第1章7 『黒熊の幼女と白熊の幼女』

「──仲むずましい光景なのぉ〜」


「なっ、てめぇ!」


 突如、上から可愛らしい女の子の声が降って来た。ルナは声を強張らせ、空に浮かぶ黒熊の幼女を睨む。


「やぁ、迷える子羊達! 僕らはそんな君たちに希望の光を与える存在なのだ!」


「僕ら? てめぇ一人じゃねぇのかよ」


「そうなのぉ」


「はわっ! ふっ増えた!?」


 ルナの問いかけに黒熊の幼女の後ろから白熊の幼女が少し顔を出したのだ。


「なんで二人もいんだよ!」


「僕ら二人合わせて怠惰の加護を司る、僕はコクなのだ!」


「ハクなのぉ」


 男っぽい口調で暗黒色の瞳を持つ黒熊の幼女、コクと恥ずかしがり屋で純白の瞳を持つ白熊の幼女、ハク。


「そう、君達が怠惰の加護を持っているのね」


 そう呟いたのはフィアナであった。普段の彼女とは違う雰囲気を纏っている。


「そこの黒髪、僕らは君の様な強い存在を求めている。こちらの世界にくるのだ!」


「来いと行っていくバカはいねぇんだよ!」


「ロリ熊っ! ナギサちゃんとユウラさん返せ!」


「誰がロリ熊だっ! 僕らは十五なのだ! まぁいい、嫌でも君はこちらの世界に来たがるのだからな。多分、恐らくなのだ!」


「何故かすっごく不安げ!?」


 少し怒りを言葉に表したキリユウの『ロリ熊』と言う言葉に反応したコクとハクだが、コクとハクが十五歳だと聞いて三人は目を大きくして驚いていた。


「あれで十五か」


「歳を取っても小さい人は小さいんだからそんなに驚かないのぉ」


「おいそこ! 小さいとか言うな、全然フォローになってないのだ!」


「うみゅ? フォローなんかしてないよぉ?」


「なぁっ! ムカつくのだー!」


「そんな事いいから早くナギサちゃんとユウラさんを返せ!」


「ダメダメ〜だってそいつらは貴っ重な……食料なのだ!」


 コクの冷たく、低い言葉にその場にいた三人の表情を曇らせた。同時に『食料』とはどう言う事なのだろうか、と言う疑問が浮かぶ。


「どういうことだ! 食料って」


「ああ、正確に言うと『血』を食料とするのだ弱く戦えない者達は食料になるのだ!」


「……血?」


 疑問をコクにぶつけたキリユウは人の血を食料とする者など存在するのかと更に疑問が重なる。十五歳の少女の口から聞くには酷な言葉が飛び交うこの場は凍りつく様な息苦しさが広まっていた。


 十五歳の少女は悠然とした表情で酷な言葉を発する。それはこの場にいた者達の表情を強張らせる程残酷な想望を目に浮かばせる。


「さぁ、君達に残された時間はあと僅かなのだ!」


「君達の力を見せるのぉ」


 二人はあの小さな身体にどれ程の力を持っているのだろうか。

 コクが前へ出てキリユウ達を見下ろす。その瞳には光が差さない暗闇で生きて来たとでも言うかのごとく深く、闇の底まで引きずり込まれるような感覚に襲われる。


「はははっ、いいねぇ〜その顔。不安と恐怖に押し潰されるが良いのだ! 闇黒の豪炎火シャドゥ・エクスハティオっ」


 膨大な黒い粒子がコクの周りを渦巻き、一点に集中する。そこから生まれた黒炎の球は、肌を張り詰める程、大気を巻き上げ空間をゆがます。

 そして、黒炎の球がキリユウ達を襲う。


「ワンパターンなんだってのっ斬撃の疾風波ラフ・エアレイドっ」


 ルナの生み出した疾風は、空間ごと黒炎の球を切り裂く程のものだった。ルナの疾風が黒炎の球を断たった事にコクは、愉悦感を隠しきれない。


「ははっ、まだまだなのだ!」


「おい、何突っ立ってんだよ、キリユウ」


「いや、何も持ってない僕に戦えと?」


「その背中にあんのは飾りかよ?」


「そーだけど?」


「え?」


 ルナはキリユウの背に掛けてある身の丈ほどの黒剣を指すが、戦える者だと考えていたよで、唖然と立ち尽くす。


「何をしているのだ! 来ないのならこっちから行くのだ! 闇黒の爆裂炎シャドゥ・エクスプロード!」


 たちまち大気を巻き上げ、黒炎が刃のように空間を刻み、ルナを目掛けて襲う。地面は揺れ、爆音が響く。炎は燃え尽きる事なく辺りに散らばる。そんな炎の刃はルナに傷を与えていなかった。


「なっ!」


「キリユウ?」


 そう、キリユウが背に下げていた黒剣を盾にし、爆炎を散らしたのだ。


「まぁ、怪我人だし一応。僕としては安静にしてもらわなきゃだしね」


「なんなのだー! あの剣、錆びてんのに!」


「姉様、そろそろ母様のお食事も終わった頃なのぉ」


「そうか、そんじゃ君達を案内するのだ!」


「案内?」


「私達の母様になのぉ」


 コクの言葉を合図に後ろから大きな物が動く音が聞こえた。先程はなかった大きな扉が光ったと思ったら何やら古代文字の様な物が扉の側面に浮かんだ。


「な、何だよこれっ」


「さぁ、君達も来るのだ!」


「貴方達は私達の家族になるのぉ〜」

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