■12.電化製品は魔導具ということで

2019/2/7 後半一文を追加しました。

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翌朝、いつも通りの時間に起床し、身支度を軽く整えてから朝食の支度をする。

昨晩全自動パン焼き器をタイマーでセットしておいたので、焼きたてのパンが出来ている。

台所がパンのいい匂いに包まれ、幸せな気分になる。

大きめのベーコンを厚切りにし、人数分焼く。その上に目玉焼きも焼いて乗せる。

サラダも忘れずにつけて、ドレッシングはお好みで。

昨日のシチューも残ってるから温める。というか、元々残るのを想定してかなり多目に作ったのに、予想よりはるかに少なくなったので材料を足して煮込み直す。


昨日、突如地下室の騙し絵扉から訪れた「異世界の騎士様」たちは既に起床し、それぞれお馬さんの手入れや防具の手入れなどをしていた。

レド君だけはまだお布団の中らしいが。


今朝気づいたのだが、一階の玄関が「騙し絵の扉」に変わっていた。

ノブをつかもうとして掴めなかった。


地下室の玄関から外に出てみると、駐車場があるはずの場所には厩舎があり、そこに五頭の綺麗なお馬さんが繋がれていた。

そして門の外には片道一車線の公道があるはずが、そんなものは見当たらず、森へと続く細い道があるだけだった。


まさに、地下室の扉の外は異世界だったのだ。

季節は地球と同じらしく、気温差はなかった。


ふり向いて家を確認すると、玄関は見覚えのある玄関なのだが、建物が少し違った。

地下室が一階として見えているため、三階建てとして見えている。

本来の玄関部分は壁になっている。

そして傾斜に建てられているようで、地下室部分は一階なのだが、本来の一階部分・・・異世界サイドから見たら二階部分にも地面があり、リビングから外に出られる。

小高い丘に一階部分がめり込んで建って、二階はその頂上に建っている、と言えば分かるだろうか。


ぼーっと眺めていると、声を掛けられた。


「ユカリ殿、おはようございます」


騎士様たちの中で最年長と思われるサムルさんだ。


「おはようございます。良く眠れましたか?」

「はい、お陰様でぐっすり。結界のおかげでこいつらも落ち着いて過ごせたみたいですね」


そう言いながら馬を撫でている。


「朝食の支度が出来ましたので、二階にいらしてください。それと、他の騎士様達にもお声がけくださると助かります」

「かしこまりました。先程からいい匂いがしていたので、実はわくわくして待っていたんですよ」


そう言うとニッコリ笑って家の中に入っていった。

正直、騎士様たちは皆とってもイケメンというかハンサムだ。

あんな爽やか笑顔を朝から拝めるなんて、役得かもしれない。


ちょっとテンションが上がって台所に戻ると既に皆さんが集まっていた。

昨日怪我をしていたグレスさんもいる。

良かった。顔色も良いみたい。


「皆様、おはようございます。朝食が出来ましたので食べてくださいね。私もご一緒させていただきます」


カトラリーはスプーンとフォークにナイフ。

ベーコンとたまごは少しレンジでチンして温め直してから出した。

バターと切り分けたパンも出して好きに取れるように籠に入れて真ん中に置く。


全員が同じテーブルにはつけなかったので、サムルさんとアルゼンさんはリビングのテーブルを使っている。

もちろん、そちらにも切ったパンの籠や切り分けたバターなどを置く。

私が席につくと皆さん食べ始めた。

すると、隣に座っていたグレスさんだけまだ口をつけずにこちらに向いた。


「昨日、突然訪問した上に食事や寝床の提供をしてもらい、感謝している。身体も治癒魔法のおかげで怪我する以前よりも体調がいいくらいだ。感謝してもしきれない。本当にありがとう。昨晩はきちんと礼が言えずにすまなかった」


私の目を見てしっかりと感謝を伝えてくれた。

昨日はちゃんと見ることが出来なかった瞳は、緑がかった青い色をしており、透き通っていてとても綺麗だと思った。

黒に近い茶髪は精悍に見せ、いかついながらも優しさを感じさせる人だと思った。


「どういたしまして。お元気になられて本当に良かったです」


にっこりと笑って答えると、何故かグレスさんは固まってしまった。

何か変なこと言ったかな?

まぁいいや。そんなことより


「冷めてしまいますよ。沢山あるので良かったらおかわりしてくださいね?」


そう言って自分もパンを取って食べ始めた。

今日は朝からお腹がぺこぺこだったのだ。

暫くするとようやくグレスさんも食べ始めた。


「ところでユカリ、先程肉をあの箱に入れてましたがあれは何ですか?」


ベルナルドさんが指さしたところにあるのは電子レンジだ。

そうか、レンジは異世界には無いのかな?


「あれも魔導具ですよ。貴重な物なので触らないでくださいね。食材を温めることが出来るんです」


そう言うと納得してくれた様子だった。

よし、電化製品は全てこれでいこう。全て「魔導具」これ便利。


「私の魔導具はほぼ、雷の魔法で動いているので無闇に触らないようにしてくださいね。感電しても知りませんよ」


そう言うと皆さん一瞬引きつった顔をしてから分かりました、と返事をしてくれた。

これで、異世界にとっての「オーパーツ」は勝手に触られる事は無いだろう。


そう、

まだ異世界では発明されていないもの。

似たような魔導具もあるようだが、無いものだってあるだろう。

どんなものが世界に脅威をもたらしてしまうのか、私には全く予想がつかない。

ささいな物が、彼らの世界の均衡を崩してしまうかもしれない。

そのきっかけを、私が作ることになりたくない。

かといって、既に沢山の物を彼らに見られてしまった。今更隠す方が不自然だ。

だったら触らさせなければいい。

単純にそう思った。

そして、彼らがいる間はテレビやインターネット系は触らないでおこうと決めた。

スマホもマナーモードにして部屋に置いてきた。


私がこの事に気がついたのは、朝食を作っている時だった。

普段から異世界トリップものの小説も読んでいた。

どの物語でも、だいたい地球の文明、つまり、オーパーツの扱いについてが描写されていた。

今回はまさに、小説の中の彼らを参考にさせてもらうことにした。


朝食を済ませると、各々帰る支度に取り掛かっていた。

私は台所で朝食の片付け中。

彼らの勤めるお城は、ここから馬で二時間半ほどかかるらしい。


お皿を洗い終わる頃、皆さんが揃って挨拶をしてくれた。

地下の玄関まで行き、見送る。

鎧を身にまとい、騎士の礼をとってくれた時には年甲斐もなくお姫様になった気分になった。

特にグレスさんなんか、身長がとても高くて190センチ近くもあるので圧巻だった。

隣に並んで立ったとき、思わずでかっ!と言ってしまったのは許して欲しい。

なんせ私は身長155センチ。

日本人の中でならそこまで小さくはないと思うのだが、ヒールも履いていない今はダイレクトに身長差を感じた。


レド君にいたっては左手の指先に唇を落としてきた。

なんつーキザな事を!やっぱりこの子はアレだ。王子だ王子。

違ってももう王子と呼んでやる。


彼らは馬に跨り、ベルナルドさんを先頭に森へ続く一本道へと帰っていった。

紫は彼らの後ろ姿が見えなくなるまで見送った。


地下の玄関から中に入ると、チリン、と可愛く鈴の音が鳴った。


台所に戻ると、騙し絵になっていた玄関が普通の玄関に戻っていた。

どういう事だろうか。外に出てみると車のある駐車場に門の外は公道。

地下に戻り、扉を見ると、こちらも騙し絵ではなく、扉のままだった。

外に出てみれは厩舎と細道。

つまり、私はどちらの世界にも行き来が出来るのかもしれない。


しかしまだよく分からない。

分からないことは後回しにして、取り敢えず今日は、騎士様たちが使ったシーツを洗ってお布団も干そう。

次にまた誰かが来た時に、気持ちよく使えるようにしよう、と慌ただしく動き出した。

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