぐらいに酷い臭いしていますです。
「これは酷い臭いですね……」
「ルエイニア、これも自然崇拝と関わりがあるのか?」
「そうらしいね。滋養強壮に良いとか言っていたかな」
ルエイニアはそう言っておりますが、どう見ても禍々しい毒にしか見えません。それからどこからか取り出した皿の上に草を山盛りに並べております。
その草はどうみても雑草にしかみえません。雑草という名の草は存在しませんが……里では食べない草の事を雑草と呼びます。草を一目見るだけで食べられるか食べられないかは判別できるわけですが、その中で食べようと思えば食べられるけど、こんなの食べる気しないと言う草を雑草と呼んでいます。ちなみに食べられない草は毒草と呼ばれています。
「ホントに彼等はこの草を食べるのですか?」
「自然崇拝者が言うには健康に良いらしいとか」
「どうみてもただの雑草にしかみえませんが……」
「これを食べるこに何かの意味があるのか?妾も不思議でならん。わざわざこんな不味そうなモノを食う必要はないじゃろ」
「たぶん意味など無いと思いますよ。儀式をやってる感が重要なのでは無いかと思いますけどねぇ——さて、準備出来ましたのでこれを持って、中に入った入った」
ポットの中に入った臭いの立ち込める謎の黒い液体。皿の上には山盛りの雑草。どうみても食べ物には見えないのですが――こんなものを北の塔の騎士達は喜んで食べているのでしょうか……。
臭いの強いポットはどうにも苦手なのでルエイニアに任せてコップを持っていくことにしましょうか……。
「あ、僕は、コップを持っていくから。高級品だから割れると困るし」
「それでは、妾は草を運ぶぞ。まだ身体が思うように動かないし、そのポットをひっくり返したら大変ジャロ」
油断していたら悪臭漂うポットを押しつけられてしまいました。――王女様はすでにその姿になじんでいる気がします。上手い具合に押しつけられた気がします。ポットを担ぐと悪臭が鼻につき……思わず嗚咽がでてきます。
「それでも、フレナは頑張る良い子」自分に言い聞かせておきます……。それにしても今夜は随分長い気がします……エレシアちゃんが恋しい所です。こんなうざったい仕事はさっさと終わらせたいところです……。
「それでは中に入るよ」
ルエイニアが、奥の扉をノックして居ます。中から声が聞こえてきます。
「なんの用事だ」
「夜食をお持ちいたしました」
ルエイニアの声色が急に変わり、完全に猫をかぶっている様です。それは置いておきして——ルエイニアが部屋の中に入ると私と王女も後に続きます。
会議室の大きなテーブルを十数人の騎士が囲んでおります。一番奥に座しているのはクァンススの様です。部屋の中は灯りが煌々と輝いており、まるで昼間の様な感じです。部屋の中では精霊ではなく魔法が感じ取れます。どうやら光精ではなく、
机の上には何十枚もの紙が散らかっています。それには全部色が付いていおり……どこかで見たことのある人が描いてある絵の様です――言全部王女様を描いた絵の気がします。
「議論が伯仲して丁度喉が渇いていたところだ。見慣れぬメイドよ助かるぞ」
クァンススがそう言います。周りに居る騎士達は議論に夢中になっており。どうやらこちらには興味が無い感じです。
「賢者殿、今から仕掛ける」と王女が耳元でささやきます。
「何をするのでしょうか……」
「今から現場を押さえる」
鼻息を荒くしながら王女が言います。そこにルエイニムが横やりを差します。
「この人達、僕たちのこと興味ないみたいよ」
確かに騎士達は、テーブルの上に転がっている絵を見ながら議論を続けています。議論と言うより「こちらの方が尊い」「いやこっちだ……」「これも尊い」「ここ好き」などと騎士達は勝手な事を言いあっています。
「汝等、妾の話を聞け」
王女が溜まらず騎士達の話に割り込んでいきます。
騎士達はビクッとこちらを見ますが、再び絵の方に視線を戻し、再び「ここ好き」「尊い」「これは草が三皿イケる」などとやりやっています……ところで草が三皿とはどういう意味なのか少し分かりかねますが、隣で「ぐぬぬ……妾を無視するか……」と王女が肩をふるわせながら言っております。
一方テーブルの方では議論が白熱しているようで、テンションがドンドンヒートアップしておりどす黒い液体の臭いが部屋の中に立ち込めていき、みるみるポットの中身が減っていきます。この人達は、あの液体を飲んでお腹壊さないのでしょうか……。「生き返る感じだ」「これは辞められない」と言う声が聞こえた気がしますが恐らく気のせいでしょう。
「ふふふ、これだ……これさえあれば、ポーフェヌスもレフェスシアもモリーヌスも我が方に落ちる」
クァンススが奇声を上げながら、いきなり起ち上がります。残りの騎士達がそれを見て喝采をあげます。あまりの気持ち悪さに思わず後ずさります。
「賢者殿、今すぐ奴を止めるぞ」
「はい、わかりました」
王女と私は、クァンススに飛びかかります。一瞬にして簀巻きにしてやりました。王女は厳重に猿ぐつわを噛ませていきます。周りの騎士達が何事かと言う様に驚き、それから警戒の姿勢を取ります。
「賢者殿とルエイニアは、残りを取り押さえよ」
「え、僕もですか……僕は逃げ出さない様に扉を見張っています」
なぜかルエイニアの歯切れが悪いです。それはともかく残りもさっさと捕えてしましょう。
「一人で我々全部を相手すると申すかなかなか殊勝なメイドだな」
「我々北の塔十二騎士を一人と相手申すか……いやそれは騎士道にもとる。一人ずつ相手いたそうか」
騎士という種族は話が長いのでしょうか。一人づつ交代で長口上をひたすら繰り返して行きます。
「そろそろ飽きてきたので一気に片付けます」
「まて、私の口上がまだ終わっていない。口上が終わる前に攻撃するとは反則だ!」
何やら叫んでいるようですが、構わず騎士達に飛びかかります。テーブルの上を跳躍し、一気に三人を突き飛ばします。右に飛んで更に二人、後ろの三人をなぎ払います。騎士達は既に床に転がっています。転がっている騎士を王女が手早く縛り付けていきます……王女の捕縛術は絶品もので、瞬く内に一人を縛り付け転がします。しばらくすると床に転がっている騎士達が簀巻きにされていました……。
「残りはあなた達、三人ですか……」
私が残った騎士三人ににじり寄ると、残った騎士達は後ろに徐々に下がります。そのまましばらくにじり寄ると騎士は壁にぶつかります。
「もはや騎士の享受と言っている場合ではない。三人掛かりでこのメイド達をつまみだすぞ。奇襲の上に、口上中に襲いかかる無礼者達に鉄槌を」
「「鉄槌を」」
騎士が三人かかりで私に向かってきます。鞘から剣を引き抜き本気でかかってくるようです。しかしながら動きが遅すぎ、止まったようにしか見えません。背を低くして騎士達の隙間から後ろに回り込み、首筋に手刀を噛ませます。音を建てながら一人の騎士が倒れます。
「さてどちらかこちらに来ますか」
二人の騎士は私を取り囲みジリジリにじり寄ってきました。しかし、後ろががら空きだと思います。後ろの方もした方が良い気がします。
間髪入れず王女が後ろから飛びかかり片方の騎士が王女に絡め取めます。もう一人の騎士はその様子をみて驚きます。その瞬間に簀巻きにされてしまいます。
「これで悪は滅びたのじゃ。これから尋問の時間じゃ」
王女の目の前に猿ぐつわをされたクァンススと縄で縛られた自称十二騎士が転がっています。
「さて汝ら申し開きはないか」
「あのーどなたでしょうか?」
十二騎士の一人がおびえながら言います。
「妾の事を知らぬと申すか」
王女が低めの声で言います。
「いえ、貴方の様なメイドは見たこと御座いません」
「……と言うことだが賢者殿?」
「幻術かけたままですので……」
「うむ、変装が完璧すぎて気が付かないわけじゃな。いや、仕方が無い。変装をとくとしよう。賢者殿」
王女が何やら嬉しそうに話しかけてきます。そこは変装では無く幻術なのですけど——そのあたりはもはやどうでも良いので素早く幻術を解きます。
「この姿なら見覚えがあるじゃろ」
「ああ、ヴィアニア様……それと新しいお付きのメイドさんでしょうか……」
一同が絶句します。その横で転がっているクァンススはくねくねしています。
「誰がお付きのメイドさんですか」
「ここにおわすはハイ・エルフの賢者殿だぞ」
「……いえ賢者も少し違うのですが……まぁいいです」
「それはともかくなぜこのような所にヴィアニア様がおられるのでしょうか?」
「それは……汝等の悪巧みを暴く為じゃ。この砦を乗っ取ろうと言う悪巧み。妾がしかと聞きとどけたぞ」
「え……」
何やら絶句しています。十二騎士は混乱している方が正しいでしょうか。王女はクァンススを踏みつけつつ言います。何やらクァンススらしき物体がもぞもぞしています。
「先程もクァンススよ、何か申し開きはないか?」
私はそこでクァンススの猿ぐつわをほどきます。何やらもぐもぐしていますよ。それより臭いが酷いです……あれだけ黒い液体を飲み干していれば当たり前ですが……。なるべく息を吸わない様に素早く猿ぐつわをほどくとそこから立ち退きます。
「ああ、ヴィアニア王女様。ご褒美ありがとうぞざいます。おみ足でお踏みになられるとは、この身はこの上なく光栄です。気が済むまで踏みつけてください」
「賢者殿、こやつは何を言っているのか?」
「いえ、私に聞かれてもさっぱり分かりません」
そもそも踏まれて何が嬉しいのか理解不能です。まあ騎士に取っては光栄な行為なのでしょうか?
一方王女は慌てて足をどけて言いつけます。
「踏みつけると褒美になるとは……とんだ痴れ者……それより先程『これさえあれば、ポーフェヌスもレフェスシアもモリーヌスも我が方に落ちる』と言っていただろう。その件について申し開きをしろ」
「くっ……ヴィアニア様に対する秘密がバレてしまいましたか……」
クァンススは恨めしそうな顔をしながらテーブルの方を眺めます。そういえば先程からテーブルの方で沢山の絵の描いた紙を見ていました……。その紙を全部集めて王女の所に持っていきます。
「あ、それは大切な……」
「ん、全部妾の肖像画だな……それも変なのばかりじゃ……この様なモノを一体どこで手に入れたのじゃ」
王女が一枚一枚めくりながら言います。いろいろな王女のイラストがありますが、全て着ているものが違います。それから背景も細かく描かれています。随分気合いが入った絵だとは思いますが、全ての絵が全部根本的に何かズレている感覚がします。
……
……
そして、ある一枚の絵を見つけたとき王女の手が止まります。
「……これは一体いつ手に入れたのじゃ」
王女がクァンススに突きつけた絵は信じがたい風景が描いてありました。これは、私と王女がメイド服を着ている絵で、背景は塔の地下三階の倉庫の様です。しかも幻術をかける前の姿が描かれています。このような情景を知る事ができそうなのは……後ろを見るとルエイニアが見当たりません。
「さては、ルエイニアですか」
しかし、どこを見渡してもルエイニアは居ません。どうやらドサクサに紛れて逃げた様です。
「賢者殿、小物は放っておけ。今はクァンススの尋問が先じゃ」
ルエイニアは小物と言うには大きすぎるとは思いますが……。何やら怪しい動きをしていたのはこの所為ですか……。
「さて、尋問を始めようではないか……」
「これから折檻を受けるなど小生嬉しう御座いいます……。ヴィアニア様、ご褒美ありがとう御座います」
クァンススの言葉遣いが何やらあやしくなっています。
「今ご褒美と言わなかったか?」
「ええ、ご褒美ですよね」
「……しらけた辞める」
「……ええ……もっと、尋問してください」
クァンススが懇願する様な目で訴えかけます。正直本音を言うと気持ち悪いです。その以上に息が臭いです……あれだけ謎の液体をがぶがぶ飲んでいれば臭いのは当たり前ですけど、鼻息が荒くありませんか?
「先に、お前等の方に尋ねるぞ」
王女が(自称)十二騎士の方に向かって言います。
そこでクァンススが身をくねらせながら言います。
「今度は放置プレイですか……」
「賢者殿、こいつに猿ぐつわをしておけ」
「はぁ分かりました」
空気が臭うので黙ってて貰いましょう……その前にれ風霊を呼び出して換気をさえます
「これで匂いもスッキリです」
「んんんん」
クァンススが何やら言っていますが放置して起きます。
「で、そなたらは何をしていたのか。申し開きだけは聴いておこう」
「……いえ、このようにヴィアニア様をあがめる会を行っていただけです」
「あがめる会とはなんぞ」
「このように、ヴィアニア様のベストショットを撮影術式で撮影し、転写術式で紙に転写させるのです……」
騎士の一人が紙を指しながら言います。簀巻きにされているので、顔で差しています。
「撮影術式に転写術式だと……そのようなモノを使えるモノがこの中にいるのかそれとも協力者がいたのか」
「その辺りはよく分かりません。クァンスス様が秘密ルートで手に入れていたようです」
一番怪しいのはルエイニアですよね……。地下三階の状況を知っていそうで、その手の魔法を使えそうな人と言うと……。
「それで、クァンススは何を企んでおったのじゃ」
「それは勿論ヴィアニア様の肖像画を集める事です。沢山集めるには同士が多い方が良いですし、掘り出しものも沢山でてきます」
「……呆れて物も言えんは……で、それと自然崇拝の間に何か関係あるのだ……」
「ヴィアニア様が、これ以上成長為されない様に願掛けをしていたのです。クァンスス様は
「同士とは南の砦の約半分もか?」
「その通りでございます」
「……大丈夫かこの国は……」
王女が頭を抱えております。
「まぁよいおって沙汰は出す。その前にこの部屋の清掃じゃな……おまえ清掃係を呼んでこい」
騎士の一人の縄をほどいてに命令します。その騎士は脱兎のように部屋を出ていきます。
「賢者殿、後は清掃係に任せて帰るか」
「そうしましょうか……」
こうして長い南の塔の一日が終わったのでした。
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