第1章10 『炎の妖精』

『君は力が欲しい?』


 先程、ミアからキリユウを助けた光。キリユウの持つ紅蓮の光を放つ粒よりは弱いが、辺りに散らばる光とは違う輝きを持つ光。その光がキリユウに言葉を交わして来たのだ。


「欲しいよ、二人を守れるくらいの力が」


『それじゃあ僕が力を貸してあげるよ』


 キリユウが返答した瞬間、一等光だし粒だったものが小さな人の様な形を成した。否、人ではない。羽の生えた人型の何かに姿を変えたのだ。


『僕の名前、分かるよね! さぁ、呼んでっ』


 コクの放った黒炎の球を全て薙ぎ払ったルナの背後からミアにめがけて走り出すキリユウ。


炎の妖精フレアっ僕に力を貸して!」


 キリユウの言葉に答える様に黒剣へと炎を宿す。ミアの懐に入り炎を宿した黒剣を右上から左下へと振り下ろす。

 血肉が裂ける音と共に吹き出す赤い液体。裂いた途端、炎は勢いを増して大きく燃え出した。


「っヴァァァっ!?」


 炎は辺りに飛び散り炎に触れたものが一瞬にして大きく燃え上がる。


「ハクっ! ここは危険なのだ!」


「待って、母様がっ」


「止む終えないのだ!」


「姉様っ!」


 拒むハクを無理矢理コクは連れ出し、ミアを置いて逃げる様に玉座の裏にある隠し扉を開け、奥へと向かった。


「キリユウ、フィアナ! こっから出るぞ! ロリ熊を追え!」


 ルナの呼びかけに応じキリユウとフィアナもルナに続き奥へと進む。

 奥は複数の牢があった、その中にナギサの姿があった。


「ナギサっ!」


「ルナお兄ちゃん!」


「離れてろ、今開けてやる」


 ルナは牢を片っ端からこじ開ける様だ。薙刀を使い風を起こす。


斬撃の疾風波ラフ・エアレイドっ!」


 鉄をも砕く風を操り、全ての牢を破壊するルナ。中には十数人の子供達が身を縮めていた。破壊された牢から飛び出し、ルナに抱きつくナギサ。余程怖い思いをしたのか怯えながら泣きついている。


「ナギサ、ユウラはどこだ?」


「おかぁさんがっお母さんがっ!」


 泣きながらナギサの指す方へと首を向ける。そこには、


「ユ……ウラ?」


 山積みにされた血の気のない若い女性達であった。その片隅にユウラの姿もあった。

 目を疑う光景だった。キリユウは恐る恐るユウラの元へと行き脈を測るが微動だにしない。他の女性達も死後から数日は立っているだろう。


「嘘……だろ? なぁ、キリユウ!」


 瞳に涙の膜が浮かぶルナ。キリユウも今にも泣き出しそうだった。


 聖堂の方から炎が迫る。その事に今生きているナギサや子供達の事を考えると、ここから逃げ出す方法を考えるしかない。


「ルナ、今はここから出よう!」


「あぁ、そうだな」


 キリユウ達は子供達を牢から出し、奥へと続く通路へと進む。すると、奥から小さな泉が現れた。大気の粒子は泉の中へと続いていた。


「ここを行けば外へ出られる!」


「フィアナとキリユウが先頭を行け、俺は後尾を行く」


「うみゅっ! 分かったぁ〜行っくぞぉキリューっ!」


「ええ!?」


 キリユウはフィアナに連れられ泉に飛び込む。泉の中は上も下も分からなくなる程広く、フィアナも迷っている様だった。

 しかし、キリユウには光の粒子の流れが見えていた。それを辿れば出口だと何故だが確信も持てた。キリユウはフィアナに指差しで出口を教える。フィアナは何も言わずにその方向へと進む。後ろには子供達がキリユウ達の後をついて来ていた。そして、光の光源へと到達した。


「うみゅ〜っ」


「ぷはっ、いきなり飛びこむなよ」


 続々と牢に入っていた子供達が泉から出てくる。子供達をフィアナと一緒に引き上げる。そして、最後にルナが水面から出て来た。


「これで全員か? ルナ」


「ああ」


「──ルナちゃ〜ん、もうおじちゃん意地悪しないから出て来てくれぇ〜っ」


「あれは、カプか? ルナちゃん」


「調子乗ってんじゃねぇよ、キリユウ」


 カプ達が探してくれていた様で、すぐにキャラバンに保護されたキリユウ達。


「ナギちゃんっ」


 ミーリアはナギサが帰って来た事に大喜びで抱きついていた。しかし、昨晩からいなくなったユウラの事を聞かれ、ルナはありのままの事をキャラバンの人達に話した。泣き崩れる者、絶望する者、皆キャラバンの団員が亡くなったことに嘆き悲しんだ。

 その夜は夏とは思えないほど酷く寒く、キャラバンの者達のすすり泣く声は絶えることはなかった。キリユウはテントに居づらくなり、外へと出て来ていた。夜空の下、しばらく空を見つめていたキリユウの背後から人影が現れた。その人影は隣へと腰掛け、同じように空を見つめる。澄んだ空気の中、星々は瞬く。


「ありがとな、キリユウ」


「え?」


「お前がいなきゃ子供達、助けられなかったかも知れねぇからな」


「それはこっちも同じだよ。ルナが居なければみんな戻ってこれなかった」


 ルナがどんなに悲しみ、悔いたのか眼の腫れ様で分かる。この悲しみは消えることなくこのキャラバンに残るであろう。

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