第2章6 『少年は睡蓮のように』

 フェンリルの群れを倒し、森の奥へと進んでいくキリユウ達。先程から幻魔は現れず、赤い月の光に照らされる。


「なぁ、こんなんでティナ見つかる……んですか? ルナさん」


 ぎこちない敬語を使うエイヒ。先程の事が身に染みたのか、ルナに敬語に加えさん付けだ。


「知るか、方角はあってる」


「途中で曲がったとか」


「おい、キリユウそう言う事は言うもんじゃねぇぞ?」


 ルナはいつにも無く笑顔をエイヒとキリユウに向ける。その笑顔に身震いし、沈黙を貫き通すが、


「しっかし木ばっかじゃっ?」


 エイヒの口に手をやり右手の人差し指を立て、口元に当てるルナの行動に一同が静まり返る。

 水の滴る音が聞こえたのは確かだ。体勢を低くし、進んでいく。

 すると、木と木の間に光が差し込んでいるのが見える。ルナは木陰へと隠れ様子を伺う。それに続き、キリユウも覗いて見る。


 そこには大きな湖が広がっていた。湖には白やピンクといった綺麗に咲く睡蓮すいれんが浮かんでいた。

 その近くに、薄汚れ布先が所々切れている黒いマントを羽織った白髪の少年がいるのが分かる。

 顔に水を浴びせ、頬から滴る水。純白の肌に瞳は清純せいじゅんな心の現れの様に優しいピンク色の双眸だ。

 少年の近くで黄色い翼を羽ばたかせ、少年の頬に甘える様に、その身を擦りつけている黄龍がいた。護神龍、ティナであろう。少年はティナの頭を撫でて微笑んだ。キリユウはこの様な優しそうな少年が本当にティナを誘拐したのかと疑ってしまう程、彼からは繊細せんさいで穏やかな粒子の流れが見える。


 ルナは何を考えているのか、薙刀を握り締める。まさか・・・とは思うキリユウだが、ルナはそのまさかを行動に移したのだ。


「ハァっ」


「っ!?」


 少年に向かって薙刀を振り下ろすのではなく、湖の水面へと薙刀を滑らせ、風を操り水飛沫を少年へと被せ、少年はティナごと水飛沫で濡れる。ルナはそのまま少年へと薙刀を振り下ろした。しかし、少年はティナを抱いたまま軽々と避ける。


「ティナっ」


 ハクアが耐え切れずティナの名を呼び、飛び出してしまう。その声を聞き、腕の中で暴れるティナ少年は、ハクアへと飛ばす。


「ティナぁっ」


「ミュ〜っ」


 ティナはハクアの元へと飛んで行き、ティナの救出は成功したのだ。


「は?」


「どーしたんだよ、ルナ」


「いや、何で」


「え? まさかお前、あの少年が悪者だと思ったのか?」


「違うのか?」


 ハクアとティナの再会を優しく見つめる少年を悪者だと言うルナの感覚はよく分からないと思うキリユウ。


「なんか拍子抜けだなぁ、あんなに苦労してここまで来たのに」


「僕は良かったと思う。あんなのに何度も出会したら命がいくつあっても足りないよ」


 安堵の声を漏らすキリユウと裏腹にルナは詰まらなそうに薙刀で素振りをして見せる。


「ねぇ君、ティナナを助けてくれてありがとぉ! ハックーもすっごく喜んでる〜」


「……」


「君ぃ名前は〜? どこの人ぉ?」


「俺は……緋影ヒカゲ


 濡れた黒いマントを脱ぎながら、ぎこちなく話す少年、ヒカゲ。ティナとの再会を得たハクアはエイヒと喜び合っていた。


「旅人さんなのぉ? うみゅっ!?」


「どーしたんだ、フィア?」


 ヒカゲを質問攻めにしていたフィアナだが、一瞬にして興味が移った様だ。それはヒカゲの持つ背嚢はいのうの中から出てきたものに心奪われたからだ。

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