第17話 動物に容赦ないさん

「ああっ、フィークスゥ! たーすけてぇぇぇーーーーっ!」

 ダチョウに乗った青年が高速で通り過ぎていった。

 あれホントにダチョウか? あの獰猛さはヒクイドリか何かでは。

「はぁ。まったく」

 フィークスがため息を付いて右手をかざす。それを見たダチョウが彼女めがけて一目散に突撃してくる。左脚を軸にした鮮やかなターンが憎らしい。

 彼女にあと少しで激突するところでフィークスはステップを刻むように後ろに下がり、華麗に躱す。と、掲げていた右手を勢いよく下ろし、ダチョウの首根っこを掴む。

 急に掴まれて混乱したダチョウは物理法則を無視してその場に停止する。捕まっていた男は慣性により放り出された。

「この子こうしたら簡単に止まるのよ」

 大丈夫、真似する予定はございません。

「へー、占い師って凄いんスね」

「絶対占い関係ないから。それより男の人は!?」

 飛んでいった青年の方に駆け寄る。

「えっと、大丈夫ですか?」

「はひ……」

 ボロ雑巾よりボロボロになっていた彼だが一命は取り留めたらしい。

 ゆっくりと、特に心配する様子もなく、フィークスが歩み寄る。

「はい、起きる! シャキーン!」

「シャ、シャキーン!」

 ここで彼の様態についてあれこれと述べるのも厄介なので、彼にはこの一行の間に回復してもらった。

「手を叩いたら復活したッス。手品師みたいッス」

「もはや占い師要素関係ないじゃん……」

 ギャグ風に吹っ飛ばされ、ギャグ風に次の行でケロッと復活した。

「やれやれ、父にも困ったものですよ。いきなり動物のつがいを集めろ、だなんて。そのくせ自分より背の高い動物は怖いからと父は一切動物集めには協力してくれないときたもんだ。ああ、すみません。いきなりこんな愚痴を聞かされても困りますよね」

 ハーちゃんことノアの息子であるハム。先程の情けない声からは想像できないほどの長身で整った顔立ち、短い金髪に白い衣を纏い、赤いマントを羽織っている好青年だった。

 まさしく正統派イケメン。

 まともな男性キャラは初登場ではなかろうか。

「もう、ハーちゃんがしっかりしないから、この子達が調子に乗っちゃうんでしょ」

 ダチョウの首を引っ張り胸元まで下げ、コツンと左手の握りこぶしで叩く。

 ダチョウの上でヒヨコが踊る。

「確認するけど占い師だよね?」

「この頃流行りの占い師は武闘派ッス」

 もちろんお尻はキュート。って旦那の前で何考えてんだ。

「はは、面目ない……」

「一応改めて紹介しておくわね。ハーちゃん、アタシの旦那様。ノア様の息子三人のうち長子ね。元々羊飼いっていうか、色んな家畜を飼い慣らしては村人に引き渡すような仕事をしてるのよねー。だから動物のつがいを集めるには適任って感じ? こんな鳥一匹とっ捕まえられないくせにねー」

「あはは、流石にこんな怪鳥は簡単には手懐けられないよ。ハムと申します。お恥ずかしいところをお見せしましたが、これでも羊や山羊の扱いには慣れていますのでご安心を」

 全身傷だらけだが、優しい笑顔を浮かべる。二人並ぶとなかなかお似合いの夫婦だ。

「この二人にも動物集め、手伝ってもらうから。さぁさ明日からビシッバシッいくよ」

「ええっ!? 大変な作業なのに、まさか無理強いしたりしてないよね」

「だいじょーぶッス。一宿一飯の恩義に報いるのは当然のことッス。でも気がついたら百宿百飯くらいに膨れ上がってるかもしれないッス」

「意外と図々しいね。アタシは嫌いじゃないけど」

「占いは私利私欲のために使うものじゃないってあれほど……。辛くなったらいつでも仰ってください。我々が勝手に行っていることですから、他の方に無理をさせるつもりはありませんかららラアイタタタッ!」

「あ、ありがとうございます……」

「超良い人ッス。ダチョウに頭ついばまれてなければさらにカッコ良かったッスのに」

「残念なイケメンて感じよねー。ほら、いつまでも遊んでないでとっとと寝る。しっしっ。……ここに居ると動物たちに襲われ続けるから、さっさと家の中に入りましょ」

 こうして、わたし達は彼らの家を居住地として暫くの間厄介になることにした。

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