第28話 某神が
不気味な閃光と低く唸った咆哮が支配する世界の下で。
風の音に混じって別の音が聞こえてくる。
「なんだ……これは」
「間抜けな出囃子みたいな音ッス。これは誰かの登場音楽ッスね!」
「いや、せめて風が変わった音を鳴らし始めた、とか言い方工夫しようよ。音楽って何さ。スネ夫が自慢話始めたときに流れるアレでしょ。アニメやゲームじゃないんだからテーマソングとか無いからね」
「でもこれ、サザエさんでよく流れる背景音っぽい感じがするッスよ。正確にはちょっと違うッスけど、雰囲気というかなんというか」
「いや、もういい。とりあえずシリアス展開が終了したということは理解した」
おかしいな。メタ発言はマナちゃんの役割だったはずなのに。
多分ウーウァを抱きかかえて満足して、自分の役割を放棄しているな。
「ウゴゴゴゴ……」
巨人が唸り声をあげ、気がつけばすぐ近くまで迫っていた。
その出で立ちは人型の体格で、ほぼ裸体に近いシルエットであり、巨大な人間という印象がある。
「な、何者だ!?」
「コオオオォォォォ……!」
その巨体を揺らし、丘に立つ我々を見下ろす。
「……し」
「?」
「社長さん、初めまして! ボクの名前は貧……某神なのねん!」
「か、神様だぁぁ!!」
「う、うわあああぁぁぁぁ!!」
いや、おかしい。
恐れ慄くような存在では、無い。
そりゃ神様だけど。
神様だけど!
「シャチョーじゃなくてシショーッス!」
「マナちゃん! 余計なこと言っちゃダメ!」
「ん~、あれ? あれれ? おかしいのねん。ここはどこなのねん? ボクは来るべき新作に向けて準備運動していただけなのに、おかしなところにやってきちゃったのねん」
「え、新作は出ないッスよ?」
「え? マジで?」
「マジで」
「どうしてなのねん?」
「大人のジジョーってやつッス」
「ガーン! そ、そんな……。じゃあ、もう良いのねん……。この周辺を赤パネルの海にする練習も必要ないのねん……。ソシャゲとかで復活するその日まで眠っているのねん……」
その可能性も低いけどな。
そう言ってボン……某神は肩を落としながら戻っていった。
次第に風は収まり、立ち込めていた雲もすっかり消え去り、元通りの空を取り戻した。
「な、何だったんだ……?」
「勝手に悲観して勝手に帰っていったけど」
「あーもー、アイツに汚れた服と乱れた髪型の分だけなんか要求するんだった!」
「怒るのはそこ?」
「……なあ、よくわからないがこれで問題なく親父を探しに行けるってことだな」
そういえば、彼らは今日何が起きる日か知らないままだった。
よくわからないままに父親が失踪して、神様紛いの存在が現れては消えていったようにしか思っていないのだろう。
今日がそんな命運を分ける大事な日であったことなど知らぬままに。
「よし、それじゃあ改めて――」
「その必要はない」
甲高い声がした。
声の方を振り返ると、そこには小さな影と揺れる金髪が――居なくなったはずの預言者ノアの姿があった。
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