第1章2 『出会いは唐突に』

 ミトゥースの森は国と国との境に存在する森であり、旅人やキャラバンなどがよく通る為、いくつもの道がある。アルニルム王国からつながる大きな道を進んで行き、小道へと入る。小道は普段あまり使われない為、進むほど足場が悪くなる。水の流れる音が聞こえてきた頃、小道の先に小さな崖へと到達する。木に巻き付けられているロープを伝い、小さな崖を少しずつ降りる。

 先程まで生い茂っていた背の高い木々は途切れ、景色が目の前に広がった。草花が咲く野原、その中心には陽の光を集め、輝く小さな泉が広がっており、小動物達は泉の近くで昼寝をしていたり走り回っている。ここは生きるものの憩いの場となっているのだ。


「おっ、羊さん見っけ」


 泉の近くに咲く小さな白い花々。一つ一つ採取していく。この泉には他にも色々な草花があるのだ。出血を抑える為の薬草、『スタァートゥ』や傷薬に使う『ラーナ』、花や草を天ぷらにすると美味しい『ホラーゴ』。


「これくらいで足りるか。今夜の夕食はホラーゴの天ぷらで決まりだな」


 採取したハーブや葉薬を背嚢はいのうにしまい、立ち上がる。


『助けてっ』


「っ!?」


 小さな少女の叫び声が頭の中に響くと共に、視界が一変する。

 大地の粒子が一気に泉の向こう側、隣国へと繋がる道の先に吸い込まれていく。刹那、大きな地響きが身体の芯まで響く。


「何なんだ、今の」


 不審に思ったキリユウは震源を辿り、森の奥へと進む。ここから先は初めて行くキリユウだが叫び声と地響きは止んでおらず、その震源へと近づくほど揺れは大きくなるので方向は間違っていないはずだ。

 そして、震源へと辿り着いたキリユウは、木々に身を潜め、様子を伺う。そこは、広大な草原が広がっていた。キリユウの瞳にはその事よりも先に、目の前で起こっている、戦乱の跡の様に荒れた地と空に浮かぶ一人の『黒熊の幼女』が映っていた。


「お母ぁさん!」


「ナギサっ」


 黒熊の幼女は小さな女の子を乱暴に抱えている。恐らく、人質としているのだろうか。この状況を読み取ることは出来ても行動する事ができず、キリユウは足を止めてしまった。

 この戦乱は、すらりと細い身長だが大きな薙刀を操る黒髪と揺るがない漆黒の双眸を持つ青年と背丈からして八歳くらいの黒褐色こくかっしょくの髪に暗黒色の冷たく、鋭い印象の双眸を持つ空に浮かぶ黒熊の幼女との戦いだ。


斬撃の疾風波ラフ・エアレイド!」


「不満と恐怖に押し潰されるが良いのだ! 幻想の悪夢キル・ナイトメアっ」


 青年は空間をも斬り裂く位の勢いで薙刀を振り下ろし突風を起こした。青年の起こした突風は力強く、鋭いものだ。黒熊の幼女はそれに対抗する様に程膨大な力で空間をゆがませる程の黒く邪悪な黒炎の球を青年の突風へと投げ込んだ。

 凄まじい音を立てて風で膨大に勢力を増した黒炎の球が大気を巻き上げる。爆発が起き、青年はキリユウの目の前まで吹っ飛ばされた。青年はかろうじて回避したものの、腹部に複数の傷を負っている様に見える。

 ふと、空を見上げると黒熊の幼女は小さな女の子と共に姿を消していた。


「だっ、大丈夫!?」


 青年を起こし声をかけるが、脈を打つように血が吹き出す鮮紅せんこう色の血液を見て動脈性出血であろうとキリユウは判断し直ぐに止血を行う為、先程採取したスタァートゥの葉を背嚢はいのうから取り出した。キリユウの背嚢はいのうの中には応急処置がいつでも出来るよう、大体の葉薬や、包帯などが入っているのだ。スタァートゥの葉を直接、傷口に当たると消毒効果がある為、葉を青年の傷口へと当て応急処置をする。


「っ、誰だ? お前」


「通りすがりの者だよ」


「大丈夫かっ、ルナ! 君は……医者、かい?」


 キリユウが止血を行なっていると大柄な男が駆け寄りキリユウに問う。


「医療に関しては多少、知恵があります」


「そうか、助かる! 他にも怪我を負っている者達がいるんだ、悪いが手を貸してくれないか?」


「はい!」


 大柄な男は青年、ルナを背負い、荷馬車まで運ぶ。そしてキリユウも荷馬車へとついていこうと立ち上がる。


「ん? 何だこれ?」


 ルナのいた場所に小さな御守りの様なものが落ちていたのだ。御守りの右端にはご丁寧に『ルナ』と綺麗に刺繍されており、すぐに持ち主が分かった。その御守りは後で渡そうとポケットへと入れておき、荷馬車へと急いだ。

 三台の荷馬車には女、子供含め十数人の団員と売り物であろうこの辺では珍しい果実や果実酒が乗っている。この者達は、とあるキャラバンの集団の様だ。

 キャラバンが一斉に出立し、キリユウはルナの怪我を診ながら、揺れる荷台で手当てをする。

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