第2章7 『迫る脅威』

「うさぎぃ〜っ」


「お前、そんななりで案外、かわいいもん持ってんだな」


「なっ」


「おい待て、お前ら。何であれをうさぎだと断言できるの。どー見ても大福じゃん!?」


 キリユウが指摘する皆がうさぎと断言するものは、ヒカゲが抱く薄桃色のものの事だ。尾が長く、耳はやや短く、丸みを帯びている。


「う〜さ〜ぎぃ〜っ」


「フィア、駄目だよ。あれは駄目だからな」


 フィアナは既に捕食者の目をしており、今にも大福うさぎに食らいつこうとしている。


「そのまま食うか、焼いて食うか」


「ルナやめろ、お前が言うと冗談じゃすまない気がしてならないよ」


「僕を食べよぉって思ってるのかにゃ? やめといた方がいいよ、だって僕……うさぎだしっ」


「しゃ、喋った!?」


「喋るうさぎ大っ歓迎〜!うさぎぃー」


 フィアナは耐えきれずヒカゲの持つうさぎへと飛びつこうとする。しかし、


「俺に近づくなっ!」


 その声は恐怖と動揺の色を見せる。怯えているの

かヒカゲは酷く震えていた。喋るうさぎを強く抱きしめ、後退あとずさる。フィアナもそれ以上は歩み出そうとはしなかった。


「ごめんよ、この子は少々人見知りにゃんだ」


「にゃんだってよキリユウ。あいつウサギの形して中身は猫なのか?」


「この小動物、うさぎなのか猫なのか」


 うさぎか猫かで悩むキリユウ。その場はティナを救出した事で一時、和む。しかし、


「グォォーーー」


「はひぃっ!?」


「くそっ、人が集まり過ぎたかっ」


 突如、聞こえる大きく、鋭い遠吠えに声を上げるエイヒ。この場にいる全員、此処ここが弱肉強食だという事を思い知らされた。

 木々の間から顔を出した三つの頭。巨大なフェンリルを余裕で越す程、獰猛ねいもうな瞳の強さで後退る。


「そっその幻魔はぁケルベロスっ言うてな幻魔の中でも上級以上でなっ『地獄の番犬』とも言われとる幻魔ですぅ」


「ひぃっ」


「背を見せるなっ!」


 ルナの忠告を聞く前に背を見せてしまったエイヒ。ケルベロスはエイヒの元へ駆け出した。エイヒは地に腰をつき動こうとしない。


「グォォーーっ」


「ひぁっ」


「エイヒっ」


 エイヒは地に腰をつき、動けない様だった。しかし、ケルベロスは止まる事なく勢いをつけてエイヒへと爪を向けた。


 しかし、エイヒにはケルベロスの爪が当たることはなかった。何故なら、


「ぅあっ!」


「ヒカゲ!?」


「ミュ〜っ」


 エイヒを庇い、ヒカゲが飛ばされたのだ。その威力は凄まじく、ヒカゲの体を軽々と吹き飛ばし、反動で木へと叩きつけられる。ティナはハクアの腕から飛び出しヒカゲの元へと飛んでいった。


「ぅそ、だろ? あんのどうやって」


 恐れ、後退るキリユウ。ケルベロスの瞳はギラギラと輝き、エイヒへと向けられていた。


斬撃の疾風波ラフ・エアレイドっ!」


 ルナは風の斬撃ざんげきを喰らわすが、傷一つつかないケルベロスの強靭きょうじんな身体に唖然とする。しかし、その攻撃でケルベロスの視線がルナへと向けられた。


「ルナっ」


「グォォーーっ」


 巨大な身体のわりにスピードが速いケルベロス。唖然あぜんと立ち尽くすルナに、恐怖の圧力が襲いかかる。ケルベロスはルナの重い薙刀を一瞬で叩き飛ばしルナに牙をいた。


「ルナナっ」


 フィアナの声がその場に響く。しかし、ケルベロスは動きを止めた。

 突如、遠くから笛の様な音が聞こえたのだ。ケルベロスはその音を聞き取り走り去ったのだった。何とか命拾いしたルナだが、はっと我に返りヒカゲの事を思い出す。


「ヒカゲはっ?」


 一同がヒカゲの元へと駆け寄る。すると、腹部に深い傷を負い、苦しむヒカゲの姿があった。


「ミュ〜っ」


「フィアナ、何とか出来ねぇか」


「治癒の魔法は限られた人しか使えないの」


「ケルベロスの爪には毒があると聞くにゃ」


「マジかよ、うさぎ」


「はよぉ緋龍ひりゅうへ連れて行かんとぉ」


 キリユウはヒカゲに包帯を巻き応急処置を施し、ルナはヒカゲを背負いエイヒとハクアの国、龍鬼帝国中央州、緋龍へと向かうべく走り出した。

 森を抜け、開けた木々の間に作られた道を走る一行。月の光は先ほどとは違い穏やかであり、星々が輝きを発している。キリユウ達はハクア達に連れられ、走り続けた。そして辿り着いたのは大きな門。その門兵に事情を話し、中へ入れてもらい、大きな王宮へと案内される。

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