第65話 転移刀

 狩りに行くのに距離が遠くなると歩くのが苦痛になってきた。

 背景が変わらないのも気がまぎれない理由の一つだ。

 背景は改善できないので歩くのをなんとかする事にした。




 動く歩道があれば楽なのにという発想から魔法で再現してみる。

 水魔法を展開し強度を木の板ぐらいにして地面についている部分を流動させた。

 走るぐらいの速度は問題なく出る。

 フィオレラは気に入らなかったのか馬ゴーレムに馬具をつけて乗馬していた。

 ビオンダさんはこんな便利な物に頼っていたら鈍ると言い出し半分の時間は走っている。

 ローレッタも脂肪は敵みたいな事を言いながら付き合った。

 汗をかいたらフィオレラが洗浄のスキルを掛ける。

 生活魔法は便利だな。




 そして何日か狩りをして範囲が遂に荒野迷宮と呼ばれている所に差し掛かった。

 荒野迷宮は目印となる岩が無い場所で踏み込んで迷うと大変な事になると恐れられている。

 ビーコンもここまでは届かないのでここから先は純然たる興味だ。




 方位磁針は問題なく方角を指していると思う。

 富士の樹海みたいに磁場がどうこうとかは無いみたいだ。

 ただ魔獣がいない。

 変だ。

 荒野の主とか居るのだろうか。

 四時間ぐらい動く歩道魔法で進んでいたらチラッと光る物が見えた。

 なんだろう。

 不思議に思いながらその方向に進む。




 黒い物が見える。

 近寄ったら黒曜石みたいな物で出来た石碑だった。

 文字は何も書いてないからただの石柱かな。

 これが魔獣を遠ざけているのかとりあえず分析してみて驚いた。

 もの凄い濃い魔力だ。

 魔力が渦巻いて拡散している。

 もしかして魔力の発生源なのか。




「やぁ!」

「今、誰か何か言った?」


 皆は首を一様に振る。


「神様……で~す」


 又聞こえた。幽霊か。気味が悪いな。




 だんだん曖昧だった声が明瞭になってきてとうとう聞き取れた。


「やっと気づいたひどいね君」


 声は若い男の声でどこか軽そうだ。


「何者だ?」




「シロクさん誰に話しかけているのです?」


 フィオレラが心配気に話しかけてくる。


「さっきから話しかけてくる声があるんだ」

「なにも聞こえないのですが」

「とうとう一線を越えたか。貴君みたいな変人はいずれそうなると思っていた」

「わにもなも聞こえね」

「ちょっと黙って」




 聞こえているのは俺だけみたいだな。

 テレパシーって奴かな。

 何者かと念じてみる。

 応答があった。

 声の主は封じられた神様らしい。

 人間に発音できる名前が無いという事なので仮に封神とする事に。




 封じられた経緯を聞き流していると取引を持ちかけてきた。

 俺に監視カメラみたいな物を付けたいらしい。

 理由は封じられていると暇で死にそうだと。




 信用して良いものか邪神の同類だったら困る。

 お礼に出来る範囲で好きなスキルをくれると言う。

 かなり惹かれる提案だ。




 封じられた神様の事を皆に聞くと。

 知らないとの答えが返ってきた。

 誰も知らない存在なら問題ない。

 いやいや信用するには決め手に欠けるな。




「どうすれば良いと思う?」

「他の神様に話を聞ければ良いのですが」


 フィオレラの意見に一理あるな。

 そうだこうしよう。

 他の神様に保障して貰えば問題無いと伝えてみた。

 そうしたら一瞬で白い空間に切り替わり、この星に飛ばしてくれた神様が現れた。




「その節はお世話になりました」

「頑張っておるようじゃな」


 うん、神様オーラは健在だ。

 幻には見えない。


「それで……という訳なんです」


 神様は特別に面倒でも無く面白がっているように見える。


「問題ないじゃろ」

「そうですか」


 幻術に掛かった可能性もあるがここまでされたら仕方ない。




 石柱の前に戻され取引を受けることにした。

 カメラのオンオフが出来る様に条件を出す。

 貰うスキルは迷った。

 アイテムボックス、物品鑑定、創造魔法など浮かんだ。


 結局欲しいスキルは魔力ゴーレムに近接戦闘強化をお願いした。

 理由は生産や商売向きの能力では魔獣の活性化に対応できないからだ。

 魔獣の活性化で一波乱あると予想した。




 スキルの受け取りをフィオレラにし、貰ったスキルは転移刀だった。

 転移刀か。

 名前は凄そうなんだがどうだろう。


 封神に詳しく聞いた。

 何でも転移する空間を刀状に作り出し切り裂くそうだ。

 防御系スキルやどんなに硬い物でも切り裂けると言う。

 良いものを貰った。

 約束を果たさなければという事で。


 ちょっと恐ろしかったがカメラをオンにする。

 大丈夫だ影響は無い。




 心配で表情が少し硬いフィオレラが話しかけてきた。


「ところでさっきほんの少し消えていましたけど。どうしたんですか」

「ああ、神様に会ってきた」


 興奮した様子で詰め寄ってくるビオンダさん。


「何っ! 神様に会ってきただと!! なんて羨ましい!!」


 ビオンダさんのテンションが少し怖い。

 なんだかんだ言っても教会の人なんだな。




「さあ、フィオレラ、スキルを試してくれ」


 転移刀を発動するフィオレラ。

 なんと一秒しないで魔力が尽きる。

 完全に魔力ゴーレム専用スキルだな。

 なんて燃費の悪いスキルなんだ。




 フィオレラの魔力が回復するのを待って転移刀が使えるゴーレムを作ってもらう。

 転移刀は色が黒く見える。

 光の反射とかが無いので暗黒物質で作ったみたいだ。

 良い機会なので分析する。

 転移を使えればもっと便利になると思った。


 分析はしたが、イメージが理解できない。

 こんな事初めてだ。


 気を取り直して切る物が何もないので、転移刀を使って地面を切る。

 バターを切る様に地面に筋が出来た。

 三分程経った時魔力ゴーレムの魔力が尽きる。

 切り札にしか使えないな。

 でも良いスキルだ。


 よし、試験だ魔獣を探そう。

 魔力ゴーレムを新たに作ってもらい。

 動く歩道魔法で荒野迷宮を爆走する。




 何時間か町に向かって走り、岩がチラホラ見えてきた。

 遠くにゆっくりとこちらに近づいてくる魔獣がいる。

 ストーンタートルだな。

 さっそく転移刀の出番だ。

 パーティメンバーに見ているよう指示をして。

 近くに寄って転移刀を発動する。

 まずは足を切る事にした。

 土魔法の鎧を纏っている前足を切断する。

 すごい切れ味だ。

 音も無く筋が入り血が噴出し前足が転がる。

 歩く事が出来なくなった魔獣の首を落とし止めを指す。




「運送サービス到着しました」


 四体の馬ゴーレムに引かれた馬車が停車した。

 作業服を着た四人の男が運転席から降りてくる。

 荷台に乗っている皮鎧を着た護衛は辺りをしきりに警戒している。

 距離が心配だったが問題なかったみたいだ一時間ぐらいで到着した。


「ご苦労様、獲物はそれだ」


 ストーンタートルを指で示すと切られた断面をしげしげと見て驚いた様子だ。


「さすが大魔法使いです。あの固いストーンタートルを一撃で切断するとは」


 泥ゴーレムでストーンタートルを荷台に積み込む。


「じゃあよろしく」


 馬車はゴトゴト音を立てて去って行く。




 次の獲物を探して荒野をうろつく。

 現れたたのはベノムスコーピオン三匹だった。

 めずらしいな群れる魔獣ではないのだが。




 転移刀で魔力ゴーレムに切りかからせる。

 邪魔な鋏を切り飛ばし頭を両断する。

 転移刀は溶解のスキルでも溶けないみたいだ。

 次は尻尾を振りかざしてきたので針を切り落とし怯んだ所で頭をさっくりと割る。

 盛んに威嚇している最後の一匹は一刀両断にした。

 運送サービスを呼び今日はこれで狩りを終える事にする。

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