第1章4 『光のその先へ』

 蒼白い光は森の奥へと進んで行った。奥へと進んで行くと、だんだん蒼白い光が増えて行く様に感じた。森を抜けた先には一本の蒼白い光を纏った大樹と一面、光り輝く大きな泉が広がる場所へと、たどり着いた。ユウラを連れて行った光がその大樹へと帰って行くのを見ていたキリユウだが、ふと前を向くとそこに居るはずのユウラが見当たらないのだ。


「え! ユウラさんっ」


 見失ったユウラをキリユウは探す為、大樹へと近づくと蒼白い光が一斉に激しく光り輝き始めた。刹那、その光はキリユウの目をくらませる。後ずさるキリユウは足を踏み外し、大きな音を立て、水の中へと落ちたのだ。


 泉の水は月明かりを反射する。キリユウは無数の光る粒子の流れにのみ込まれていく。すぐそこに、手を伸ばせば届く水面。しかし、キリユウは水面へと向かおうとはしなかった。ただ、泉へと沈んでいく。

 この泉に底はあるのだろうか。光の粒子は上ではなく下へと続いている。キリユウはその流れに抗う事なく身を任せる。

 そこは何か懐かしいものを感じさせる様な泉。この中にいるだけで癒される、そんな感覚がキリユウを包む。忘れてはいけない事、思い出さなければいけない事、山ほどあるはずなのに身体中の力が抜け、何も考えられない、何も浮かばなくなる。全て忘れてこのまま泉にのみ込まれても良いだろうとまで思う程。


 そんな事を思っていると不意に何かが頭の中を横切った。理不尽にも我が子を連れ去られてしまったユウラ。仲間を守ろうと必死に抗い怪我を負ったルナやキャラバンの人々。国家剣術騎士団で国の人々を守ろうと必死に強くあろうとするシルア。全て忘れてしまおうと一瞬でも思った事がはなはだ決まり悪い。今までただ流されるのだけではなく抗ってみようと今ならそう思える。

 無数の粒子の中で一等光が神々しい一粒の光へ手を伸ばす。今まで鑑賞してこなかった光の粒を握り締めた時、手の中で熱く紅蓮に光り出した。刹那、頭上に水の膜があることに気づく。今度は迷いなく水面へと手を伸ばす。



 そこは泉の底ではなくなく酸素で満ちた空間であった。

 その空間は広大で先ほどより少し暗がであり、泉の時のように緩やかな沈没ではなく通常の落下速度へと変わる。ようやく終着点が見えた。その終着点とは、


「花ぁー!?」


 無数の大きな花がクッションとなり、何度も花に弾かれながら最後の花に、


「つぼみぃー!?」


 細長いつぼみを滑り降り、バランスを崩し仰向けに倒れ込むキリユウ。


「なっ何とか助かったぁ〜」


 花達に助けられ何とか着地に成功したことを安堵するキリユウ。先ほどの無数の粒子は消えており、通常の物理世界へと戻っていた。右手には先程の紅蓮の光が物体となって握られていた。そんなことを考えているとふと、周りを見渡す。


「って、ここどこだぁぁぁーっ!」


 安堵あんどしている場合ではなく、置かれた状況をのみ込めないまま唖然とする。


「は? 待てよ待て待て、どーなったんだ!? 僕どーな──」


「ぅみゅゅゅーっ!」


 奇妙な声を上げながら何かが上から落ちてくる。その物体とは何なのかキリユウには検討もつかない。


「はひぃ!? グゥハァっ」


 思わず目を固く閉じ、その物体をもろに食らって瞬時思考が停止するキリユウ。


「うみゅ〜うさぎさんどこぉ〜」


 急に落ちて来たと思ったら『うさぎさん』とはどういう事だろうか。恐る恐る目を開くとそこにいたのは、純白の肌に勿忘草の様に可憐で明るく何処までも見据える様な空色の瞳に、腰まである髪は見たこともない珍しい銀色をしている。そして、少女はキリユウの上でブツブツと何かをつぶやいている。


「のわっ!」


「うみゅっ!?」


 いきなりの事で動揺を隠せないキリユウは少女を乱暴に突き離した。


「君、誰? ここどこ?」


「うみゅ! フィアが知りたぁい! ところで君ぃ名前はぁ?」


「ああ、キリユウだ」


 自己紹介を終えたはいいが、何も進歩しないこの状況下に頭を悩ますキリユウとは裏腹に、フィアという少女は呑気のんきに花をいじっていた。

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