第17話 without協調性



 途中何回か道を違えたはしたが無事目的地の王都正門に着くことが出来た。

 簡素だが、耐久性の優れていそうな馬車───いや、竜車が数台停めてある。

 走竜がそれに繋がれて大人しく座っていた。これで向かうのだろう。


 フョードルたちのパーティ以外は皆、既に着いているようだった。

 自分達のパーティを含め、19人がその場にいる。

 カンナ、ミカエル、スクード、エヴァ等の見知った面々が居たがただ一組、誰一人名前を知らないパーティがあった。昨日フョードルを無視して、城から出る時にいち早くパーティを決めて去っていった五人だ。

 疑問には思っていたのだが、何故あんなに早くパーティを決めることが出来たのだろうか。彼等をぼんやり眺めているとリアがその手を引き、


「挨拶しに行こうよ」


「えぇ……?」


 ノウトはあまり乗り気ではなかった。

 強調性のない怪しい集団だ。近づかない事に越したことはない。しかし逆に言えば彼等の情報を得るには今しかないとも言える。今後どんな展開になるか予想は出来ても確信は得られない。情報はあるに越したことはないしな。

 大人しくリアに手を引かれ、彼等の元へ歩く。レン、シャル、フウカも当然ついて来る。

 リアが彼らに向かって、


「初めまして。わたしはリア。えっとあなた達は……」


「わぁリアさん。リアさんか。リアさん。わざわざ丁寧にご挨拶ありがとう。おれはフェイ。よろしくね」


 フェイと名乗った男は物腰柔らかそうな笑顔を見せる。常に顔に笑顔がくっついているような感じだ。正直言って協調性がないとは思えない。彼は「よろしく!」と連呼しながらフウカ、レンと次々に握手をしていったが、ノウトはそれを拒否した。


「ノウト、失礼じゃないです? 握手くらいしてもいいじゃないですか」


 フウカがノウトを軽く叱咤する。


神技スキルで何かされるかもしれないだろ。こいつらは仲間じゃない」


「あはは。ごめんよ。ごめん。他意は無いんだ。この状況じゃ、そう捉えられるのは仕方ないけどね」


「名前だけは教えるよ。俺はノウト」


「ノウト君ね。覚えておくよ。そうだ、ノウト君、まずこっちの仲間たちから紹介するね。この子がヴェッタ、通称ヴェティで」


「…………」


 フェイの横で佇んでいるヴェティと呼ばれた栗色の髪をしたロングヘアの少女は会釈もせずにこちらを見続けている。

 背はリアとシャルの中間くらいだ。

 恐らく記憶を消され魔皇を倒しに行くというこの意味不明な状況に怯えているのだろう。その目はどこか虚ろだ。

 今にも消えてなくなりそうな儚く、悲しい目をしていた。


「オレはテオだぜ!」


 テオはやけに声が大きく動きもオーバーリアクションな感じだ。この挨拶一言だけで暑苦しいのが分かった。


「いやぁ、あんたたちのこと好きだなあ」


「す、好き?」


 フウカが困惑しながら反覆する。


「実は君たちが初めてなんだぜ? オレらに話し掛けたの」


「あぁ、そうなんですね」


「というわけで好きだ! お付き合いを前提に結婚してくれ!」


「は、はぁ!?」


 テオは何を思ったかフウカに向かって姿勢を低くして片手を差し出した。そう、プロポーズするときのあのポーズだ。


「というか言ってること逆では?」


「いや逆じゃなってうおっ」


「こいつは結構、いやかなりやばいから無視していいよ」


 ツインテールの女の子がテオにタックルして姿勢を崩させる。いや、この髪型、……たしかツインテールじゃなくって正確にはなんて言うんだっけな。忘れてしまったが、まぁどうでもいいかそんなこと。


「やばいはないだろ~、アイナぁ」


「いや実際やばいから」


 アイナと呼ばれた少女は自らの胸を手で指して、


「私がアイナで、こっちがナナセ」


「ちょっ、アイナ、勝手に名前言うなよ」


「別にいいじゃん。手間が減ったことに感謝してよね〜」


「俺には俺のペースがあってだなー」


「はいはい」


「二人とも相変わらず仲がいいね」


「「別に良くない!」」


「はははっ。息ぴったりだ」


 フェイがお腹を抱えて笑い出す。


「う、うっさいな」


 アイナは腕を組んでナナセやフェイからぷいっと顔を背ける。するとノウトはナナセと目が合う。ナナセは気付くか気付かないかの一瞬だけ目を見開いて、


「おまえ………」


「………?」


「いや、なんでもない」


 なんだよ、と気にはなったが質問は出来なかった。アイナが食い気味に話し始めたからだ。


「ていうかあんたらよく冷静でいられるよねこの状況で。記憶も何にもないのに魔皇倒しに行けって……。おかしいのは私の方なの?」


「いやいや、アイナ。正常なのは君だけだよ」


 フェイがアイナの肩に手を置いてニコニコと諭す。


「みんなおかしいんだ。おかしい人が集められてるとしか思えないよ。いやおかしくない人間なんてこの世にいないか。人間は神様の失敗作だからね。まぁ神様も人間の失敗作だけど。あははは」


 フェイは顔にこびり付いた笑みを一切緩めることなく話し続ける。話の内容も相まってまで来ると正直不気味だ。


「ちょ、フェイ……? 大丈夫?」


「あぁ、ごめん。アイナ。……おれも怖くって。これから死ぬかもしれないってのに、冷静でいられるわけないよ」


 すると、ばしーんとフェイの背中をテオが叩いた。実際、音はしなかったが効果音がついてもおかしくない強さだったと思う。


「いてっ」


「フェイ~、良くないぞぉ。なるようになるぜ。そう悲観するなよ。楽しまなきゃ損だ。アイナもな」


「はっ……。能天気過ぎ……」


「ありがとう、テオ。なるようになる、いい言葉だね」


「受け売りだけどな!」


 目の前で仲間愛を見せつけられてる気がする。フェイはノウトたちを振り返って、


「あはは、ごめんごめん。そっちのお名前を聞いてなかったよね」


「仲良いんだね。俺はローレンス。レンって呼んでよ」


「レン君、覚えとくよ」


「シャルロット」


 シャルはそれだけ言いフェイの握手も無視した。


「シャルロットちゃんも不安なんだね。大丈夫。お兄さんたちが守ってくれるって」


「だ、誰が守られるですって? 私、これでも18だから」


「えっ」


 当然の反応だ。シャルロットの容姿じゃ誰もが10歳とかそこら辺を想像する。


「おれより歳上だったんだね。申し訳ない。シャルロットちゃん」


「そう言いつつ『ちゃん』を付けるのやめて」


「ごめんよ。シャルロットさん」


「分かればいいのよ」


 シャルはどこか自慢げだ。さん付けで呼ばれたことがかなり嬉しかったようだ。


「えっと、私はフウカです」


「フウカ! うんうん、オレはテオだ!」


「いや、知ってます」


「そうか、それは嬉しいぜ」


 テオはやけにフウカにしつこく構っているのは、本当に気があるからかもしれない。


「それでさ。俺、聞きたいことがあって」


 ノウトがやっとかと思いながらも話を切り出す。


「ん? なんだい?」


「フェイ達って俺達が気付く間もなくあっと言う間にパーティ決めてどっか行っちゃったよな。なんであんなに早くパーティを決められたんだ?」


「あー、それはね」


 フェイは一呼吸を置いてから、


「運命ってやつかな」


 ノウトの目を見てはっきりとそう言った。

 前言撤回。フェイは協調性のある奴では決してない。会話の噛み合わないヤバイ奴だ。

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